第三話 幽霊の巻


夕菜の転入騒ぎから数日後、男子達に知られることは無く過ごしたが安寧とした日常ではなかったとだけ語っておく、彼女が関わって安寧など一番遠い世界の言葉だろうから。

 

中々に波乱に満ちスリリングな日常を送る羽目に合っている。

 

そして休日、高校生である式森和樹がすることは概ね統一され、大体惰眠を貪るのである、勿論同棲相手のアル・アジフも同様に。

 

毎週のことだが休日前は和樹が張り切る為、もういい加減起きろよという時間にもかかわらず、まぁ、アルは休日のほうが何時もよりも睡眠時間は短いのだが、基本的に寝て過ごしている怠惰なロリペタ少女、寝る子は育つと言う言葉に真っ向から反逆している。

 

 

 

 

 

因みに同時刻、ある妄想暴走清純風武闘派少女の行動。

 

なんか伸びていた、軽く焦げてもいた、因みに少女の周囲にはダンボールがいくつも散乱していた。

 

結論から言うと、という脳内決定された事実に基づいて、和樹本人とはマトモに会話すら達成出来ずにいるのに全く懲りずに和樹の部屋にお引越しと称して自分の荷物を山ほど自分ごと送りつけようとしたのだが。

 

和樹のマンション、一応はアル=アジフが存在しているのである、古の魔書“魔物の咆哮”の化身、外道の集大成、外道の精霊、アル=アジフ、世界で最も有名であろう魔道書“ネクロノミコン”の原書。

 

対魔法結界は下手な核シェルター並みの防御力を誇っている。

 

つまりは無理矢理魔法で侵入しようとした夕菜はアンチマジックを喰らって叩き返されたと言うわけである、現在は前回の仲丸並みにミディアムレアに香ばしく焦げて目を回しており、復活には彼女といえど暫し時間を要しそうな様子だ。

 

因みに今回の彼女の出番、これで終了、台詞無し。

 

 

 

 

 

で、話は戻るが未だにおねむの二人である、いい加減に起きてもらいたいもの作者としても話が進まないから。

 

「うー、和樹もう駄目ぇ・・・・・・・ふにゃ、にゃー」

 

可愛らしい寝言ではあるが、やっぱり話が進まない、因みに何が駄目なのかは各自にご想像をお任せする。

 

しかし彼らの安眠もチャイムの音で阻害される、安眠の終焉である、まぁ、終焉しないと永遠に話が終わらないんだけど。

 

因みにその程度の雑音で眠りから覚めるほどこの二人の堕落っぷりは甘くは無いのだが。

 

 

 

 

 

で、安眠を阻害した主、風椿玖里子、しかし彼女、何度鳴らしても起きなかったので、何故か持っていた合鍵(供与元、麻衣香)で勝手に入り込んで、文字通りたたき起こした。

 

やっていることは不法侵入だが、ピッキングして入ってきた夕菜よりもかなりマシである、微妙に二人の寝姿に頬を染めていたと言うのは余談としておくが、しかし、いきなり、符で水を呼び出してぶっ掛けるというのはいかがなものだろうか、かなり心臓に対してデンジャラスな起こし方ではないだろう。

 

「うにゃぁぁぁぁぁっ!!

 

「がはっ、ごほっ」

 

二人の爽快で愉快な目覚めであった。

 

 

 

 

 

「で、何の用じゃ。朝っぱらから水まで掛けて遊びに来たとか言いおったら考えがあるのだぞ、色々と愉快な考えがのぅ」

 

濡れ鼠のままアルがジト目で玖里子を睨みつけるが濡れたYシャツ一枚では怖いというよりも幼い色気が溢れ出ていた。

 

その気が無い人間で、もしくは同性でも食指を伸ばしそうな可愛らしさなのだから怖いと言うよりは自分の欲望のほうが怖いだろう、襲いそうで

 

玖里子はそんなアルの様子などどこ吹く風といったところで、それでも出した水を符で吸い取ってはいたが、内心、その気の無い筈の玖里子が怪しい欲望にとらわれそうになって、それを振り払うのに必死だったらしいが、因みに彼女の性嗜好は至極まともである。

 

ロリの人相手だったら完璧に拉致られるかもしれない、アル。

 

玖里子の内心の葛藤はこの際どうでもいいとして、アルの睨みに対しての回答を言葉にする、何も本当に遊びに来たんじゃないんだから。

 

