魔・武・仙の物語【第十四章】

 

「我 古の契約を結びし者 我が呼びかけに答えよ 我 此処に誓う 汝らと共に歩まん事を 汝らと共に戦わん事を・・・」

 するとリュークの体から凄まじい魔力が解放される。四神もそれに気付いたのか、攻撃をやめ、リュークの方を見た。

「何や・・・何するつもりや?」

 千草もリュークを凝視していた。

「深淵の眠りより目覚めよ 我が力の源よ・・・」

 キィィィ!!

 その時、結界の周囲に四つの光の柱が浮かび上がった。それぞれ、赤、青、黄、緑の色をしている。

「出でよ 水の大精霊ウンディーネ!!」

 リュークが叫ぶと青の柱が砕け散り、その中から薄い白色のローブを纏い、槍を持った青髪の女性が現れた。

「出でよ 地の大精霊ノーム!!」

 今度は黄の柱が砕け散り、中から金槌を持った一メートルぐらいの小人の老人が出てきた。

「出でよ 風の大精霊シルフ!」

 次に緑の柱が砕け散り、中から緑色の帽子を被り、トンボのような羽を持った五歳児ぐらいの男の子が弓矢を持って現れた。

「出でよ 炎の大精霊サラマンダー!」

 そして最後に赤い柱が砕け散り、中から全身炎で五メートルの蛇のようなものが現れた。

 皆はそれを見て、思わず腰を抜かす。エヴァやネギも大きく口を空けてポカーンとしていた。

 リュークはゼェゼェと息を切らし、フッと笑みを浮かべた。

「神を倒すならそれと同等の存在をぶつけてやれば良い。創生の頃より世界を支えてきた大精霊を召喚する精霊魔法の極みだ・・・」

「馬鹿な・・・あの小僧、これ程の・・・」

 エヴァは予想外の存在に呆然と呟いた。

 大精霊達はゆっくりとリュークの方に向き直る。

<マスター、ご命令を>

 まるで頭に直接語り掛けてくるようにウンディーネが言った。リュークはフッと笑い、四神を指差した。

「アレを倒せ」

<ほっほ。なるほど四神か>

<きゃはは! 久し振りに腕が鳴るね〜!>

 ノームが金槌を振り回し、シルフが楽しそうに辺りを飛び回る。と、シルフは腰を抜かしている連中を見て、彼女達の前に飛んで来た。

<ふっふ〜ん! 僕は風の大精霊シルフさ! お姉ちゃん達、僕が出て来たからには、もう安心だよ!>

『・・・・・・・』

 一同は大精霊などという不可思議な存在に、思いっきり普通に話しかけられ、目を丸くした。

<シルフよ、早く来い>

 と、そこへサラマンダーに言われ、シルフは唇を尖らせて飛んで行った。

 大精霊達は四神と対峙し、千草は冷や汗を垂らしながらも、冷笑を浮かべてリュークに言った。

「はん! 大精霊だか何だか知りまへんけど、神に勝てるわけあらへん!」

「・・・・やってみれば分かる。行け!」

 リュークが言うと、ウンディーネは玄武に、ノームは白虎に、シルフは朱雀に、サラマンダーは青龍に向かって突っ込んで行った。

<はぁ!!>

 ウンディーネは槍を玄武に向かって突き出すが、玄武は甲羅で防ぎ、尻尾の蛇で巻き付いて来ようとする。ウンディーネは絡み付かれて動けなくなるが、パシャッと体が液体になって拘束から抜け出した。

 そして再び体を形作ると、槍を縦にして目を閉じた。すると、池の水がウンディーネの槍に集まり、それを思いっ切り薙ぎ払った。すると水はドリルのように玄武に向かう。玄武は閃光を放って迎え撃つが、ウンディーネの攻撃は閃光を分散させ、玄武の頭を貫いた。

<そりゃ!>

 一方、ノームはその小さな体には不釣合いな金槌を白虎に向かって打ち付けるが、如何せん体格差があり過ぎる。白虎は剣のような爪を振り下ろすが、ノームはヒョイッと避ける。

<ほっほっほ。流石に神を名乗るだけはあるのう・・・・じゃが>

 ノームは目付きを変えると、金槌を回転させた。すると周りの土が磁石のように金槌に集まっていく。金槌は巨大になり、白虎ぐらいの大きさになった。ノームは自分の十倍近くある金槌を片手で持ち上げた。

