第四話 凛ちゃんの巻


 

 

 

 

和樹が一人で(今日は沙弓が部活でいない)学校から帰るとき前方で妙にキョロキョロした小柄な少女、神城凛、因みに既に和樹の毒牙に掛かっていると考えられる少女でもある。

 

只、その様子ははっきり言って突然振り向いたり、キョロキョロ辺りを見回したりと挙動不審で怪しいこと極まりない。

 

もし美少女ではなく、男だったら問答無用でお巡りさんに職務質問というような怪しさだ。

 

時折左右を見渡し後ろも振り返るのだが、しかもかなり鋭い目線で、しかしこちらには気付いていないようだった、というか、どうもそんな余裕はありそうにない。

 

周囲を観察はしているのだが、特定の何かに注意を払っていてそれ以外には特に注意を払っていないのだろう。

 

それほど離れていない和樹の存在に気付かないのもその為だろうと考えられる。

 

興味を引かれたのか、まあ普通見かけたら声ぐらい掛けるだろうが一応自分といい仲の女の子に会ったら、と和樹は凛に声を掛ける。

 

興味を引かれたのも事実らしいのだが。

 

「凛ちゃん、どうしたのキョロキョロして、何かあったの?」

 

と何気なく声をかける。

 

それに凛は異常ともいえるくらい身を震わせ、猛烈な勢いで振り向い手は知り寄って来たかと思うと、刀を抜き、和樹に切りかかろうとして・・・・・・・止まった。

 

危ない距離ではあったが。

 

「し、し、式森先輩でしたか、も、申し訳・・・・・・」

 

と激しくドモリながら、手に持った刀を背に回し謝罪する。

 

まぁ、切り掛かって謝らないのは問題だが、切り掛かるのが既に問題である気もするが其処はそれとしておいておこう。

 

言及してもきりがない。

 

「どうしたの()

 

和樹は微妙に声が震えつつ、僅かに切れた頬を撫でる、本当に微妙なところだったらしい、皮一枚といったところか、薄っすら赤い筋が出来ているあたりがそれを窺わせる。

 

「大丈夫ですか、式森先輩。本当に、あの・・・その申し訳ありませんでした」

 

平身低頭といった言葉を体現するように頭を下げる凛ちゃん、腰が九十度くらいにまで曲がっていそうだ。

 

「えっと、大丈夫だから。凛ちゃん、どうしたの。今日ちょっと様子がおかしいみたいだけど」

 

まぁ、日常的な様子で切り掛かるような習慣は持ち合わせていないだろう。

 

それだけで尋常ではないことは判りすぎるくらい判る。

 

只、その質問を和樹がしたとき凛は少し黙り込み、凛は刀を鞘に戻し、あたりに静寂に包まれる、顔を真っ赤にして上目遣いで和樹を見上げてくるが特に何か言ってくるわけではない様子の凛だが、意を決したのか。

 

僅かに俯いていた顔を上げて口を開いた。

 

「式森先輩」

 

「何?」

 

それなりに真剣な口調で問いかける凛。

 

「その、これから少々お手伝い願えないでしょうか、ご迷惑とは存じますが。式森先輩の力が必要なのです」

 

「いいよ、凛ちゃん。でも何か厄介なことでもあるの」

 

ここまで丁寧な頼み方をされれば確かにそれなりに厄介な頼み事だと類推しても間違いではあるまい、実際にそうなのだろうし。

 

凛は言い辛いのか、口ごもって、それでも言葉を紡ぐ。

 

「その・・・・・・・・・・・・これから来る相手をともに倒してくれないでしょうか。

速く、俊敏で、強いのですが、式森先輩は私の背後をお願いしたいのです、それとあの・・・・・・・・」

 

ちょっと口ごもりながら、何かを続けようとするが、凛は弾かれた様に顔を自分の背後に向けて。

 

「来た!!

 

その場を飛び退き。

 

即座に腰を落とし収めたばかりの刀を抜き放ち身構えた。

 

瞬間、少し離れた木の上から影が飛び出してきたと思ったら、その影は凛に向かって恐ろしい鋭さで拳を放ってくる、凛、和樹も何とか反応するが、人間の反射速度を超えたスピードの攻撃が凛に集中し加えられる、それは凛が捌ける限界を超えている。

 

それは分かったが、和樹にはこの攻撃に必殺の殺気が無いことも見抜いていた。

 

この襲撃者は攻撃を直撃させる気が無い、速度こそあるが気の抜けた攻撃当たったところで致命打にはならずいいところで痣になる程度だろう。

 

だが早いだけの手打ちの拳といえど、数で打たれる攻撃は凛には捌けない、苦し紛れに距離をとろうと後ろに飛び離脱しようとするが、追撃するように再び飛び掛る影に凛は苦し紛れに刀を逆袈裟に切り上げる、が、より身を低くしてタイミングをずらして影が凛のサイドに回りこむ。

 

動きも玄人じみている、凛の利き手とは逆のほうに回り込み死角を狙う。

 

一枚も二枚も凛を上回る体術の使い手、いやこと速度に関しては何枚も上だろう。

 

影の動きを予測し和樹は取り出したナイフを投げ放ち、動きを食い止めようとするが、それでも影はそのナイフの回避動作をそのまま上方への跳躍に移行する。

 

空中に居る影に対して凛が突きを、和樹が投げナイフを投じる、普通上に跳ぶのは愚の骨頂、空中では姿勢制御が困難であるから。

 

だが、もう一段空中で体のバネのみで跳躍し更に上方に飛び上がる、信じられない身のこなしだった、人外とかそういうレベルではなく純粋に。

 

このような動き、化け物であろうと易々と出来るものか、理論上出切る筈ではあるが飽くまで理論、動物が体現できる動きでは最上位のものだろう。

 

この後さらに空中でもう一段、今度は下方向に跳躍し凛の上空から下に向けてさらに攻撃をする、休む間無く攻撃を続ける心算なのだろう。

 

影は空中からの一撃で凛の刀を弾き、それを奪い和樹に突きつける、奪ったところで凛は足を払われ地に伏せて完全に死に体を作らされている。

 

奇襲とはいえ完全に二人掛かりで敗北。

 

で、奇襲してきた当人、二十歳前後の青年で背が高く、茶色の長髪を後ろで束ねている男。

 

青年は凛にのぞきこむような体勢で。

 

「まだまだだね、凛」

 

「くっ」

 

凛は悔しげに表情をゆがめ、青年は柔和な微笑で答える、突きつけていた剣先を下げて。

 

「それに式森君だったかな」

 

「はい」

 

突然話を振られて、少し驚きつつも、どうも二人の様子でそれほど警戒しなくてもいいと判断した和樹は気を静めて答える、戦いの興奮がいまだ残っているのか若干表情が普段と違ったものになってはいたが。

 

で、青年の自己紹介。

 

「僕は神城駿司、一応凛の保護者ってところかな」

 

「誰が保護者か!!このサディストめ!!!