「和樹にお仕事よ、魔道探偵式森和樹に」

 

 

 

 

 

「風椿様、御用向きは何で御座いましょう」

 

一瞬で先ほどの起こし方に対する不機嫌な視線を向けていた和樹が、手のひらを返したように、卑屈に玖里子に対応している。

 

一重にある一つのことが原因だったのだが、ある意味ここまで卑屈になれるのは駄目人間の証左だろう。

 

「あんたって、そんなにお金がないの」

 

その問いに和樹は営業用の安っぽい笑みで答え、アルはそんな自分の主をどこか情けなさそうに見ていた、何気に和樹の貧乏の原因の一つはアルなのだが自覚はしていないだろう。

 

「ま、いいわ。私も姉さんのお使いだし、ああ、仕事料、これだけだって」

 

呆れた様子から、仕事は仕事と指を二本立てて報酬を示す。

 

「ん、いくらじゃ?」

 

「諭吉さん二十枚」

 

玖里子の報酬の額を聞いた瞬間、手のひらにキスでもしそうな勢いで玖里子の手をとり跪く和樹、完全に金の奴隷である、人間だから悪いとは言わないが、金に負けても。

 

「犬とお呼びください」

 

ここまで堕ちるのは如何なものだろう、そこまで金がないのだろうか、いや無いからここまで卑屈になれるのだろうか。

 

やっぱり、アルはそんな和樹の様子が嫌そうだった、金がない一因は当のロリ少女が原因なんだが、生活費とか家賃とか、我が侭とか。

 

そんな和樹の様子に若干怯みながら。

 

「そ、そう、本当にお金ないのね」

 

声と共に向けられる微妙に哀れんだ視線が痛い、そんなものもう和樹は気にしてないだろうけど。

 

気にしていたらここまで卑屈にはなれまい、プライドとかその辺が邪魔して。

 

 

 

 

 

で、仕事の話に移る、探偵なんてヤクザな商売をやっている和樹なので、事前情報はかなり重要、隣でアルも着替えて話を聞いているので和樹の仕事には彼女も参加するのだろう。

 

「仕事は、家で買った物件なんだけど。工事しようとすると色々変な事故が続くのよ。確証は無いんだけど何か幽霊がらみらしくって、怪我した作業員からも幽霊にやられたって言っているし。でもうちとしても早くその物件の工事をしないわけにはいかないのよ。だから調査と、本当に何か居たらそれを追い出してってことね。出来るだけ早いうちに、今日中だと報酬25%アップ」

 

話の内容からは玖里子の家絡みで恐らくその関係のトラブルだろう、玖里子の話ではその物件を早々に解体して更地にしてしまいたいらしい。

 

「まぁ、悪くないのではないか、和樹よ」

 

微妙に貧乏の原因の自覚はあるのか、口では和樹の情けなさを非難せず仕事の内容を口にする、和樹の態度に文句を言っても金が増えるわけでもなし、虚しいだけというのは判っていることだし。

 

「ま、ね。でもその程度のことで僕のとこに来るってことは、やっぱ強力なんでしょ、その物件に居る何かって。確証が無いって言っていたけど、殆ど黒なんだろうし」

 

一応、といっても金がないので断れないのだが、内容の再確認。

 

「ん、力はそこそこ見たいね、うちの派遣チームも返り討ちにあっているし。でも怪我人は居ても、死人は無し、重傷者も骨折程度ね。それほど凶悪ってわけじゃないんじゃない、何か只追い出されるって感じで。姉さんも単純に急いでるって感じだったから、その通りなんじゃないかしら。まぁ、凶悪じゃないから依頼内容が祓えじゃなくて追い出せなんだけど」

 

最後に幽霊でも無理矢理祓うのは気分が悪いでしょ、と付け加える玖里子。

 

「まぁ、お受けしましょう、断る理由も無いですし(正確には断れる状態ではない)。じゃ、アル行くよ」

 

最後の玖里子の台詞が気に入ったのか、和樹が微妙に好意的な表情をして玖里子に返事をして、相棒=アルに出発を促す。

 

アルも、心得たもので、既に玄関で靴を履いていた。

 

「もう行くの?」

 

その行動の早さに玖里子が突っ込むと。

 

25%アップは惜しいんですよ」

 