<ほっほ。喰らえい!>

 そして、思いっ切り振り下ろすと白虎の脳天に直撃した。

<きゃはははは!! たんのしぃ〜!>
 
 シルフは朱雀の炎を避けながら矢を放つ。だが、朱雀も翼でソレを防ぐという一進一退だった。シルフはキキィッと止まると、ポリポリと頭を掻いた。

<う〜ん・・・楽しいけど、何か飽きちゃった。そろそろ終わらせよ〜っと>

 言うと、シルフは弓を背中にやって両手を挙げた。すると辺りの気圧が変化し始めた。

<えい!!>

 ズンッ!!

 掛け声と共に朱雀の真上に強烈な気圧(プレス)がかかった。朱雀はそのまま気圧に押し潰され、真下に急降下していった。

<・・・・・・・・・>

 青龍は動かなかった。否、動けなかった。火は破壊の象徴。青龍は己より小さいサラマンダーに恐怖していた。

<消えよ。そして眠りにつくが良い。望まざるして目覚めたものよ>

 そう言ってサラマンダーは朱雀の数倍は強力な炎を吐き出した。青龍は炎に包まれ雄叫びを上げて消え去った。

 四神は光に包まれ、弾け飛んで消滅した。その光景に千草は愕然とした。

「ア、アホな・・・神が・・・京都最強の守護神が・・・」

「大精霊は創世の頃より自然界を見守り持ち続けてきた偉大なる存在・・・」

 リュークはマテリアルソードに光の刃を宿し、千草に詰め寄る。千草は「ひぃ!」と声を荒げ、後ずさった。

「即ち大精霊も神に等しき存在だ・・・・如何に四神が神とはいえ、格が違う・・・・これで貴様らの企みも・・・終わりだっ!!」

「ひゃああ!!」

 ドカッ!!

 リュークはマテリアルソードを千草の真横に突き刺した。千草はガクッと腰を抜かし、そのまま気絶した。

<マスター・・・>

 そこへ大精霊達がリュークの前に降り立った。

「・・・・また力を貸して貰う時が来たら呼ぶからな」

<はい>

 ウンディーネは頷き、ネギ達にペコリと頭を下げた。ノームは髭を擦りながら笑い、シルフはバイバイと手を振った。サラマンダーは無言のまま消えていった。

「ふぅ・・・」

「!? リュ、リュー君、その髪!?」

 ネギはハッとなってリュークの髪を指差した。リュークの金髪は、見る見る内に真っ白になっていった。

「ああ、これか・・・大精霊を召喚した時の副作用だ。何、少し眠れば元に戻る・・・ふわ」

 リュークは欠伸を掻くと、半眼でネギを指差した。

「良いか、ネギ〜? 今回は大精霊を召喚して勝てたが、上級の神や悪魔となると話は別だ・・・そこんトコ良く覚えて・・・お・・・け・・・」

 ドサッとリュークは倒れると、静かに寝息を立て始めた。

「よっと。ん〜、意外に軽いでござるな。とても、あんな戦いをしたとは思えないでござる」

 一番タッパのある楓がリュークを背負って言うと、ネギは微笑んで頷いた。

 

「ふわ・・・」

 朝、リュークは目を覚ますと隣でエルが眠っていた。どうやら総本山に帰って来たようだ。そっと自分の髪に触れるとまだ白い。まだ魔力が完全に戻ってないようだ。

 その時、ふと表が騒がしいので、顔を覗かせると、何やらネギと刹那が揉めていた。

「だから、これからは自分の意志でこのかさんを守って下さい!」

「だから無理なんですってば!」

 ネギは刹那にしがみ付いて必死に引き留めてるようだった。

「何やってるんだ?」

 手摺りに腰掛けてお茶を飲んでるエヴァに尋ねる。

「刹那が自分の正体を知られたから、ぼーや達の下を去るんだと」

 で、ネギに引き留められていると説明し、リュークは納得がいった。リュークはフゥと息を吐くと、ネギと刹那の方に詰め寄った。

「別に見られても黙ってれば問題ないだろう。僕とネギだって魔法使いだし、エヴァンジェリンさんなんて吸血鬼だ。別に今更、烏族とのハーフだからって、ウチのクラスじゃ関係ないだろう?」