 

駿司と名乗る青年の自己紹介は駿司の足の下で踏みつけられている凛によって断固として否定されていたりする、只、足の下では否定しても迫力の欠片もないが。

 

「えっと、失礼ですが、人狼ですか?」

 

「そうだが、よく分かったね」

 

その凛をほっぽって会話を続ける和樹も案外酷いかもしれない、どいてあげるように進言するぐらいしてあげてもいいだろうに。

 

まぁ、そのまま会話は続けられるのだが、男二人で足元に踏みつけられた女の子、中々犯罪チックな匂いがぷんぷんする光景である。

 

「まぁ、なんとなく」

 

それから暫く世間話のような状況説明を駿司がしつつ、その説明が終わる頃に凛が駿司の足の下から開放されたようだ。

 

 

 

 

と彼の話を要約すると、彼が凛の剣の師匠で、凛の実家の道場から命じられて凛を連れ戻しに来たけど、凛が嫌がっているということらしい。

 

「誰が戻るものか」

 

勿論断固拒否する凛。

 

「で、式森君、君が本家が凛に言った婿?」

 

微妙に駿司の目が怖いものに変わったのは何故だろう。

 

しかも和樹にとってどうも普段身近にある目の種類のような気がするのは、もしくは嘗てかなりの緊張を強いられた視線と同一に感じるのは。

 

何より意表を突かれたのは、率直な質問だったが。

 

「は?」

 

突然そんなことを問われ、何と答えようかと和樹が答えるより早く。

 

「違う!!式森先輩はその、そういうのではなく、もっと・・その・・・・・・何を言わせるか!!

 

と、凛が顔を真っ赤にして叫ぶ。

 

だが、その叫びに呼応して(和樹視点)駿司の目が更に怖くなる、というか和樹に物理的な圧力を突きつけている。

 

どうもある人と同じ目をしている、そう和樹の中で危険信号が盛大に鳴っていた。

 

「じゃ、婿と言う話はお流れだね。だったら本家に帰らないと。式森君の遺伝子をもってかえってくるんだったろ。出来ないならば、本家で修行したほうがいいだろうし」

 

和樹が体感している圧力の話は置いておいて、凛と駿司の掛け合いが続いている。

 

「ま、待て」

 

「我侭言わない」

 

「嫌だ」

 

俯いて小さな声で、隣に居る和樹をちらちら見ながら。

 

手をかたく握り締めて、何かを決意したように一瞬和樹を見て。

 

口を開いた。

 

このとき和樹の苦難は確定した、というかこのときある人物達に見られていたのが運のつきというか、白昼の公道の真ん中で戦いなどやったら注目を浴びないほうがどうかしてるぞ、という突っ込みはおいといて、和樹の苦難ははじまったのだ。

 

女難の方向に、以前からそうだった気がしないでもないが、ここ数日は格別的に女難が加速する方向性に。

 

 

 

 

 

目撃者、その一

 

純白ミニのドレスを着た、銀髪のロリペタ美少女、自称、式森和樹の正妻、連れ合い、ワイフ。

 

「う〜ん、今夜はなにがよいかのぅ。和樹は煮物系が好きじゃから魚屋でも行ってみようかのう。何かいいものがあるかもしれん」

 

本日エプロン&買い物袋で可愛さ5割り増し、ご機嫌な様子で本日の夕食の献立を呟いている、どうやら買い物帰りらしい。

 

常連の商店街では隠れファンクラブもあるのか、行くとおまけが山のように貰えるらしい

 

書いている当人としての最高の疑問はアルに料理が出来るのかってことなのだが、その辺は置いておこう。

 

「ふふん、今晩は喜んでくれるかのぅ・・・・・・・・・・おっ、和樹では・・・・」

 

凛と一緒にいるところを目撃するアル、上機嫌だった機嫌が急降下したのは言うまでもない、基本的に沙弓以外の女と仲良くしていると、この少女不機嫌になるのだから。

 

最近は幾分ましだが、諦めたのだろう。

 

因みに踏みつけられていたシーンの少し後からアルは見ていた、踏みつけられていたシーンからならばまた違った誤解をしたのかもしれないが。

 

しかしこの程度が序の口となろうとは、当の少女もまだ気付いていない。

 

 

 

 

 

目撃者、その二

 

B組女子有志(式森同盟)、諏訪園ケイ、千野矢夜、松田和美。

 

女子寮に帰宅中、まぁ何気ないことを話しながら普通の女子高生よろしく帰宅しているのだが、B組の何気ないが世間で常軌を逸しているだろうが。

 

「やはり悪魔を召喚して、式森を我らの手に(私の手に)するというのは」

 

首から提げた十字架、ただし逆十字だが、を掛けた少女諏訪園ケイ、趣味は悪魔崇拝。

 

「無駄じゃないかしら、あの子にそんなもの効きそうにないもの、それより問題はあのオバサンよ、風椿の」

 

サラリと否定するが言っていることは一番危険度が高いかもしれない。

 

「敵は、呪うわ、私たちの(私の)式森君に寄ってくるのは全部敵よ、風椿麻衣香、いつか呪い殺してやるリスト六百四十五番から四十八番に、移動・・・」

 

取り出した黒い手帳に怪しげな微笑を浮かべながら嬉々として書き込む矢夜、趣味、呪い。

 

ついでに他の有志の名前も上位に書いてあったりする、因みにこの呪いが結構効く。

 

本人(麻衣香)が聞いたら命はないだろう、とくに松田和美。

 

「あれ、式森・・・・・」

 

この数秒後彼女たちの機嫌は急落する。

 

 

 

 

目撃者、その三

 

探偵A(仮名)このときの事を雇用主に報告、八つ当たりで全治三ヶ月。

 

 

 

 

 

 

目撃者、その四

 

金髪の柔和な雰囲気の巨乳のお姉さん、つまり喫茶店チャペルのマスター、ライカ。

 

閉店し、外をブラブラしている所を通りかかったらしい。

 

「あれは和樹ちゃん、んー今日も違う女の子と、少し今度意地悪しようかしら」

 

凛にちょっと嫉妬していた、少しととう辺りが大人の余裕だろうか。

 

因みに彼女の機嫌も急落する、数十秒後に。

 

 

 

 

 

で、現場に戻ると。

 

「し、し、し、式森先輩は、わ、わ、私とは恋仲なのだ、本家のことなぞ関わりなく、私と、そう、そうだ恋人同士なのだ、だ、だから本家に戻るというのは」

 

勿論、目撃者の皆さんはこの辺のシーンしか目撃していないというか、凛ちゃんが叫ぶように言ったこの言葉しか届いていない。

 

次の台詞が致命的かもしれないが。

 