答えは単純、貧乏が生む労働意欲であった、普段からこまめに働いていたらここまで困らないんだろうけど、ついでにここ最近の依頼人、麻衣香(払いがいい)が数件とほかごく少数である。

 

何気に風椿家、和樹の生命線を握っている、実質和樹の卑屈さの原因は自分が風椿の犬であることを自覚していたのかもしれない。

 

 

 

 

 

ジーパンにロングTシャツと普段着で、これまた白のミニドレスという普段通りのいでたちのアルと連れ立って、玖里子に聞いた場所に向かって行くのだった。

 

まぁ、この二人が戦装束を纏うことは滅多に無いのだから普段着で十分といったところか。

 

 

 

 

 

ついでに途中で腹が減ったと騒ぐアルのために行きつけの喫茶店に寄ってからであったが。

 

その喫茶店で、開口一番。

 

「マスター、めしー」

 

「めしー」

 

と傍若無人の限りを尽くして入店する、ほかに客がいないのをいいことに、いてもやらないわけではないが、真に迷惑な客だろう、それ以前に客なんだろうか。

 

「うわーい、毎週毎週休日になったら来やがって、さも当然のようにご飯食べにくる子がいるよー。ここはあなたたちの無料配給所じゃあないんですよ、この社会の脱落者候補たち。そんなことじゃ立派な社会人になれませんよー、和樹ちゃん。あははは、もうすでに脱落者でしたね、このロクデナシ」

 

見た目清楚な金髪のお姉さんライカの口から飛び出した辛辣なお言葉、でもそんな暴言にも慣れたのか、そんな文句あっさりブッチして、カウンターに座っている。

 

ふてぶてしい限りだが、和樹にとっては既にコミュニケーションの域だ、この程度。

 

気にしていたらツケと言う名目でただ飯を食らえはしない。

 

「きっついねー、マスター」

 

「マスターじゃないです、ライカさんです。アルちゃんはライカお姉ちゃんでいいからねー。

後言われたくないのなら、お金払ってね、和樹ちゃん」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

あっさりあさっての方向を見て誤魔化そうとする和樹、そんな金があるなら、この辛辣な言葉にメンタル面のダメージが限りなくゼロになるまでたかったりしない。

 

最初はこれでも結構心に来ていたのだから、多分。

 

「で、マスターめしー」

 

「めしー」

 

開き直ったのか再び口を開く和樹、どうでもいいがアルが行儀悪くなった主原因は絶対に和樹だろう、めしーと連呼する美少女も健康的でいいとは思うが、女の子なんだからもっとこうねぇ。

 

「アルちゃん、やっぱり家の子にならない、この人生転落、女ったらしに付いていったらいいように貪られちゃうぞ。このロリコン変態野郎、マスターじゃなくてライカさん」

 

最後だけ和樹に向けて飛ばしてくれる、それはもうはっきりと。

 

「なんか機嫌悪くない、ライカさん」

 

何時もより若干キツイと感じたのが、それでも対して気にしていないような口調で和樹がライカに質問する。

 

「悪い、毎週二回やっとモーニングの客が引いたなぁと思った矢先に狙い済ましたようにやってくる近所の困ったちゃんのせいで、別名ロクデナシ、とついでにあれ」

 

と、ライカさんが指した先には、見なかったことにしよう。

 

何で休日の朝から、あんな名状しがたいものとつきあわにゃならんのか、御免こうむる、それが和樹とアルの心理だろう。

 

緑と白の物体、早く言うとドクターウエスト、この喫茶店チャペルの常連の一人である、ついでに和樹の隣人。

 

本人は和樹を無二の友と主張し和樹はゴキブリ並の無価値さと有害さがあると主張する、もしかしたら案外中がいいかもしれない二人。

 

ライカ曰く、お金払ってくれるから迷惑度は目の前にいるロクデナシとどっこい、方や無銭飲食常習犯、方や存在だけで他の客を引かせる珍客。

 

それを後日聞いたときはさすがに心に傷を負った、あれと同列視は結構くる。

 

まぁ話題にあがっている○○○○が何をしているかというと、寝ていた。

 

そりゃもう完全無欠に、一遍の曇りなく完璧にテーブルに突っ伏して。

 

「開店直後に来てから、モーニングひとつで粘っているの、ついでにコーヒー11杯も飲んで」

 

この店コーヒー何杯でもOKというサービスをやっていたついでに開店は8時、現在11時。

 