「リュ、リューク先生・・・」

「それに・・・」

「せっちゃん、せっちゃん大変やー!!」

「大変よ、刹那さ〜ん!!」

「ぷげら!」

 と、そこへ無駄にテンションの高い明日菜と木乃香が突っ込んできた。

「な、ななな何事ですか!?」

「実は3−Aの旅館に飛ばした私達の身代わりの紙型が大暴れしてるらしいのよっ!」

「えええ〜!?」

 すると屋敷から皆が飛び出して来た。

「お! 此処にいたか桜咲!」

「ネギ坊主、リュー坊! ホテル嵐山へ急行するアルよ〜!」

「ほら、刹那! 身代わりはお前の専門だろ!」

「せっちゃん、はよ〜!」

 と、皆が刹那を呼んでいた。刹那は唖然としていると、リュークがポンと彼女の背中を叩いた。

「貴女が何だろうと関係ないんじゃないのか、彼女達には?」

「そうですよ! 僕らも黙ってますから・・・」

 その言葉に刹那はグスッと目に涙を浮かべた。

「仕方・・・ないですね。分かりました、行きましょうお嬢様!!」

 そう言って刹那は微笑むと、木乃香の後を追った。リュークはフッと笑うと、着替えようと部屋に戻ろうとするが足をフラつかせた。

「ふん。あんな大魔法使って、ちょっとやそっとで回復するか」

 倒れそうになった所をエヴァに掴まれ、支えられた。リュークは最初、驚くがやがてプッと笑った。

「ああ、悪い」

 長かった修学旅行の騒動も一先ずは段落したのだった。

 

 修学旅行四日目。

「おや? 来たようですね」

「うむ」

 詠春と一緒にシオンは自販機で買ったお茶を飲んでいると、道路の向こうからネギ+五班+和美、エヴァ、茶々丸がやって来た。ついでにカモも。

「あ、あれ? シオンさん?」

「ご苦労じゃったの〜、ネギ」

 『大勝利』という扇子を広げるシオン。ネギは何故か彼女が詠春と一緒にいたので驚いていた。

「そういえば朝からリュークの姿が見えなかったけど・・・」

「うむ。引っ込んでおった方が魔力の回復も早いのでな。朝早くホテルを出てワシと入れ替わったのじゃ」

 この中でハルナ以外はネギやリューク達が魔法使いである事を知っている。だが、ネギ、明日菜、刹那以外はシオンを見た事が無い。

「ねぇ明日菜〜。このお嬢ちゃん、誰?」

 ハルナが尋ねると、明日菜はどう答えたものか返答に戸惑った。と、シオンが扇子で口許を隠しながら自分で答えた。

「ワシはシオンと申す。リュークとネギとは古い馴染みじゃ」

「あ、そうなんだ〜。そういえばリュー君、朝から姿が見えないね」

「あ奴の事じゃから京都土産をじっくり選びたいから土産屋散策でもしとるのじゃろう」

 思いっ切り扇子に『口八丁』と書いているのだが、ハルナは信じている。

「なぁアスナ。あの子ってリュー君なんやろ?」

「ちょっと違うみたい。体は同じだけど全くの別人なんだって」

「信じられないね〜」

 小声で会話する木乃香、明日菜、和美。その小声の会話を聞いて、エヴァが笑みを浮かべて呟いた。

「ふん。一つの体に三つの魂か・・・・・主体は小僧で、後の二つは補体といった所か。普通の人間ではないと思ったが、そういう事だったのか」

「拒絶反応の傾向も見られません」

 つくづく不思議な奴だと、エヴァはフッと目を閉じて笑った。

 