「そ、それに、式森先輩も私を好いて・・・・。いやそのなんだ、剣は使えないが先ほど見たようにそこそこやるのだ、・・・・・・・優しいし、そう優しいのだ、私が初めてで怖がっていると、優しく唇を・・・・・・・・・・・・ッ。私は何を言っている、駿司、そのようなことはないぞ、でだ、そう私には式森先輩が必要であって、そう婚約者なんだ、もう約束もしたんだ、その近々指輪も買って・・・・・・・・・・・いやだから、私はここに居たいので・・・・・それに式森と私がそうな・・・・・・・・・・・・・・ああああああっ、何を言っているんだ私は、つまりそういう事なんだ、だから私は本家には帰りたくないし、帰れないんだ、大体式森と恋仲に成れと言って引き離すというのは矛盾しているだろう」

 

と、微妙に事実と妄想が入り混じったことを口走り、最後は自分にとっては余り気分のいいものでもないことまで利用する、案外追い詰められていたのかもしれない、因みに目撃者には聞かれている。

 

婚約と指輪あたりがネックだろうか、致命的に。

 

「り、凛ちゃん」

 

微妙に引き攣りながら、身に覚えのあることとないことを口走る後輩の女の子に多少脅威を覚えながら(自業自得です)

 

というかいい加減気付いてはいるのだがだんだん駿司の和樹を見る目が怖い、しかもこの種類の目も判った、判りたくは無かっただろうが。

 

沙弓の親父の目だ。

 

この悪寒の正体にも、こっちは本能的なものだろうが。

 

というか目の前の少女だ、縋る様な目で見上げてくる凛ちゃんに否定も、拒否もできない、というのは和樹の性格(自分の大事な女の子の悲しむ顔は嫌い)から無理だった。

 

後にどんな災難が待ち受けていようと。

 

それが人生の墓場に片足突っ込むようなこととなってもだ。

 

案外、その辺は筋の通った男だった。

 

 

 

 

 

で、その後、駿司があっさり一週間後に試合をして勝ったら葵学園に残っていいという条件をだして、どこかに行ってしまった。

 

まぁ、恋仲でも和樹を婿に取れなければ意味がないのだから、その辺は微妙な問題だ。

 

 

 

 

 

で、立ち去った後の会話。

 

「その、式森先輩、申し訳ありません」

 

深々と頭を下げる凛に、和樹はちょっと困った顔をしていたものの。

 

因みに凛の顔はこれ以上無いぐらいに真っ赤になっていたりする。

 

「いいよ、それに凛ちゃんも恋人の一人だし。凛ちゃんがここから居なくなったら嫌だしね」

 

はい、“も”が問題、今更だけど、それに返事としては凛にとってはいいものだ、否定されず先程の願望交じりの叫びを和樹が受け入れている形だ。

 

その言葉で、凛は更に顔を真っ赤にしている、“も”扱いには特に文句が出ないらしい、ある程度承知の上で付き合い始めたのかもしれない。

 

「あ、ありがとうございます」

 

と何とか言って、その日はそれまでとして翌日から対策&特訓をすることを約束して。

 

まぁ、今の凛に武術の特訓をやらせるのは些か無理があるだろうが。

 

 

 

 

 

そのころ目撃者たち。

 

 

 

 

 

某魔道書の精霊。

 

自宅にて何時もの白のミニドレスではなく真っ白な着物、鉢巻、鉢巻とともに巻かれた松明、日本刀にショットガン、加えて悪鬼のような表情。

 

作者命名、八つ墓モードである。

 

「フフフフフフフフフッ、汝、今日という今日は、生まれてきたことを後悔させてくれるわ!!毎日、毎日、毎日、妾を弄んでおいての浮気三昧、堪忍袋の緒が切れたとはこの事じゃ。今宵、この御影は血に餓えておるぞ」

 

右手に持った日本刀を掲げながら殺す笑みを浮かべる少女。

 

あたりに瘴気が漂っている、彼女の正体、死霊秘法書=ネクロノミコンの原書“魔物の咆哮”に相応しい本領発揮の禍々しさ。

 

「妾に書き記された外道の知識、その全てを汝の体に焼き付けてくれるわ!!

 

と和樹の生命活動において重大な危機が直面していた、因みにネクロノミコンに記述されている全てを知ると発狂死するそうだが、事実はどうなのだろうか、確かめようもないが。

 

 

 

 

B組女子。

 

「あの小娘、我がサタンの生贄にしてくれるぅ、止めないで止めないでよ、和美」

 

「止めなさい、ケイあんたその小太刀どこに持っていたの、というか何するつもりなの、幾らなんでもそこまでは、和樹あんた覚えてなさいよ!!この色欲の権化が。矢夜、あんたも止めてってあんたは何やってるの!!!

 

今にも凛に切りかからんと、突進するケイを羽交い絞めにしつつ矢夜を見る和美。

 

その目線の先には単発式ボウガン、因みに本当の狩猟用ボウガンだったりする、威力は至近距離ならば畳を貫通できるほどあるらしいが。

 

当たれば、勿論・・・・・・・・・・・ねぇ。

 

「ううっ、この式森君をたぶらかす毒婦に鉄槌を撃つのよ、ウウッ陰で私のことくらい女って言っているんだわ、だから目の前で、私の前で自分のような日向の女が式森君に相応しいのよって見せ付けてるいのよ、許さないわ、だから止めないで和美、このボウガンの引き金引かせてぇ」

 

ネガティブなんだか、アグレッシブなんだか、よく分からない主張である。

 

だがそれを赦すわけにもいかず和美が凛に向かってボウガンを構える矢夜にかばんを投げつける、かなりマトモな和美が必死になって二人を押しとめていた、いくらなんでも殺人は目の前では起こさせないという最低限のモラルを発揮していた。

 

モラル、それはB組にとって最も縁遠い言葉の筈だったが。

 

何気に理性的な松田和美だった、そして何気に苦労性なのかもしれない。

 

 

 

 

探偵の雇用主。

 

薄暗い室内で何やら書類を作成中、何故か犯罪チックな空気が漂っている。

 

「ふふ、あの泥棒猫、これで学園から追放、・・・・・・・・って玖里子、それを渡しなさい。それは私の敵を倒すための・・・・」

 

怪しげな、いや逝った笑みを浮かべながら何かの書類、退学届け、ついでに名前の記入欄には神城凛とある、どうやら偽造書類らしい。

 

玖里子が持っているものは神城と彫られた判子、何を目論んでいるかなど丸判りだ。

 

ギリギリで止めようと踏み込んだ玖里子に賞賛の拍手を送ってもいいだろう。

 

「何考えてるのよ姉さん、違法よ、犯罪よ、人間として最低の行いよ、それでも理事なの」

 

正論で、道徳的で、完全に人の道を説いている。

 

「それがどうしたって言うの、理事なんて肩書き熨斗つけて突っ返してやるわ。そんな面倒な肩書きに比べたら、これ以上私の坊やに毒牙が伸びることを座して見てられないの、姉さんを裏切るの玖里子!!!