実に三時間、480円のモーニング一つで、迷惑な客である。

 

個人的に言うとラストオーダーの後閉店ギリギリまで粘る客と同義(個人的な文句が出ました、失礼しました)

 

「さっきまでエルザちゃんがいたから、それだけでお客さん来てくれたけど、あれだけじゃ価値ないの」

 

一拍おいて。

 

「だから追っ払って」

 

笑顔でライカが和樹に言う、ウエストの価値はエルザだけですかライカさん、何気にかなり酷いことおっしゃってないですか。

 

因みにエルザは博士の相手は飽きたロボとか言って、どこかに行ってしまったらしい。

 

見た目だけなら美少女なので客寄せにはなるだろうが。

 

「只で?」

 

「現在ツケが7万とんで329円、耳そろえて払ってロクデナシ」

 

「ご命令を」

 

やはり卑屈だ、ここまで卑屈になれるのは一種才能のような気が激しくする。

 

だが、ライカも和樹の使用方法をいいところで心得ているようだ、何気に悪女である。

 

「ん、よろしい、裏に捨てておいていいからお願い・・・・・・・・・今度は夜きたらサービスしてあげる」

 

最後の呟きのイントネーションがかなりいやらしい。

 

ついでに、チャペルの閉店時間は16時だったりする、つまり夜間営業は無いのだが、何をサービスするんだろう。

 

因みにこの誘いを断ってもライカは不機嫌になりツケの支払いを求めてくるのだから、正しく悪女の称号がライカには相応しいのだろうが。

 

誘いの内容は、まぁ、深く究明する必要は無いだろう。

 

おそらくその巨乳を超えた爆乳でのご奉仕かもしれない、口では一方的にボロクソに言いつつ、やることはやっている二人らしいから。

 

和樹は早速ウエストの白衣のエリを引っ掴み、障害物など全く考慮に入れずに裏口に向かって連行していく、実際にウエストの排除にしろ、ライカの夜の誘いにしろ和樹にそれほどの拒否権は与えられていないのだから。

 

只、和樹がいない間のアルのライカを睨む眼光が痛かった。

 

「ライカ、やらんぞ」

 

「たまに貸してくれればいいのよ、アルちゃん」

 

貸すのは構わないのだろうかアル、独占を諦めているだけなのかもしれないが、和樹の浮気性の強制は不可能と判断して。

 

まぁ、自分が和樹の一番であることは絶対に譲らないだろうが。

 

 

 

 

 

で、ウエスト、どうやら眠りから昏倒に移行したらしいを放り出して。

 

和樹が誤って思い切り柱にぶつけてしまったせいだが、その辺のことは難なくスルーして、どうせその程度の怪我でどうこうなる人種ではない、頭部から流血していても。

 

何事も無いように和樹はカウンターに戻って、何事も無いような顔でブランチを食べる。

 

和樹はハンバーグセット、アルはライカ特製サンドイッチ、メニューに無い豪華版+パフェ特大。

 

このメニューは和樹貸し出しの賄賂のようだ、浮気を赦すが只では赦さない案外ちゃっかりしている外道の精霊である。

 

 

 

 

 

追記するとその夜、チャペルの二階部分、ライカの私室からは、妙齢の女性の艶やかな悲鳴が響き渡ったとか渡らないとか。

 

なお、4ラウンドでライカは気絶し、起きたところをさらに3ラウンド致されたらしい、翌日のチャペルの開店時間が昼からになったのは、完全に和樹のせいであったが、ライカはしばらくご機嫌で、腰に丸みを帯びていたようだ。

 

因みに和樹君はかなりライカには鬼畜な欲望をぶつけるようだ、ライカのお好みでもあるらしいが、特にその巨乳に対して。

 

 

 

 

 

で、その後、風椿の依頼もこなさんと、ということで。

 

大体、仕事をこなさないと生活が覚束無い、預金の残高は涙が出るほど慎ましやかなのだから。

 

「と、ここか」

 

和樹達の目の前にあるのはかなり古い煉瓦造りの洋館で、蔦が絡まっており立派なつくりではあるが完全に廃墟だろうと言う状態、門の前には風椿不動産の看板が架かっており、立ち入り禁止と書いてある。

 

風椿系の企業の所有物と言うのは間違い無さそうだ、確認するまでも無いことだろうが。

 

