魔・武・仙の物語【第十章】


 


「それでは麻帆良中の皆さん、いただきます」

『いただきま〜す!』

 ネギの号令と共に朝食を食べ始める。3−Aの何人かが酔っ払って記憶が無く、修学旅行の初日の夜を寝て過ごした事を後悔していた。

「・・・・・・・・」

 リュークは箸を構え、ジッと焼き魚を睨み付ける。

 シュバババババッ!!!

 そして凄まじいスピードで焼き魚の骨を綺麗に抜き取った。

「ふ・・・」

 満足したのかリュークは笑みを浮かべて食べ始めた。変な所で日本人より器用なイギリス人である。上手に箸を使って小芋を掴んで口に持って行こうとすると・・・。

「せっちゃん何で逃げるん〜!?」

「ぶっ!!」

 何故か料理を持って追いかけっこしている刹那と木乃香に踏まれてしまい、味噌汁に顔を突っ込んだ。

「あ〜! ゴメンな、リュー君!」

「すいません、リューク先生!」

 鬼ごっこしながら謝る二人を見ながら、リュークは傍で生魚を食べていたエルに呟いた。

「随分と仲良くなったな・・・」

【仲良き事は美しい事です】

「あ、そ・・・」

 逃げ纏う刹那をクラスメイトは珍しげに見ながら、リュークは代えの朝食を貰いに行った。

 

 二日目は班別の奈良の自由見学。リュークもゆっくりと奈良文化を堪能しようと思った。ネギは皆から誘われていたが、珍しくのどかが張り切って誘うと、木乃香が同じ班で守り易いと言う事でネギは五班と同行する事になった。

 五班と一緒に行くネギを見て、リュークは自分も行こうとした矢先、ガシッと足が止まった。恐る恐る振り返ると、亜子とアキラが自分の肩を掴んでいた。

「まき絵〜。リュー君キープしといたで〜」

「ごめん、リューク先生」

 どうやらネギが駄目だった時の為にリュークを捕まえたようだ。

「う〜ん・・・ネギ君も良かったけどリュー君も良いから一緒に行こ〜!」

「うんうん! 大仏、大仏!」

 超乗り気のまき絵と裕奈。

「えっと・・・僕、若草山でお茶したかったんだけど・・・」

「リュー君、それ渋すぎんで・・・」

 奈良と言えば大仏と単純な発想もどうかと思うが、東大寺には是非とも行ってみたかったのでリュークも承諾した。

 

 奈良公園には野生の鹿が充満していた。真名以外の連中は楽しそうに鹿煎餅を与えている。

「きゃ〜! リュー君、楽しいよ〜! ほら!」

 そう言ってまき絵は鹿煎餅を咥えて鹿に与える。リュークは鹿煎餅を渡され、皆がやれやれと鹿の前に出す。

「・・・・・・・」

 ジ〜ッと鹿と睨めっこしてると、突然、ぺロッと鹿が頬を舐めてきた。

「う、うわ! く、くすぐったいぞ!」

 思わずリュークは笑って鹿の毛を撫でた。その笑顔は普段の大人ぶった笑みと違い、歳相応の十歳の少年のものだった。そんな笑顔を見て、まき絵達はボーっとなる。

「はは・・・わ、分かったから。煎餅やるよ」

 そんな視線に気付かず、リュークは鹿に煎餅を与える。ボリボリと煎餅を食べる鹿を撫でながら微笑んでいると、彼女達の視線に気付いた。

「何だ?」

「(はっ!)あ、え〜っと・・・リュー君もそんな風に笑うんだな〜って」

 真っ先に我に返った裕奈が言うと皆が一様に頷いた。その反応にリュークはムッとなる。リューク自身も失態だと思った。今まで自分に厳しくしてきたせいか、周りからは歳不相応だと思われがちだった。こうして自然と動物と触れ合う機会などなかった為、つい気が緩んでしまった。

 まだまだ未熟だと溜め息を零して呟いた。

「気が緩むとは・・・まだまだだな」

「え〜! そんな事ないよ〜!」

 その呟きを聞いてまき絵が声を上げた。

「リュー君は先生だけど十歳なんだよ? もっと伸び伸びしなくちゃ!」

「伸び伸び?」

 聞いた事の無い言葉に首を傾げる。すると裕奈がバンバンと背中を叩いてきた。

「そうそう! 楽しい事は思いっ切り楽しむ! 十歳なんだから私らより楽しまないと駄目だよ!!」

「そういう・・・ものなのか?」

 恐る恐る他の三人に視線を向けると、コクンと笑いながら頷かれた。

「伸び伸び・・・思いっ切り楽しむ・・・か」

 リュークはブツブツと口許に指を当てて呟くと、顔を上げて微笑んだ。

「そうか・・・ありがとう」

 その微笑に五人はキョトンとなりながらも同じように笑って頷いた。エルはそんなリュークを見て自分の事のように嬉しそうに笑った。

 