 

かなり欲望に満ちた主張である、しかも自分の職分を放棄している、幾らなんでも拙いだろう、学校経営者として、しかも名門校。

 

そんな姉の狂態にため息を付きつつ、玖里子が誰もいないはずなのに誰かに向かって命じる。

 

「頭を冷やしてよ、いいからやっちゃって」

 

と、どこから沸いて出たのか黒服連中が麻衣香を取り囲み腕を縛り上げ猿轡を噛ませ、目隠しをして更に魔封じの札をそれこそ隙間なく貼り付けていく。

 

「んーっ、んんんっ、んんっんんんんっ」

 

(訳 玖里子、覚えてなさいよ)

 

何気に家のものの信頼は薄い麻衣香だった、まぁ、この状態になったときの危険度を正しく使用人達に理解されているのかもしれない。

 

風椿家の品位を落とさないために、麻衣香の更に上から命令が下っているのかもしれないし、そんなことは心からどうでもいいが。

 

まぁ、かなり悪辣な嫌がらせは一応は事前に差し止めることが出来たようだ。

 

因みに麻衣香はそのまま担ぎ上げられ、地下の物置に転がされたそうな、なお開放されたのは一日後で、しかも一週間は監視がついた。

 

多分、怒りがさめるまでの冷却期間としての監視だろう。

 

(和樹、いい加減私もそっちに行ったほうが楽かなぁ)

 

と、微妙に玖里子フラグが立ちかけていた、姉の世話をするのが嫌なのかもしれないが。

 

 

 

 

チャペルのマスター

 

「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふっっっっ。あのロクデナシ、前ベッドで私の体をあれだけ貪ったくせに、お姉さんを捨てる気かしら、許さない、許さないわよ、和樹ちゃん。アルちゃんが一番なのは許してあげるけど、あれだけご飯提供して餌付けしようとしたのに、無駄だったの」

 

いや、あれだけボロクソに言っといて、何を。

 

それに一応ツケだったのでは・

 

(払う気のないツケをツケとはいいません。それに言葉は私の愛情表現です、ベッドでは従順なんだから、和樹ちゃんこの胸が好きみたいよ)

 

さいですか。

 

「ふふっ、明日呼び出して思い知らせてあげる、誰が主で従なのか、上下関係をはっきりさせてあげるわ和樹ちゃん。ご飯握っている人は強いのよ」

 

特に和樹のような貧乏人には、生命活動に関わるだろう。

 

でもここのライカさん欲望に忠実というか、いい人なんだろうけど、黒い。

 

(黒いんじゃありません、正当な権利の主張です、私の豊満な処女の肉体を抱いたの和樹ちゃんなんだから貰っていただきます、カトリックなんですから)

 

だ、そうです。

 

 

 

 

 

凛と別れた和樹、が、なんとなく後ろ寒いものを感じつつ(其々の少女達の嫉妬の情念も含むと考えられる)、帰路についていたら角を曲がった途端、何者かに首に腕が巻きつけられ、軽く絞めた状態で。

 

「式森君、凛とのことは責任とってくれるんだろうね」

 

妙ににこやかな調子で話しかけてくる、それでいて和樹には見えないが妙に怖い目をした神城駿司だった。

 

和樹には顔は見えていないだろうが、多分和樹は今駿司が無表情であることを理解しているかもしれない。

 

「君が凛に手を出したことや、複数の女の子に手をだしたことはね、上がっているんだよ」

 

ここで首に巻きついた腕が一回り太くなり、更に和樹を締め付ける、口調は飽くまでにこやかだったが。

 

「もし、凛を捨てたりするなら、そのときは覚悟するように」

 

と言い終わる前に腕を解き和樹が振り向いたときには既にその姿はなかった、恐ろしきは、保護者の魂(父心)だろうか。

 

 

 

 

 

 

駿司に脅され背筋、というか人生の墓場に片足突っ込んだ(既に沙弓で突っ込んだと言えなくもないし、ライカさんも怖いことを言っているが)恐怖に背筋を冷やしながら、愛するロリペタ美少女(現在鬼と化しているが)の待つ自宅に帰る和樹君、家で待っている恐怖も知らずに、自業自得だが。

 

 

 

 

そのころ家では。

 

「和樹、愛しておったぞ、愛しておったのだ、それを裏切った報いは受けて貰わねばならん、何安心するがいい、妾もともに逝ってやろうぞ、ふふふふふふふふふふふふふふっ」

 

と手にした刀、御影を研ぎながら、逝った笑みで怖い台詞をのたまっていた。

 

今回アルたん本気でキレている、本気と書いてマジと読む世界だ。

 

そこに生贄の子羊(断頭台に立つ罪人)が帰宅する、鴨が葱背負ってくる以上にアルの神経を逆なでする呑気な声で。

 

「アル、ただいまー」

 

今のアルにはその声、その姿、その気配全てが裏切り者に対する憎しみの対象と化している、本当は嫉妬なのだろうが。

 

「・・・・・・・・・汝、覚悟は良いな」

 

「覚悟って、今日は誰とも・・・・・・・・・・・・って、うわあああああああああああっ

 

このときアルは、先程までの悪鬼のような表情は消している(衣装はそのままだが)それこそ天使のような(悪魔は往々にして天使の皮を被るものだが)微笑を湛え、慈母の如し柔和な印象を与える表情で、手に日本刀とショットガンを持っている、そのアンバランスさが恐怖を駆り立てるのだが、不埒な浮気(毎度のこと)裏切り男を出迎える。

 

「アル、どうしたんだ、その、そんな格好で、まるで八つ墓、そうかコスプレ?」

 

和樹はこれからの自分の運命をある程度自覚しているのか、顔を真っ青に染め、一応一縷の望みを託す、でも八つ墓のコスプレを嬉々としてやる奴が身近に居るってのもどうかと思うが。

 

少なくともそれをやっているとしたら別の意味で戦慄が走る。

 

アルはその慈母の様な表情のまま、別名羅刹の微笑。

 

「コスプレではない、汝、妾に言うことはないか?」

 

恐らく最後通牒だろう、ここで正直に言えば多少の手心を、虚偽を述べれば、心中を。

どれだけ手心があるかは大いに謎だが。

 

と言うかあるのか、手心。

 

「と、特にこれといって」

 

本人としては余りしらを切っているつもりもないだろう、目撃されているなど夢にも思っていない。

 

「ないのか?」

 

和樹はこのとき地獄の天より垂れる一本の蜘蛛の糸を自ら断った(つまり自分の手で自分の死刑執行書にサインした)

 

「・・・・・・・身に覚えはないとぬかすか、この浮気ものがぁっ!!!

 

慈母のような表情がすぐさま悪鬼のそれに変わる。

 

アルの体から漆黒の瘴気が立ち上り、左手に持っていたしショットガンを振り上げぶっ放す。

 

「って、なにおおおおおおおぉぉぉぉっ」

 

何とかかわす和樹だが、アルは片手でボルトアクションを行い、次弾を装填し続けざまにぶっ放す。

 

器用なことだ。

 

「よくも、よくも、今度という今度は許さんぞ、和樹よ。今日こそは汝の命運を断ってくれる、おとなしく妾と一緒に死ぬのじゃ」

 

弾が切れたのかショットガンを投げ捨て、日本刀を構え、和樹に切りかかる。

 

「アル、どうしたの、というかそれって心中って、そこまでのことをした覚えが」

 

いや、恐らく記憶のあちこちにあるんじゃないかな、君は。

 

「うわああああああんっ、まだ嘘をつくのか汝、この女の敵が!!!