「ふむ、ぼろいのぉ」

 

「なんか出そうな雰囲気ではあるね」

 

率直な感想ではあるが、完全に見たまんまだろう。

 

「入らんとどうしようあるまい、入るか」

 

「そだね」

 

と預かった鍵を使って和樹達が門を開け玄関から入るが、中はやっぱり荒れ果てていた、辺りに埃が積もっているが所々に足跡や、埃が薄まっている場所があるから最近人が立ち入った印象はるし、不自然に荒れている感じも受ける。

 

その中を特に何の警戒も無く歩んでいく二人、君たち警戒心無いのかね。

 

それとも警戒するまでも無く自分の実力に自信を漲らせているのか、恐らくは後者なのだろうが。

 

「しかし、こんなに広いと探すのも手間だな」

 

「向こうから来るのではないか、みな返り討ちにあったのじゃろう」

 

と、口だけはちゃんとしたこと言っている様で、無警戒にドンドン中に入っていく。

 

警戒心も無いのかもしれない。

 

で、暫く歩き回っているが特にこれといって何かがいるわけでもない、やはり不自然に壁や家具が壊れている様子があるので何かが争った様子は見受けられるのだが。

 

どうにも姿や気配と言うのが明確にはつかめない、この感覚を感じた瞬間和樹達は何かがいると言う前提で探しているのだが見つからない。

 

「気配はするんじゃが、どこにおるやら」

 

「先程から、五月蝿いのぅ。何用じゃ。妾の寝所にみだりに立ち寄ったからには相応の覚悟があろうな」

 

アルが呟いたとき、前に前時代的な服を着た、背の低い半透明の9歳ぐらいの女の子の幽霊、エリザベートが唐突に現れた、純正のゴシック・ロリータ?

 

只、下半身が床に突き刺さっている光景は些か怖いものがあるが、何かそれっぽくて。

 

 

 

 

 

「何用・・・・・・・・・・・・」

 

とエリザベートが再び何か言おうとして、口を開いたと思った瞬間、途中で口籠って。

 

和樹のほうを凝視し、ノンブレスで。

 

「お兄様ああああああぁぁぁぁぁっ」

 

と叫んで、一足飛びで和樹にダイブした。

 

それはもう顔をピンク色に染め目をギラギラ(キラキラではない)として、まるで獲物を狩る豹のような鋭い動きで抱きついて、顔を和樹の胸にこすり付けるようにすがり付いている。

 

突然の行動に呆気に取られたアルはこの突然の行動に反応(つまり撃墜)出来なかった、因みにアルは和樹より前を歩いており、エリザベートは彼女の横を駆け抜けて和樹に抱きついていたのだ、それだけ素早い行動だったということだろうが。

 

だがアルが振り返った瞬間。

 

「汝、何をしておるか!!!

 

と顔を真っ赤にして般若の表情で怒り狂った、まあ、怒らないわけがない、和樹に飛びついたエリザベートは、アルの視点で和樹の首からぶら下がり和樹と濃厚なキスをしていた。

 

それはもうお子様なフレンチキスではなく熱い男女の唾液の交換を伴う口付け。

 

くちゅ、ぺちゃ、ぴちゃ、ちゅっ、ぴちゃ・・・・・

 

と怪しい水音さえアルの耳には届いていたのだから、幾らなんでも、切れる、怒る、そして被害は和樹に行く、自然の定理である(作者の意志)、勿論もう一人の発生源にもその怒りの矛先が向くのも自然の定理だろう。

 

アルの怒りが勃発して周囲に破壊の嵐が吹き荒れたのは言うまでも無い。

 

 

 

 

 

数分後、妙にボロボロ、生存を疑うレベルになった和樹の傍らで当のエリザベートとアルが、殺す笑みを浮かべて睨み合っていた。

 

「お兄様をこんな風にしおって覚悟はよいな、小娘」

 

「妾の旦那をどう扱うと、妾の勝手じゃ、痴女は黙っておれ。祓われたいか、死にぞこ無いが」

 

互いに小さな体から鬼気と呼べそうな気配が立ち上らせて睨み合う、二人のロリペタ、背中にそれぞれ竜と虎を背負って、目から火花を散らして。

 

かなり辛辣な舌戦を繰り広げていた、因みにこの二人口調が似ているので区別が非常に難しいので、詳しい舌戦の内容は省くことにする。

 

