魔・武・仙の物語【第十三章】

「ふぅ・・・階段が長い」

　�R毘古社の鳥居を潜り、リュークは関西呪術教会の総本山を目指していた。ＵＳＪを出た後、リュークは四班と別れ、ダッシュで此処までやって来た。既に日も傾き、夜の闇が辺りを包んでいる。

　まき絵達はＵＳＪでの件は寝惚けてたんだと適当に誤魔化しておいた。その辺は真名も手伝ってくれて助かった。

　やがて階段を登り切ると、桜が満開のとてつもなく大きな屋敷に辿り着いた。此処こそが関西呪術教会の総本山である。

【リューク様・・・？】

「ああ・・・」

　エルが訝しげに話しかけて来ると――ちなみにリュークは途中で新しい服を買っているのでエルはネコに戻っている――リュークは屋敷中を見渡した。

「静か・・・だな」

　ネギ達が既に到着していると思ったが、妙に静かなのでリュークは注意して屋敷に入った。そして、ある襖を開けて目を見開いた。

「な！？　こ、これは・・・！？」

　リュークとエルは目の前にあるのどか、和美、ハルナの石像を見て驚愕する。のどかはネギとの仮契約カードを使おうとしている所を見ると、どうやら彼女もネギが魔法使いだと知った様である。

【リューク様、これはまさか・・・！】

「ああ、魔法だ」

　言うとリュークは和美とのどかの石像に触れた。

「解き放て」

　するとポウッと光が浮かび、二人は煙に包まれると元の体に戻った。

「え？　あ、あれ、リュー君！？」

「リュ、リューク先生！？」

「二人とも無事か？」

　驚愕する二人にフッと笑みを浮かべるリューク。和美とのどかは腰が抜けたのか、床にペタンと座り込んだ。

「立てるか？」

「あ、す、すいません・・・」

　リュークはのどかと和美を立たせると、キョロキョロと辺りを見回した。

「一体、何があった？」

「あ、じ、実は・・・」

　のどかは此処までの大体のあらましを説明した。関西呪術教会の長が木乃香の父親である事。親書を無事に渡した事。突然、白髪の少年が現れてハルナが石にされてしまった事。リュークは白髪の少年と聞いて、ＵＳＪで戦った少年と同一人物だと確信した。

　話を聞きながら歩いていると、木乃香の父親である近衛　詠春の石像を見つけた。リュークは二人と同じように詠春の石化を解く。

「う・・・！　こ、これは・・・！」

　詠春は急に石化が解けて、倒れそうになるがリュークが支えた。

「大丈夫ですか、詠春殿？」

「君は？」

「リューク・フォールサウンド・・・ネギと同じ魔法使いです」

「おお、君が」

「すいません。まさか、奴ら総本山に直接乗り込んで来るとは・・・」

　これなら、もっと早く来るべきだったとリュークは申し訳無さそうに頭を下げた。

「いえ、我々も甘かった。結界を破れる者がいようとは・・・」

「詠春殿。ネギ達は？」

　屋敷中を探したが、ネギ、明日菜、刹那、木乃香、カモの姿は見当たらなかった。夕映は咄嗟に和美が逃がしたと聞いた。

「彼らは・・・」

　ズオオオォォッ！！！

『！！？』

　その時、凄まじい音が大気を揺るがした。皆は顔を向けると、山の向こうに巨大な光の鬼の姿を見た。

「な、何アレ！？」

「あわわ・・・」

「アレは・・・もしかしてスクナか？」

「その通りです」

　詠春は苦々しげに顔を歪めると頷いた。どうやら敵の狙いはアレの復活だったようだ。アレほどのモノを召喚するとなると、並大抵の魔力では無理だ。リュークはハッとなって、詠春を見た。