 

と結構筋のいい剣筋で次々と斬撃を放ってくる、というか和樹の避けた後ろの壁が切断され、和樹が更に青くなったそうな。

 

「ううううっ、神城と婚約したとはどういうことじゃ、沙弓だけならまだしも、妾を馬鹿にしおって、ともに地獄に逝ってやる、だから大人しく斬られよ、和樹」

 

目が逝っている、というか完全にトランス状態だ。

 

「妾を見ておればいいのだ和樹、妾だけを、それなのに何故汝はそうも・・・・・・・・・・・あの時言ったではないか、この大嘘つきの浮気者の甲斐性ナシの、色キチがぁぁっ!!

 

続けざまに放たれる、外道の精霊の怒号。

 

和樹もなんとなくアルが壊れている訳は察しがついたが、この暴走したアルを止めるのは困難だろう。

 

だって、絶対言い訳聞かないだろうし。

 

 

 

 

 

結局アルが疲れて動きが鈍ったところで刀を取り上げて何とか和樹の命はつながった、と言っても全身傷だらけで、後一歩で地獄に行けそうだったが。

 

実際、和樹の体は全身傷だらけだ、今現在も傷は増殖中といってもいい。

 

アルは恨みがましそうに和樹を睨みつけ押さえつけている、自分を抱き締めている和樹の腕に噛み付いていたりする。

 

甘噛みなんて軽いものではなく、意図して犬歯をつきたてる噛みかた、それなりに痛いだろう。

 

「痛い、痛いってアル、ちゃんと話すから、噛むのやめて」

 

「汝が悪いんじゃ、妾が居るのに浮気三昧、思い知るがいい」

 

頬を一杯に膨らまし、プンと顔をそらして拗ねているのは子供以外の何者でもないが、それでいいのかネクロノミコン、可愛すぎるぞ。

 

未だに機嫌は奈落の底にありそうなほどに悪いらしいのだが、それでも大暴れして、多少気が晴れたのか、先ほどより多少は落ち着いている(あくまで多少、いつ火がつくか分からない導火線の意)

 

「で、何を話すのじゃ、辞世の句の代わりに聞いてやらんこともないぞ」

 

ブスッとしたまま、汝の顔など見たくもないとばかりに顔を和樹とは反対方向に向けている、だからそれで良いのかネクロノミコン、完全に小学生低学年かそれ以下だぞ。

 

でも次切れたら、出てくるのはバルザイの堰月刀とクゥトグアとイクタァだろうが。

 

 

 

 

 

でかくかくしかじかと和樹が先ほどの状況説明。

 

聡明なアルはそれで納得、するわけが無い、というかこの少女こと和樹の女関係では脳のスペックが嫉妬に染まり、かなり性能が劣化する、これでも最近マシになった。

 

正確には慣れたのだろうが、和樹の浮気に、女としては少し哀れかもしれない。

 

というか和樹に言い訳の余地あるかなぁ。

 

「さて、汝、指輪というのは何じゃ、妾も買うて貰っておらんのだが、神城にやるという話は何じゃ」

 

アルが自分の機嫌を急落させた要因の一つを突っ込む、本人にしてみれば聞き捨てならなかったのだろう。

 

「えーと、身に覚えが、というか言った覚えがないんだけど」

 

実際、和樹は誰にも指輪関連の約束をした覚えは無い。

 

「では、婚約者というのは何じゃ、汝の婚約者は妾と沙弓(沙弓の親父にいつの間にか、アルは和樹の意志で婚約していたりする。)ではないか」

 

「それも覚えが」

 

実際に凛とは婚約していない。

 

「ほほう、それを妾が信じるとでも思って居るのか」

 

「駄目?」

 

「駄目じゃ」

 

カプッ。

 

「痛ってええええええええええええぇぇぇぇ」

 

と渾身のアルの噛み付きが和樹の腕に食い込んでいた。

 

 

 

 

 

 

その後、アルに噛み付かれ、引掻かれ、ポカポカと頭を叩かれ更にボロボロになった和樹を見てやっと満足したのかアルが。

 

「妾に指輪を買ってくれるなら、赦してやろうぞ」

 

と言って、さっさと寝てしまった。

 

ついでに、和樹が指輪をくれるまで、夜のスキンシップは禁止が言い渡された。

 

 

 

 

 

そのときB組女子有志はというと。

 

どこかの怪しげな場所。

 

「これは由々しき事態よ!!!!!!!!

 

妙に目が逝っている杜崎沙弓、いつもの冷静さが欠片もない。

 

「神城が、家族に虚言を弄し、和樹を手中に入れようとするはもはや明白。これは重大な協定違反よ、何が婚約よ、婚約指輪よ・・・・・・・・・・・私だって貰ってないのに」

 

このとき他の女子の目が微妙に怒りの染まった(婚約者なだけマシでしょ)

 

というか、沙弓自分は親を使って和樹を婚約者にしたのであるから、人のことは言えない(ここの沙弓案外黒い)筈であるが。

 

そんな事実は天上の彼方に押しやって、正しくB組女子の思考スタイルだ。

 

「でも、現実的に対処しましょう、話を聞く限りでは和樹が何か言ったって訳じゃないんじゃない、だったらまだそこまで深刻にならなくても」

 

と、まともな、意見を言うのはアイドル的な容貌を持った中田一子。

 

「そんなんじゃ遅いの、和樹なのよ、女の子に強いこと言えない和樹なのよ、俯いて目を潤まして、少し涙声でお願いって言えば、ほぼ100パーセント手を出した子の頼みを聞くような奴なのよ」

 

とそうとうてんぱっているのか恐らく自分が和樹を婚約者にしたときの手段を口走っている、ついでにそれを眺める女子一同の視線は。

 

(((((((そう、あんたそうやったの)))))))

 

と雄弁に物語っていた、微妙に沙弓を見る目を冷たくしながら。

 

「式森がそうなるとすれば、神城のほうを如何にかすると、ねぇ、私が食べていい」

 

と、怪しいことをいう、高碕涼。

 

女子にとってはある意味物騒な一言だろう、かなり。

 

「ホントに、あんた私たちに興味ないの」

 

と疑いの目線を向ける一同。

 

「大丈夫だって、男は式森だけだし、女の子は年下専門よ。あ、でも未空とかそのへんならいいかも、幼い感じがするし」

 

と真正面に居る飯尾未空に向けて怪しげな視線を向ける。

 

「きゃぁぁぁぁっ」

 

と、和美の後ろに回ってお尻を隠す未空、逃げ方がマジだ。

 

どうやら、この高崎涼と言う少女仲間内から完全に“そう”だと認識されているらしい。

 