只互いに武力行使は辞さなかったとだけは明記しておこう、その被害が誰にいったのかも。

 

 

 

で、三途の川の一歩手前まで行ってたんじゃないかって程度の攻撃を喰らった和樹君、原作波のタフネスを発揮してあっさり復活。

 

復活しないほうが幸せだったかもしれないが、復活してしまったのでこの半修羅場化した空間にて彼を中心にして二人の間に発生していた瘴気が和樹に襲い掛かってくるのは間違いないのだから。

 

だって、和樹が気づいたときの第一声が。

 

「和樹、この古臭い小娘は誰じゃ」

 

「お兄様、このロリペタ小娘は誰ですか」

 

これである、和樹君本人としては気がついた瞬間に意識をもう一度失いと思ってもその願望を抱く程度は赦されるだろう。

 

飽くまで抱くだけで意識を失うことは赦されていないが。

 

「誰がロリペタかっ!!この小娘」

 

「妾とさほど変わらんのがその証左じゃ、見た目の年は上であろうが」

 

どうやらエリザベートはアルが人外の存在であることは気がついているようだ、でなければ見た目の年齢などと言うまどろっこしい表現は使わない、だがそれを気にしてはいないようだ、自分も人外故か、それ以外の理由があるのか。

 

流石に実際の年齢と正体までは見破れていないようだが。

 

「くっ、しかし和樹の寵愛を受けているのは(こんなときだけそれを認める、これも沙弓の教育、見知らぬ女ならこれで引くと教えられている、あらゆる意味で。確かに引くだろうが和樹の評判凄いことになると思う)妾じゃ、今の今まで捨て置かれた、汝とは違うわ」

 

と、微妙に悪辣な笑み(アルが、アルが悪女に、あ、いいかもそれはそれで)を浮かべ。

 

その客観的な事実を言われた幽霊少女は悔しさをにじませた目で和樹に視線を移し、薄っすらと涙まで浮べているのでアルの言葉はそれなりに効いたのだろうが。

 

それを見てアルは内心、勝った、と思ったかどうかは別の話ではある。

 

「それは仕方ないのじゃ。妾には役目があったので暫くは近くには居れんかった仕様がなかったのじゃ。それが無ければ今頃小娘ではなく妾が傍に居ったのじゃ。それにお兄様は妾に会いに来てくださったではないか、妾がお兄様にとって必要な証左ではないか」

 

ちょっとばかし都合のよい解釈をしているようだ。

 

「ふふん、会いに来たのではないわ、祓いに来たのじゃ」

 

なんとなく苛めっ子の勝ち誇り方のようにも見える、でもマジにこの二人の口調は似てるなぁ。

 

どうでもいいが、子供の口喧嘩以上のものではない、というか幼女二人(勿論これから増える)の三角関係、というかすでに何角形なんだろ(さて幼女だけで何角まで行くことやら)に嵌まっている和樹って一体。

 

まぁ、その辺は自業自得というか、そういう星の下に生まれてきたと思い諦めるか、どっかにいるかもしれない神様(GSでのキーやんあたり)に呪詛でも呟いて我慢してもらおう。

 

どうせ、どっかで笑ってみているかもしれないし。

 

まぁ、殆ど身から出た錆なのだろうから神様の介在する余地はないだろうが。

 

「お兄様、そうなのですか」

 

「そうじゃな、和樹」

 

更に目を潤ませた涙目のエリザベートと据わった目のアルをみて和樹は思った、さようならまともな体、こんにちは入院生活というフレーズが浮かんだ和樹だった。

 

まぁ、その後喧々囂々の論争が繰り広げられ、互いが武力行使に走らなかったのが奇跡に近いのかもしれないが、両者ともそれほど気の長い娘ではないのだから。

 

一応は納得してくれたのは和樹にとっては僥倖だったろう。

 

 

 

 

 

因みに和樹がエリザベートに説明している間のアル=アジフ(祓いに来たのではなく調査と問題解決だという事の説明を余計なことをいいおってと言う目線で)の睨みに和樹は晒され続け。

 

この二人なまじキャラが被っているから互いに近親憎悪でもして仲がよく成れないのかもしれない、その手の事情を気にしてたら何も始まらないが。

 

 

 

 

 