「もしや、近衛さんが・・・」

「ええ・・・敵が木乃香を狙うのはあの子の中に眠る強大な魔力が目的だったのです。その魔力を使い、スクナを蘇らせて東日本の西洋魔術師を掃討するつもりなのでしょう」

　リュークはチッと舌打ちすると、屋敷から飛び出して行った。

「リューク先生！」

「エル！！　お前は残って詠春殿達の護衛をしてろ！！　アレは僕が片付ける！！」

【リュ、リューク様！！】

　エルが抗議の声を上げる前に、リュークは風の精霊魔法で飛んで行った。

「ん？」

　飛んでいる途中、リュークは下で何人か戦っているのが目に入った。

「アレは・・・古さんに龍宮さん？」

　ＵＳＪで別れた真名が古と一緒に、かなりの数の式神らしきモノ達と戦っていた。

「古さん、龍宮さん！」

　リュークはスタッと着地し、二人の前に立った。

「アイヤ〜！　リュー坊、どうして此処にいるアルか！？」

「やぁリューク先生。今度は足手まといじゃないぞ」

　驚く古に対し、真名はフッと銃を構えて言った。

「あらら〜。京はん達、ホンマにしくじったんどすな〜」

　ふと式神達の中から和やかな声が聞こえ、リュークは振り向いた。そこにはメガネをかけ、二本の小太刀を持つ少女――月詠が出てきた。

「貴様・・・月詠！」

「ども〜」

　リュークはマテリアルソードを抜いて構えると、ポンと真名が肩に手を置いてきた。

「此処は私達に任せろ。リューク先生は、あのデカイ奴を・・・」

「リュー坊、急ぐアルよ！」

　そう言われ、リュークは少し躊躇うがフッと笑みを浮かべ、式神達の方を向いた。

「なら・・・教師として少しばかり負担を軽くしてやろう」

　そう言ってリュークは魔力を集中させた。

「塵も残さん！！！」

　強力なルーン魔法を式神達に放つと、強烈な爆発が起こり三十体近く消し去った。一同はポカーンとその威力に呆然としている。

＜な、何や滅茶苦茶な坊主やな・・・＞

　式神の一体が呟くと、リュークは笑みを浮かべ再び飛んで行った。

「やれやれ・・・頼もしい先生じゃないか」

「続き始めるアルよ〜！」

　真名と古も自然と笑顔になり、再び戦闘を開始した。

　リュークは目前まで迫った所で、ネギと明日菜と刹那が白髪の少年と戦ってるのを見つけた。

「ネギ！」

「！？　リュー君！」

　リュークが呼ぶと、四人が彼に気付いた。リュークは白髪の青年に向かって火炎球を放った。

　白髪の少年は火炎球を避けると、リュークは三人の前に立つ。

「リューク！　あんた遅過ぎよ！！」

「悪い・・・」

　リュークは謝ると、マテリアルソードを構える。

　ズガァッ！！

「な！？」

　だが、その時、上からスクナの手が伸びてリュークを捕らえた。

「リュー君！」

【マジィ！　旦那が捕まった！】

　リュークはスクナの胸まで持ち上げられて行く。その隙を突いて、白髪の少年は詠唱を始めていた。

「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト。
　小さき王（バーシリスケ・ガレオーテ） 八つ足の蜥蜴（メタ・コークトー・ポドーン・カイ） 邪眼の主よ（カコイン・オンマトイン）　時を奪う（プノエーン・トゥー・イゥー） 毒の吐息を（トン・クロノン・パライルーサン）　石の息吹（プノエー・ペトラス）！！」

　その直後、相手を石化する煙が発生した。

「ぐ・・・！」

「フフフ・・・すまんどすなぁ。あんさん、ちぃ〜っとばかし強いから捕まえさして貰いましたわ」

　天ヶ崎　千草はスクナの肩の上で笑みを浮かべて言った。彼女前には木乃香がお札で口を塞がれて浮かんでいる。

「ま、このままスクナに握り潰されてんか」

「くっ・・・」

　ギリギリと力を込められ、リュークは苦痛で表情を歪めた。

「待て！　天ヶ崎　千草！」

「何！？」

　その時、彼女の名を呼ぶ者がいて千草は顔を上げた。そこには背中に白い翼を生やして刹那がいた。

「さ、桜咲さん・・・」

「リューク先生！　今助け・・・」

「僕より先に近衛さんを助けろ！」

「え？　で、でも・・・」

「これぐらい一人で抜けれる！　早く！」

　刹那は戸惑ったが、やがて意を決し千草の方に突っ込んで行った。千草は迎撃に式神を呼び出すが、刹那は一蹴し木乃香を助け出した。

「し、しもた！」

「（桜咲さん、烏族とのハーフだったのか・・・・やれやれ）」

　リュークはフゥと溜め息を吐くと、千草を睨み付けた。

「さぁて・・・僕も此処から脱出・・・」

「急いで脱出して下さい、リューク先生」

「は？」

　何処かで聞き覚えのある声がしてリュークは振り返ると、何故か茶々丸が銃を向けていた。

「か、絡繰さん何で？」

　確か学園から出れないエヴァと一緒に学園に残っていた筈だった。

「結界弾を撃ちます。急ぎ脱出して下さい」

「なぁ！？　ちょ、ちょっと待てぇ！！」

　が、茶々丸は問答無用で結界弾を放った。スクナはリュークと千草を巻き込んで、結界内に閉じ込められた。

「ふははははは！！！　情けないぞ、小僧！！」

「げ・・・」

　この嫌な高笑いを聞いてリュークは表情を引き攣らせた。するとエヴァが随分と楽しいご様子でこちらに向かって飛んで来た。

「私が今からデカイのを決めてやる！　死なないよう努力するんだな！」

　言うや否やエヴァは呪文の詠唱を始めた。リュークは結界内で必死に魔力を集中し、

「くっ！　わ、我を彼の地へ！！！」

「契約に従い（ト・シュンボライオン） 我に従え（ディアーコネートー・モイ・ヘー） 氷の女王（クリュスタリネー・バシレイア）　来れ（エピゲネーテートー） とこしえの（タイオーニオン） やみ（エレボス）！　えいえんのひょうが（ハイオーニエ・クリュスタレ）！！」