「冗談だって、暫く女の子は良いわよ。式森一筋、それに私のお口式森お気に入りだし」

 

一同再び眉をピクンと跳ね上げるが、内心口がいいのかとか心の中のメモ帳に記入するものもいたが。

 

話が進まないので進むことにする。

 

「対処としてはどうするの」

 

と最近至極まともな松田和美。

 

「決まってるは、あの小娘はわが邪神のいけに・・・・・「やめなさい」」

 

ケイが自分の趣味に適した邪魔者の処分方法を口走るが。

 

「そういう直接的なことは禁止でしょうが、私は嫌よ、そんなんで和樹に嫌われるのは」

 

因みにこれで自分に降りかかるほうにも牽制するといった考えがあるが。

 

「だから私が食べて、順従な猫に・・・・」

 

「却下」

 

女子総勢の総意だろう、幾らなんでも新たな快楽の道を開くのは哀れに過ぎる、彼女達も同性のよしみで其処まではしたくないらしい。

 

「和樹本人に暫くくっ付いてるっていうのは、そうねあの神城の保護者が帰るまで、それでどうかしら、それなら、神城も何も出来ないわ」

 

ついでに彼女たち肝心の凛の諍いをしらない、よって和樹をだまして婚約して一気に正妻の座にと凛が狙っていると信じている、多少凛を知っているものは疑問に思っているかもしれないが、かすかの疑念など欲望の前には紙くずのような連中である。

 

ついでにこれを提案した中田一子というと。

 

(ふふ、これで一日中和樹の傍、もう二週間くらいご無沙汰だし、ご主人様、貴方の一子がもうすぐ行きます)

 

見かけのしたたかさより、かなり可愛い(捻じ曲がったほうに)性格におそらくM体質であろう。

 

「それは良いかも、和樹なら私達がそのときに泣き真似でもすれば邪険に出来ない筈」

 

「でしょ、だからこれからローテーションで、そうね私が言い出したんだから、私からってことで、後はくじでどうかしら」

 

(これでいいのよ毎日私なんて言ったら何されるか分かったモンじゃないわ)

 

中々にしたたかである。

 

「そうね、和美はどう」

 

「いいんじゃない、あの子達も和樹の前じゃ壊れないでしょ」

 

と指したのは、話し合いに参加せず、熱心に柱に神城と書かれた札をつけた藁人形を釘で打ちつける矢夜と、パソコンに向かって妙な画像を熱心に作っている来花がいた。

 

「そ、そうね、大丈夫でしょ」

 

「だといいけど」

 

妙に和美が達観している、完全に苦労性が嵌ってしまったのかもしれない。

 

ついでにくじの結果、一子、ケイ、未空、涼、和美、矢夜、沙弓、来花、そしていまだ登場もしてない酒井麻里子の順に決まった。

 

ついでにこれから毎日一人、和樹とある行為により二人の間の絆を深め合ったのであるが詳細は後ほど。

 

 

 

 

 

凛の場合。

 

寮に帰宅して、彼女は顔を真っ赤にしてぼーっと座り込んでいた。

 

その思考を覗くと。

 

(式森先輩と結婚式森先輩と結婚・・・・・・・・・・・そうだ契りは既に交わしているのだから。駿司は私と和樹が組めばどうにでもなる、そうなれば本家公認で・・・・・・そうなれば、・・・・・・・・・・・教会でチャペルを聞きながら私がヴァージンロードを隣には式森先輩が居て、そして指輪の交換、誓いの口付け・・・・・・・・・・・・・・・家はそう、そうだな閑静な住宅街で、小さくてもいから一戸建てで・・・・・・・・・犬を飼って、子供は三人、女の子二人に男の子一人・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それに明日から、式森先輩と特訓、そうなれば遅くなるだろうし、最近シテ貰っていないな、その私が好きと・・・・・・先輩が求めてくるのであって・・・・・・・・・・・ああ、でもあのときの先輩が一番優しいし)

 

と延々夜遅くまで妄想に耽っていたそうな。

 

追記、現実世界に返ってきた凛が真っ先にやったことは箪笥を開け、中にある下着でファッションショーを始め、更に妙に可愛らしい下着が多数あったそうな。

 

少し色っぽいものから、可愛い系の下着が。

 

 

 

 

 

さて翌日、朝から沙弓と一緒に中田一子が迎えに来て(と言っても結構和美や涼、その他数人は沙弓と一緒に来たりするのだが、アル対策で玄関まで来るのは沙弓だけというパターンが殆どだが)、そのまま登校。

 

どうでもいいが、モデル並の美貌を誇る沙弓とアイドル並の容姿を誇る一子を侍らして歩く式森和樹、人類の敵だ。

 

周りの男子の視線がそれはもう凄いことになっている、視線で人が殺せれば和樹はとうに死んでいるだろう。

 

因みに学校内でも一子は和樹にべったりで、休み時間もともに行動する始末。

 

傍目にはラブラブバカップルといった感じである、それを見せ付けられている他の女子が険のある目で一子を睨んでいたが自分達が呑んだ提案だったので耐えるしかなかった。

 

出来ることなど心の中で数日後の自分の番を夢描いて耐え忍ぶしかないのだから、何か邪魔をしたら協定で最終日回しにされることになっているから。

 

 

 

 

 

で、昼休み、一子としては予定通りいままでべったり仲良く過ごし、彼女の作ってきたお弁当で昼食となっている。

 

因みにこの時までは和樹は食堂、もしくは購買で昼食をとっていた、金がないときは昼なしで過ごすことも多々あったらしいが。

 

金関係で女の子に頼らない辺りはまだマトモな常識を弁えているのだろう、ライカさんには平気でメシをたかっているが。

 

で、その中睦まじい昼食風景を眺める、眺めさせられている微妙に嫉妬がましい視線八対、更に苛烈な嫉妬の視線複数(男子一同)、受け入れられない人物一名。

 

今まで休み時間の度に争いを避けるために他の女子が夕菜を連れ出して一子がべったりなのを目撃させないようにしていたが(今日までに彼女の暴走はB組女子にはマークされていた)。

 

流石に昼休みまでは彼女に和樹の食事風景を目撃させないことは不可能だった、何せ彼女は弁当を自分で作ってい教室で食べているのだから。

 

結果としては、とんでもなく魔気を孕んだ呪詛のような声が響くことになる、悪魔の囁き声のような声が。

 

「中田さん、何で和樹さんと一緒にお弁当食べているんですか」

 

目元を引きつらせている夕菜という名の化生、何とか笑顔を保とうとしているのだか、それでも凄みのある声で主に一子に向けて詰問している、質問ではなく。

 

泣いている子供が一瞬で気絶してしまいそうなくらいの声で、いやヤクザでも迫力負けして逃げ出してしまうかもしれない。

 

逃げ出したほうが絶対に幸せだろうが、ヤクザとしての面子は失うだろうが命は保たれるのだから。

 

だが。

 