「ネギ、どうした?」

 ホテルに帰って来たらネギは呆然と、まるで魂の抜け殻状態でソファにポツンと座っていた。顔の前で手を振っても何の反応も示さないので、肩を揺すってみる。

「おい、ネギ? どうした?」

「・・・・・・・・・・・・」

 返事をしないネギ。リュークは眉を顰め、傍にいるカモに尋ねた。

「おい、カモ。何があった?」

【いや、実はよ・・・】

 カモはボソッとリュークに耳打ちした。

「は? 告白された? 宮崎さんに?」

【はぇ〜・・・勇気ありますね〜】

 けど先生と生徒なのに良いのだろうかとリュークは首を傾げた。

「ま、大変だろうが頑張るんだな」

 ポンとネギの頭を叩き、リュークは踵を返した。

 

「はぁ・・・お風呂は命の洗濯だね〜」

「・・・・ああ」

 リュークとネギは二人仲良く露天風呂に浸かっていた。

「まぁ、かと言って問題が解決する訳ではないが・・・」

「それを言わないで・・・」

 ひょんな所から今日の奈良見物で生徒であるのどかに告白されたネギ。教師と生徒という立場というか、まだ恋愛に関して無知なネギは頭を悩ませていた。

【ご安心ください、ネギ様】

 と、頭を抱えるネギに器用に前足で頭を洗っていたエルが二人の間に入って来て言った。

「ふぇ?」

【良いですか? 『一つ上の女房は金草鞋を履いても探せ』という諺があるように、宮崎様は一つ年上ではありませんが、年上の女性というのは男性にとって魅力的なものなのです。スポーツ選手など殆ど年上の妻でしょう? 宮崎様が卒業なされば何の問題もありません】

「エルさん、そういう問題じゃないよ・・・僕、恋とか良く分かんないだもん。リュー君はどう思う?」

 急に話を振って来られ、リュークは少し驚いた。

「え? 僕か? ・・・・・・すまん」

 視線を逸らして言うリュークに、ネギはさめざめと涙を流した。

 ガラガラ。

『?』

 その時、入り口の方から音がして二人は眉を顰めた。今は教員タイムだから、この前のように刹那と鉢合わせにならないだろう。恐らく新田先生か瀬流彦先生辺りかと思ったが、入って来たのは意外な人物だった。

「あら、リューク先生にネギ先生」

「し、しずな先生!?」

 入って来たのはしずなで体にタオルを巻いていたが、ネギは慌てて顔まで湯に浸かる。

 リュークに至っては既に気を失っている。とことんウブである。

「今日もお疲れ様。お背中流しましょうか?」

「い、いいえ結構です!」

「くす・・・」

 しずなは笑うと、湯に浸かるとネギの両肩に手を置いた。

「ネギ先生・・・あなた、魔法使いでしょう?」

「えう!? な、何でそれを!?」

 いきなり自分の秘密を言うしずなにネギはビックリした。

「が、学園長から聞いたんですか・・・!? って、でも・・・」

「?? ま、何が何だか分かんないけど、お願いがあるのよ。私、ネギ君の魔法が見たいな〜」

 可愛らしく指を口許に当てて言うと、ネギは「え〜!?」と大声を上げた。

「だ、駄目ですよ、そんな・・・・うぶ!」

「ねぇ〜ん、おねが〜い」

 だが、しずなはネギを思いっ切り抱きしめ、胸に顔を埋めた。ネギは苦しそうにジタバタするが、何か違和感を感じた。

「ん? あれ?」

「どうしたの、ネギ君? する気になった?」

「・・・しずな先生、胸すごく小さくありませんか?」

 以前、しずなの胸に挟まれた事のあるネギは、彼女の胸が若干小さくなっているの気づいた。その指摘に、しずなはショックを受けたのか、叫ぶように言った。

「な!? し、失礼ね! これでもクラスbSよ!」

 その発言にネギは思わず彼女から離れた。

「クラスbS!? だ、誰ですかアナタは!?」

「くっ・・・しまった」

 彼女は思わず叫んで舌打ちすると、自分の顔を掴んだ。

「バレたんなら仕方がない! ある時は巨乳教師! またある時は突撃リポーター! その正体は・・・・」

 するとしずなの顔の下から別の顔が現れ、それはネギも良く知ってる人物だった。

「3−A 3番! 朝倉 和美よ!!」

「ああー! 朝倉さん!?」

【マズいバレてるぜ! 記憶を消しちまえ!!】

 カモもお構いなしに喋り、ネギは予備の杖を取り出すと和美は携帯を取り出して、手で制した。

「お〜っと待った〜! この携帯が見えないの!? 下手な動きはしないで! この送信ボタンを押せばネギ君の秘密が、私のホームページから全世界に流れる事になってるのよ」