「此処です」

 ネギ達は詠春に案内され、彼の父が使っていたという別荘にやって来た。そこは茂みの中に隠れるようにヒッソリと建ち、天文台まで付いていた。

 中に入ると図書館並に本棚が並び、本が敷き詰められていた。

「わ〜」

「すご〜い、本が沢山」

 図書館探検部の方達はその本の山を見て、目を輝かせる。中は外に比べて綺麗だった。

「彼が最後に訪れた時のまま保管しています」

「此処に・・・昔、父さんが・・・」

 ネギはゴクッと唾を飲み込んだ。

「うわ、凄い本だよ、コレ」

 既にハルナ、夕映、のどかは本を手に取って読んでいる。

「オイ、良いのか、アレ?」

「素人目には何の本か分からないでしょう。お嬢様方、故人のものですから手荒に扱わないで下さいね!」

 シオンも少しばかり興味が沸き、適当なのを取って読んでみる。

「あ、シオンちゃんは読めるの?」

「馬鹿言っちゃダメだよ、のどか。十歳の女の子にギリシャ語なんて読める訳・・・」

「ふむ〜。どうやらコレはヘシオドスの『神統記』のようじゃの」

「読めるの!?」

 普通にページを捲って読んでいるシオンにハルナ達は唖然となる。

「どうやら殆どの本がギリシャ神話関連のようじゃの」

 実際は魔道書の類も幾つかあったのだが、彼女らはあくまでも一般人なのでそう誤魔化しておいた。

「シオンさん」

「ん?」

「少々、こちらへ来て貰えますか。このか、明日菜君、刹那くんも」

 ふとシオン達は詠瞬に上の階から呼ばれて彼の所に行く。

 詠春は、その部屋の机に置かれた写真立てを見せた。写真立てにはネギそっくりの少年と複数の人物が一緒に写っている。

「この写真は?」

「サウザンドマスターと戦友達・・・黒い服が私です」

「ほ〜・・・」

 シオンは興味深そうにネギ達と一緒に写真を見る。

「ふむ、戦友と言う言葉から察するにはコレは二十年前の写真じゃな。噂の大戦の」

「流石ですね。その通りです」

 詠春は頷くと、柵にもたれて話し始めた。

「私はかつての大戦で少年だったサウザンドマスター・・・ナギ・スプリングフィールドと共に戦った戦友でした。そして二十年前に平和が戻った時、彼は既に数々の活躍から英雄・・・サウザンドマスターと呼ばれていたのです。
 天ヶ崎 千草の両親もその戦で命を落としています。彼女の西洋魔術師への恨みと今回の行動もそれが原因かもしれません」

 ふとネギ達はスクナや四神を蘇らせた彼女の事を思い出す。もし、エヴァやリュークがいなければ、絶対にやられていただろうと思う。

「以来、私と彼は無二の友であったと言えます。ですが、彼は十年前に突然、姿を消します。彼の最後の足取り、彼がどうなったかを知る者はいません。ただし、公式の記録では1993年、死亡―――。
 それ以上の事は私にも・・・すいません、ネギ君」

「あ、い、いえ良いですよ。父さんが住んでいた所を見れただけでも、来た甲斐がありましたから」

 ネギは謙虚に笑ってそう言った。

「は〜い! こっちの皆さん! 難しい話は終わったかな〜? 記念写真撮るよ〜。下に集まって〜!」

「な、何? 記念写真じゃと!? ワ、ワシは勘弁じゃ! 魂抜かれる!」

「あんた、いつの時代の人間なのよ?」

 ビクッとネギの後ろに隠れるシオンに明日菜がツッコむ。

「ほらほら〜! シオンちゃんもエヴァちゃんも撮るよ!」

「いやああああぁぁぁぁ!!」

 和美に無理やり引っ張られ、シオンは涙を思いっ切り流して泣いている所を茶々丸に押さえられてる姿を撮られてしまった。

 

 翌日、帰りの新幹線内で騒がしかった2−Aはスヤスヤと寝息を立てていた。

「いやはや静かなものですな。あの2−Aが」

「はは・・・」

 魔力も回復してすっかり髪の色が戻っているリュークが苦笑しながら寝ている生徒達に毛布をかけてやる。

「リューク先生も大変だったでしょう?」

「ええ。ですが、良い経験になりましたよ」

 明日菜の肩に頭を載せて気持ち良さそうに寝ているネギを見てフッと笑うリューク。

「こうして見てると姉弟みたいね」

「ネギもまだまだ子供ですよ」

 しずなが微笑ましそうにネギ達を見ながら言うと、リュークは柔らかく微笑んだ。


管理人の感想。

本編に準拠している内容のようですけど。修学旅行編にて完全に話が変わってきていますねぇ。
千草は原作より少し手段を選ばない傾向ですし。オリキャラも出てきていますし、リューク視点ですので何か新鮮なかんじのお話です。でもリュー君本当に十歳って思うような感じですけど。それに四大精霊を扱っていますし。
でも四神も中国ではかなり古代からいる神ですからそれなりに強いはずなんですが。まぁ五番目の黄龍がいない分だけの差でしょうか。この登場した精霊は原初の精霊って感じだったら神に勝てるのも納得いきます。


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