「いいじゃない、私が誰とお昼食べようと、私の勝手でしょ。それより和樹、美味しい?それ自信作なんだけど、後これも結構自身があるのよ」

 

そんな夕菜を歯牙にもかけず、和樹に弁当の出来を聞く一子、中々に度胸の据わったお嬢さんである、まぁ、度胸が座ってなければこのクラスではやっていけないだろうし、和樹を巡っての争いでもさっさと敗北しているだろう。

 

だが、一子の度胸云々ではなく、理不尽の大魔王は彼女の台詞を取り合わないだろう。

 

現状を許容できる娘ではないのだ、目の前に居る娘は(しかも今の一言でかなり精神的な圧力が増している、既に飛んでいる蚊が気死出来るレベル)

 

和樹達の目の前で魔気を噴出させている存在は道理など通用しないのだから。

 

一子をまさに凶眼とでも呼べそうな目で睨みつけ、この時点で清純派から清純風に評判が変化していたりするが、そんなことはどうでもいい、どうせ遅かれ早かれそうなる。

 

自分を無視して食べ続ける二人に向かって少女の、彼女の中では正当な叫びが上る。

 

「和樹さんとお昼食べるのは私です、って言うか手作りなんですかそれ!!!

 

その通り、和樹と一子の食べている弁当、一子のお手製である。

 

内容はから揚げ、玉子焼き、アスパラのベーコン巻き、ポテトサラダ、そぼろご飯、フルーツ、と一般的ながらそこそこの出来ではある、敷いている包みが同じだし内容も同じなのだから同一製作者が作ったのか丸判りだ。

 

そして先程の会話から一子が作ったのだとは完全に判りきっている。

 

余談だがこれから手作り弁当が流行ったのは言うまでもない(それに気付いたアルが和樹に弁当を持たせるまで続いた、・・・・ついでにアルは毎朝怒ったような、恥ずかしいような表情で無言で弁当箱を突き出してくる、頬を染めて)

 

「それがどうかしたの?」

 

まさに不思議そうに聞く、わざとおちょくっているのかもしれない。

 

まぁ、恋人に手作り弁当を作ってきて非難されるいわれは無いだろうが、その恋人が吹く数人いることが問題といえば問題だろうが、当事者でない夕菜に言われることではないだろう。

 

「それがって。そんなうらやま・・・・・・それは和樹さんの、恋人たる私の仕事です。何で中田さんが作ってるんですか!!!私だってまだ食べてもらったことないのに、どういうつもりですか!!!

 

だが、その当然の事でも彼女は激しく反発する。

 

彼女の中の既定の事実では認めがたいことなのだ、自分以外が和樹に手作り弁当を渡す等(これを妄想と言う)、だが現実には彼女は和樹の恋人以前に友人ですらない。

 

彼女に対する和樹の対応は冷ややかなものだった、和樹の逆鱗(アルを泣かせる)に触れた時点でその手の対象ではないのだから。

 

彼女が今後和樹の恋人の一人に名を連ねることはないだろう、まぁ、彼女のほうから恋人の一人と言う扱いには激しく反発するだろうが。

 

実際今も、一子の言葉でキシャーと叫びだしそうな様子だ。

 

だが、その様子にも構わず一子が言葉を和樹に振る。

 

「和樹、付き合っているの?」

 

一子の口調は何気ない、特に心配することではないと既に知っているから、解答がわかっている質問に何を意識しろと言うのだ。

 

「ん、付き合ってない、というかまともに会話した記憶がないんだけど」

 

確かに、このお話の中ではないな、和樹本人に会話の意思がないし、周りが男子は夕菜が和樹の毒牙にかからないように防波堤になっているし女子は和樹に近づけようとさえしない、夕菜自身そんなに話をしたと言う意識はないと思うのだが。

 

「そう、だったら、いいじゃない私と和樹が誰とお弁当食べてたって」

 

正にその通り。

 

「いいわけありません、和樹さん、私達恋人同士じゃなかったんですか」

 

「違うってば」

 

「ほら、和樹もそう言ってるじゃない、変なこと言ってないで、向こう行ってよ、食事中なんだから」

 

そんなんで諦めるわけもなく、その後夕菜が暴走する直前に和樹が用事があるとどこかに行ってしまうまで、夕菜はエキサイトし続けていたそうな。

 

キシャーに成らなかったことが奇跡に思える展開である。

 

 

 

 

 

「で、和樹用事って?」

 

「いや、凛ちゃんとこに・・・・・・・・なんで居るの一子」

 

「いや、和樹がどっかに行くから、付いて行こうと思って」

 

一人で向かっていた筈なのにいつの間にか和樹の隣で歩いている一子、一応武術の達人レベルの和樹に悟られずに会話できる至近の距離に近づくのはかなり困難なのだが。

 

只、どうやって出来たかと問うても、乙女の心ですとでも答えられそうだ。

 

まぁ、それはさておき、妙に可愛らしい素振りで一子が言う、容姿もいいのでその手のしぐさが妙に似合うのだが、和樹としては拙いだろう、他の女の子のところに行くのだから。

 

「私が付いて来たら拙いの、和樹」

 

完全に図星を突いている、この辺は完全に意識して言っているだろう、大体一子の本来の目的は和樹の監視なのだから、もしくは護衛。

 

神城凛の野望(?)から和樹を守るという。

 

「そんな・・・・・ことはないよ」

 

歯切れの悪い口調だが、その口調は疑ってくれといっているようなものだ。

 

「なんでどもるの」

 

ほら、突っ込まれた、この和樹君簡単な誘導に引っかかりやすいようだ。

 

まぁ、気を赦している相手には警戒心が働きにくいタイプなのだろう、心を赦している恋人である一子の警戒の目を向けてはいない、だからあっさり見抜かれ誘導されてしまうのだが。

 

まぁ、彼女達も自分達の立場が掛かっているのだし、この程度の誘導尋問は悪くないだろうが、彼女達の中ではもしかしたら和樹に三人目の婚約者が出来ることになるのだから。

 

「ま、いいか」

 

と、あっさり同行を許可するあたり軽いというか、なんと言うか。

 

実際、付いてこられて困るようなことでもないのだから同行を赦してもいいのだろう、男としては他の女の子の所に自分が手を出した女の子を連れて行くのは余り気分がいいことではないにしても。

 

「いいの」

 

拍子抜けしたのは一子だろう、もう少し抵抗されると彼女は踏んでいたのだから。

 

 

 

 

 

で中庭のベンチで座っている凛、ここが待ち合わせの場所。

 

何故か微妙に頬が赤いし、体をモジモジ揺らしている、何か夢(妄想)でも膨らませているのかもしれない、時折「式森先輩」と口元が動いているし。

 

それに気付かない和樹と、気付いて眉を潜める一子、ここは男女の機微の差だろう。

 

一子が眉を顰めたのは婚約関連のことだが、実際のところ凛チャン、これからの和樹との逢瀬(性交渉を含む)を楽しみにしているだけで、彼女たちが心配している、婚約とか結婚とかの策略は何も考えていなかったりする。