「え、ええー!?」

【リューク様、起きて下さい! 大変です〜!】

 エルも半ばパニくって気絶しているリュークを起こそうとする。

「ふふん。やっぱりリュー君も魔法使いみたいね」

「あ、朝倉さん、何で僕が魔法使いって・・・」

「ネギ君、さっき車に轢かれそうだったネコを助けたでしょ?」

 そう言われ、ネギはハッとなった。確かにネコが車に轢かれそうだったので、思わず魔法を使い、その後、杖に乗って飛んだ。

 まさか、そんな所を目撃されるなんて思いもよらなかった。

【ネギ様、何でネコ如きを助けるのに魔法を使うんですか!?】

【ネコ妖精が何言ってやがんだよ!!】

 と、妖精コンビがギャーギャー言ってる間に、和美はネギにマイクを持って詰め寄る。

「うう・・・何でこんな事を?」

「ふふ・・・スクープよ。全ては大スクープのため。悪いけどネギ先生・・・私の世界的な野望のために協力して貰うよ」

「や、野望ですか?」

「その通り! 魔法使いが実在すると知ったら世間は大注目! 私の独占インタビュー記事で新聞、雑誌で引っ張りダコに!
 人気の出たネギ先生とリューク先生の美形魔法使いコンビは私のプロデュースでTVドラマ化&ノベライズ化! 更にはハリウッドで映画化して世界に進出よ〜!」

 和美の野望にネギは涙目で拒否った。

「そ、そんなのイヤですー! 世界とか興味ないですー!」

「大丈夫! ギャランディーはネギ君と私とリュー君で山分けよ!」

 そう言うと和美はガシッとネギの両肩を掴んで来た。

「どう!? ズバーンと魔法使う気になった!?」

「あうぇ・・・!? へう・・・!」

 ネギはジワッと目に涙を浮かべる。

「大体、こんな所で先生やってんのも大変でしょ? バーンと使って楽になりなよ!」

「へぐっ! 僕・・・あう! それに・・・バレ・・・」

 プチッとネギの中で何かが切れた。

「う、うわあああああああああん!!!!! 駄目ですぅ〜! ぼ、僕、先生やりたいのに〜!」

 突然、大声で泣き出すと凄まじい衝撃波が発生し、風呂が大きく揺れた。

「びええええ!!!!!」

「なな・・・こ、この声は!?」

【(や、やべぇ! 問題山積みで流石の兄貴もパンクしたか!?)】

 このままでは風呂全体が壊れ、カモは冷や汗を垂らした。

「眠れ」

 が、その瞬間、リュークがピッとネギの額に指を当てた。するとネギの鳴き声はピタッと止まり、ドサッとリュークに向かって倒れこんで来た。

「ふぅ・・・危うく修理代払う所だった」

 リュークはネギを床に寝かせると、呆然としてる和美が持っている携帯を見て、指を鳴らした。

 すると彼女の携帯がボンと音を立てて煙を上げた。

「あぁ〜! 私の携帯が〜!」

 それに和美は正気に戻って携帯を握り締める。

「悪い。ちゃんと弁償はする・・・だが、証拠を握られたままだと困るんでな」

 そう言って苦笑いを浮かべるリューク。そしてネギを背負うと出口に向かって歩き出す。

【リュ、リューク様!? 記憶は消さないのですか!?】

「・・・・それなら神楽坂さんもそうだろ? 大丈夫・・・もし、朝倉さんが本当に僕らの正体をバラそうとするなら、本当に記憶を消すさ」

 そう言って笑うリューク。その笑顔に和美は少し顔を赤くした。そうしてリュークはネギを連れて行こうとしたら、ネギの泣き声を聞きつけた、あやか他数名にこの場を目撃され、またまた一騒動起こったそうな。