そしてエリザベート側の経緯も聞くことになる、エリザ(これ以後エリザと表記)は仕事が終わったので和樹を探しに来たらしいのだが、学校の寮にはいないし、和樹が今住んでいるマンションの詳しい住所が判らず、最近夜な夜なこの界隈を徘徊して和樹の部屋を探し回っていたそうだ。

 

工事の邪魔をしていたのは、自分の寝床の維持と、安眠中の自分を妨げたと言う軽い怒りの発散だったという、まぁ、力の加減はしていたらしいので派手な怪我はさせていないらしいが、骨折したのもエリザではなく驚いて走って逃げたときに転んで折れたらしい。

 

本人は軽く小突くか驚かした程度しかしていないのじゃからな、とか言っていたので確かだろう、和樹に問い詰められて嘘をつけるような娘でも無さそうだし。

 

この廃屋から出て行くのも目的の和樹が見つかったのだから留まる理由もないとばかりに、あっさり承諾。

 

「では、お兄様の家に世話になるのじゃ」

 

と、和樹の家に世話になろうとするがその辺はどうも相性のよろしくないアルの熱烈な反対にあい、結果として人外怪獣大決戦第二回戦が勃発。

 

因みに一回戦とは比べ物にならない程のものだったとか。

 

流石に和樹が、生命の存続の危機を覚えてアルをなだめてエリザをあやしてこの人外決戦は止めさせたのだが、必死の説得を持って。

 

結果としてはエリザとの同居は無理、風椿邸へ和樹が頭を下げて預かってもらうことになるのだが。

 

 

 

 

 

只風椿家に引き取られる条件として、二十五パーセントの追加報酬は無し、どころか二十五パーセント削減、手元に残った十五万円の殆どは機嫌を悪くした和樹の自称正妻、アル=アジフの機嫌を取るために使い尽くされたそうな。

 

仕事をしても貧乏生活脱出できず、少し哀れな和樹君だった。

 

只買ったものがアルの嗜好品、衣服類、菓子類、漫画類、ゲーム類だったが、この衣服類と言うのは和樹の趣味がかなりの範囲で反映されていたりする。

 

セーラー服とか水着とか、ナース服とかチャイナ服とかその他諸々、その衣服類の使用用途は言うまでもないだろう、和樹君の個人的嗜好の充足に使われたことは言うまでもない。

 

アルも微妙にコスプレ好きなので余り問題がない。

 

 

 

 

 

で、エリザが引き取られた後の風椿邸。

 

薄ぼんやりとした明かりしかない空間で開かれる幽霊と妙齢の女性の密談もとい禄でもないことの会談、何故薄ぼんやりとした蝋燭の火で明かりをともしているかと言うとそちらのほうが雰囲気が出るとのことだ、何の雰囲気かは知らないが。

 

エリザは幽霊だからさぞかし似合うのかもしれないが。

 

で、密談内容。

 

「麻衣香殿、お兄様を我らの手に取り戻しましょうぞ」

 

「ええ、私達の可愛い坊やを取り戻さないといけないわ」

 

どうやら式森和樹ロリペタから奪還計画を話し合っているようだ。

 

どうでもいいが麻衣香、坊やといっている時点でショタっ気確定?

 

「「あの骨董品(ロリペタ)から我等の元に」」

 

互いに見つめあい握手をして協力を取り合っている。

 

傍目には。

 

傍目には結束している風には見えるのだが、決定的にその目線が、その目が、表情が、取り戻す瞬間までの結束であることを感じさせる。

 

互いに信用はしているが信頼はしていないと言う表情と言うべきか。

 

最後の最後で裏切りを企んでいる表情と言うべきか、まぁ、そんな表情だ。

 

そんな表情が出来るあたり、この二人もかなりマトモな人種からは外れている正確を保有しているようだ。

 

このSSに出演している時点で元もな性格と言う期待はかなり的外れなのかもしれないが。

 


後書き

ライカさんとエリザベート登場編です、ライカさんと知り合った経緯とか、エリザと過去何があったのか複線張りまくりです。この複線を消化できるように頑張りたいんですがどうなることやら。因みに作者はライカさんはかなりお気に入りのキャラなんですが、初めてこのSSを書いている時点ではデモンベイン自体を小説でしか知らなかったので登場していませんので加筆後の登場キャラとなっています。

 

因みにページの増量は初期の頃と比べると80%増しぐらいです、これは改訂第3版ですので

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