 

元々策略とかが向いている性格もしていない。

 

この時点では女子一同の心配は杞憂なのではあるが、逢瀬くらいは互いに認めているし、それでもあの手の話が耳に入ったら女としては気になるだろうし、不安にもなるだろう。

 

そして彼女はB組の女子生徒だ、素直にその手の話をはいそうですかと受け入れられるわけがない、他にも婚約者はいるが自分を差し置いて他が一歩リードするのは耐え難いのである。

 

それに彼女たちは本気で和樹を好いている、その関係が親密に成るのを黙って見過ごして入られない。

 

そんな一子の考え(大体沙弓以外の女子の総意)のなか和樹が。

 

「凛ちゃん、待った」

 

「いいえ、今来たところです式森先輩。そちらの方は確か中田先輩でしたか(何で居るんですか)

 

「ええ、神城さん(居ちゃいけないような理由でもあるのかしら)

 

と、凛は目論見(和樹と二人っきり)が外れ、一子は誤解したまま、目線だけで会話していた(本音の)

 

凛にとっては二人っきりを妨害され、一子にしては姦計を企んでいると思われている両者の視線はそれなりに穏やかではなかったりする。

 

「まあ、いいでしょう。私は式森先輩と相談がありますので、中田先輩はお引取りを」

 

「あら、和樹は来てもいいって、言っていたわよ」

 

口調こそ柔らかだが、キツイストレスが漂っている、かなり心地よくない空気が蔓延している。

 

「そうなのですか、式森先輩。」

 

凛が和樹に微妙に寂しそうに和樹に問う、多分二人っきりが駄目になったのが残念なのだろう。

 

「まぁ、聞かれて困ることでもないでしょ」

 

確かに、駿司がどこにいるかも知れないので、誰かに知れたところでそれが漏れるとは考え難い、それに一応和樹は彼女たちのことを信頼している。

 

「ん・・・・・・・・そうですね」

 

渋々納得するといった感じだ、まぁ、一子がいるような必然性も無いのだから。

 

「何の話?」

 

どうやら一子もやっと話が違うなと感じたらしい、どうも婚約云々とかそう言う話とはかけ離れた様子での会話なのだから。

 

 

 

 

 

説明終了後。

 

「あー、昨日のあれってそういうことだったの」

 

「見てたの」

 

「私じゃないけど、和美とかが」

 

「見られていたのですか」

 

一子は得心がいったという感じで、凛は微妙に落ち込んでいる、頬は赤らんでいるから恥じ入っているのかもしれない。

 

 

 

 

 

「で、どうするの、神城さんの保護者の人狼って強いんでしょ」

 

まぁ、話が進まないから話を進ませよう、神城駿司対策会議である。

 

「私と式森先輩と組んで戦うことになっているので、昨日の感じから二人の息があっていればなんとか成ると思うのですが」

 

確かに昨日は即興でかなり荒い連携しか出来ていなかった。

 

「んー、ちょっと厳しい感じがあるけど、それしかないか、変に小細工使っても納得しないだろうし」

 

確かにB組式のトラップ、搦め手、騙し討ちの類はやったら激怒されそうだ、特に和樹が。

 

「ふーん」

 

と作戦会議はかなりおざなりだった、だって正攻法しか思いつかなかったから。

 

それ以外でやると、駿司さん、認めないような気がする、もし認めたとしても後の和樹がかなり怖い立場になりそうだ。

 

 

 

 

 

昼休みは作戦会議のみと、凛と分かれて教室に戻る最中、既にお決まりのような気がしてきたが、というかお約束か。

 

一子に強引に誘われて体育倉庫に連れて行かれた和樹君、体育倉庫の鍵を保有していたのは言うまでも無い(B組女子の共有物らしいのだが)。

 

中に入るなり胸元をはだけ、そのはだけた胸を押し付けるように和樹の上に乗り掛かりながら、甘い声を和樹の耳元で囁く声、女の色の篭った声。

 

断じて並の高校生に出来るような声ではない。

 

「神城さんには親身なんですね、ご主人様」

 

先程と雰囲気を一変させて何かを請うように妖艶な目で和樹に問いかける一子、口調も変わっているし。

 

内容には微妙に嫉妬の念が篭っているが、声の質は何かを求めるものだ。

 

「えっと、その、授業が」

 

和樹君、建前だけの拒否はしないほうがいいよ、どうせ結果がどうなるかぐらい、君なら判っているだろう。

 

自分の性質くらいちゃんと把握しているだろうに。

 

「そんなのいいじゃないですか、それより私に対して最近冷たくないですか」

 

今度は言葉だけ拗ねて、やはり何かを求める種類の声。

 

男を求める女の声、雄を求める雌の仕草。

 

「そんなことないよ」

 

と冷や汗を流しながら答える和樹、というかこいつもいい加減自分の行く末くらいはわかっているだろう、何時ものことなのだから。

 

「じゃあ、シテくれますよね、ご主人さまぁ」

 

甘えるような、求める声とともに一子は和樹に抱きつきはだけられた胸元が和樹の顔面に押し付けられ膝の上に一子が跨っている、この時点で薄い和樹の理性は吹っ飛んでいたのはいうまでもない。

 

勿論、一子はこうなることを期待して喋っている、和樹の理性を吹き飛ばすことなど容易いものなのだから、性的な理性など薄紙の如く存在していない。

 

理性が確りとあったならこんなハーレム紛いを形成できないだろうに。

 

 

 

 

 

「ああっ、ご主人様、もっと、そこですぅ、そこを弄ってください、お願いします」

 

何をだろう、まぁ、楽に染まった声が男の理性を揺さぶる種類のものだったとは断言できる、激しい水音もそれを助長しそうだ。

 

「こうですか、んっ、ご主人様私の胸は。いいんですよ、お願いします、私に掛けてください」

 

本当に女子高生かね一子ちゃん、どうも趣味がマニアックなような。

 

「ああっ、うんっ、そこです・・・・・後ろから。すごいっ、くぅぅっ、もっと、お願い、もっと激しく・・・・お願い致します」

 

と謎の行為に耽って56時間目をサボったそうだ。

 

ついでに一子はさらに一時間腰が立たず、和樹の胸の上で夢見心地の状態から還ってきたのは授業終了後、一応服はちゃんと着せられていたので風邪を引く心配は無いが。

 

行為が終わった後の恍惚とした顔は艶の入った女の顔で、普段の可愛らしい顔立ちに美麗さが増し、美女といっていいほどの雰囲気をかもし出していたと言う。

 

 

 

 

 

追記、一子完全にMの尽くし系の娘になっちゃいました。

 

追記2、教室に帰ってきた和樹に夜叉の目をした夕菜が迫ってきたが、何とか逃げ出したらしい、逃げ出した和樹の背後から「キシャァァァァァー」と言う声が響いたかどうかは別の話ではあるが。

 

 

 

 

後半

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