「えええ〜!? 魔法がバレた〜!? しかも、あああの朝倉に〜!?」

 ホテルのロビーではネギとリュークが魔法使いだとバレた事を明日菜と刹那に聞かせた。ネギはショボンと椅子に腰掛けている。

 リュークはリュークで頭を押さえ、こめかみを引き攣らせていた。

「全く・・・情けない」

「うう・・・」

「はぁ・・・何でよりによって朝倉なんだか。朝倉にバレるって事は世界にバレるって事よ」

 そう言って明日菜は両肩を竦めた。

「も〜駄目だ。あんた達、世界中にバレて、オコジョにされて国に強制送還だわ」

「え〜!? そんなの嫌ですぅ〜!」

「僕はオコジョにされるようなヘマはしない」

 本気で泣いて一緒に弁護してくれと懇願するネギと、ムッと僅かに不機嫌そうな表情で抗論するリューク。

 と、そこへ和美と彼女の肩に乗ったカモと、足下にいるエルがやって来た。

「おーい、ネギ先生〜」

【此処にいたか兄貴〜♪】

【リューク様〜】

 何やら無駄に爽やかな一人と二匹。

「うわ!? あ、朝倉さん!」

「ちょっと朝倉。あんまり子供イジメんじゃないわよ〜」

 明日菜が一応注意すると、和美は意外そうな顔をして言った。

「イジメ? 何言ってんのよ。てゆーか、あんたの方がガキ嫌いじゃなかったっけ?」

【そうそう。このブンヤの姉さんは俺らの味方なんだぜ】

「え?」

「そうなのか?」

 リュークに見つめられ、エルは表情を引き攣らせながら視線を逸らした。

【は、はい・・・】

「??」

「ふっふ〜ん。報道部突撃班、朝倉 和美。ネギ先生達の秘密を守るエージェントとして協力していく事にしたよ。よろしく♪」

 Vサインをして言う和美にネギは予想外に嬉しそうな顔になる。

「え、え〜!? 本当ですか!?」

「うん。今まで撮った証拠写真も返してあげる」

 そう言われ、ネギは写真を受け取った。

「よ、良かった。これで問題が一つ減ったです〜」

 心底安心したネギの頭を明日菜がよしよし、と撫でる。

「どうしたんですの、ネギ先生?」

 と、そこへ風呂上りのあやか達がやって来た。

「あ、皆さんお疲れ様です。いや〜、実は朝倉さんと仲良くなって・・・ね、リュー君」

「まぁ・・・」

「そーそー♪」

 そう言って和美はグイッとネギとリュークの肩に手を回した。それを見て、あやかとまき絵が過敏に反応した。

「ちょ、ネギ先生、リューク先生それは・・・」

「こら、お前達。もうすぐ就寝時間だぞ。自分の班部屋に戻りなさい!」

 が、そこへ新田がやって来て皆を窘めた。

「あ、新田先生。見回り僕も行きます」

「や、これはすみませんな」

 そう言ってリュークと新田は見回りに向かった。

「いや〜。リューク先生もネギ先生も大変3−Aをまとめるのは大変ですな〜」

 新田が歩きながらそう言うと、リュークは苦笑いを浮かべた。

「ええ。でも、あれぐらい元気がある方が良いですよ」

「あれ? 新田先生にリューク先生」

「お、源先生に瀬流彦君も見回りですか」

 廊下の角で、ばったりと出会い、四人はそのまま一緒に見回りをする事になった。

<きゃ〜! きゃ〜!>

<ドンッ! ドンッ!>

<ぎゃあああ!>

<ドタバタ!!>

 見回りをしていると、やけに3−Aの部屋が五月蝿く新田がワナワナと震える。他三人は後ろで困ったような顔をしていると、新田がおもむろに3−Aの部屋の扉を開けた。

「こらぁ3−A! いーかげんにしなさい!!」

 そして騒いでた連中全員を正座させ、説教を始める。

「全くお前らは、昨日は珍しく静かだと思ってれば・・・」

「(そりゃ酒飲んで寝てたしな〜・・・)」

「いくら担任のネギ先生が優しいからと言って、学園広域指導員のワシがいる限り、好き勝手はささんぞ!

 これより朝まで自分の班部屋からの退出禁止! 見つけたらロビーで正座だ、分かったな!」

 それには多数の非難が上がるが、新田は無視して部屋から出て行った。リュークはハァと溜め息を吐いて、部屋から出て行く。

 すると、裕奈、美砂、まき絵から不満声が上がった。

「ぶ〜。つまんな〜い。枕投げしたかったのに〜・・・ネギ君と」

「ネギ君とリュー君とワイ談したかったんだけど・・・」

「リュー君と一緒の布団で寝たかったのに〜・・・」

「い〜から、あなた方は早く部屋にお戻りなさい!!」

 あやかが表情を引き攣らせながら怒鳴ると、和美が腕を組んで笑っていた。

「くっくっく・・・怒られてやんの」

「あ、朝倉さん〜! 今まで何処に行ってたんですの〜!? 卑怯者〜!」

「まぁまぁ。私から皆に提案があるのよ」

 怒るあやかを宥め、和美は何かを企んでる笑みを浮かべたのであった。


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