　リュークの姿が消えると同時に、エヴァの魔法によってスクナが完全に凍り付いた。

「つ、次から次へと・・・一体、何者やアンタ！」

「ククク・・・相手が悪かったなぁ女。ほぼ絶対零度、１５０フィート四方の広範囲、完全凍結殲滅呪文だ。そのデカブツも防ぐこと適わぬぞ。
　我が名はヴァンパイア・エヴァンジェリン！　『闇の福音（ダーク・エヴァンジェル』！！　最強無敵の悪の魔法使いだよ！！　あははははは！！！」

　ファウストの一見以来、久々の全力にエヴァはかなりテンションが高かった。

　その頃、リュークは・・・。

「あ、あのお子様吸血鬼が〜・・・」

　間違って湖の中に転移してしまい、必死で這い上がってきていたのであった。

　エヴァはスクナにトドメを刺すのに最後の詠唱に入った。

「全ての（パーサイス） 命ある者に（ゾーサイス） 等しき死を（トン・イソン・タナトン）　其は（ホス） 安らぎ也（アタラクシア）　”おわるせかい”（コズミケー・カタストロフェー）」

　パチンと指を鳴らすと、凍り付けにされたスクナはガラガラと音を立てて崩れていった。

「アハハハハ！！　バァカめ！！　伝説の鬼神だか何だか知らんが私の敵ではないわ！！」

　余裕綽々でエヴァは笑い、ネギ達の所に降りる。

「どうだ、ぼーや、小僧？　私の圧倒的なこの力、しかと目に焼き付けたか？」

「は、はい！　凄かったです、エヴァンジェリンさん！」

「そーか、そーか！　良し良し、いい子だ」

「けど何で登校地獄から抜け出せたんだ？」

　以前、リュークは呪いの精霊を操って彼女の力を戻した事があったが、今回はどうやったのか流石に分からなかった。その疑問に答えたのは茶々丸だった。

「それですが、強力な呪いの精霊を騙し続ける為、今現在、複雑高度な儀式魔法の上、学園長自らが五秒に一回、『マスターの京都行きは学業の一環である』という書類にハンコを絶えず押し続けてます」

　その言葉にリューク達は表情を引き攣らせた。ひょっとしたら学園長、死ぬかもしれない。

　だが、そのお陰で今のエヴァは全盛期と同等という事になる。ほぼ反則気味の強さという事だ。

「なるほどの〜。あのデカい化け物を倒した本物の化け物言う事か」

『！？』

「斬空閃！！！」

　突如、声が聞こえたと同時に気の斬撃が飛んで来た。リュークは京の姿を確認して舌打ちすると、マテリアルソードを出して、皆の前に立つ。

「風の精霊よ　我が剣に宿れ」

　そして、居合いのような構えを取り、一気に抜き放った。

「白狼撃！！」

　突風の居合いと気の刃が激突し、中間で相殺し合う。

「なら・・・これで如何ですか！？」

　そこへ京の前にステアが立ち、スペードのＡのカードを出す。すると周囲に風・雷・火の渦が発生し、皆を取り囲む。

「ふん。こんな子供騙し、私に通用するか」

　エヴァが笑みを浮かべると、リュークは風の精霊の力で渦の中心から飛び出した。そしてエヴァが渦を破壊すると、京とステアに向かって氷の矢を放つ。

　リュークはその氷の矢と共に京とステアに向かって突っ込んで行く。

「精霊剣・・・」

「くっ！　神命流奥義・・・・」

「風牙塵！！」

　ズガァッ！！

　京とステアはリュークの攻撃とエヴァの氷の矢が直撃し、湖に落っこちる。その際、リュークも腕を掴まれて、一緒に落ちた。

「リューク！」

「追います」

　明日菜が叫び、茶々丸が湖に飛び込んだ。

「リューク先生！」

「（くっ！）」

　リュークは茶々丸の姿を確認し、手を伸ばすがステアを背負った京が刀を突き出して来た。その際、リュークの肩を掠め、血が噴出す。

「（この・・・！）」

　リュークは肩の痛みを抑え、京の胸元を掴んだ。水中の為、呪文の詠唱は出来ないが、マテリアルソードには風の刃がある。それを掲げると、凄まじい渦が発生し、リューク達は渦に巻き込まれて行った。

「（こ、このガキ！）」

「（終わりだ！）」

　そして、マテリアルソードを思いっ切り京の肩に突き刺した。京はガボッと大きく口を開け、意識を失った。

「リューク先生！」

　茶々丸は渦に飲まれながらも必死にリュークの手を掴んだ。そこでリュークの意識は一旦、途切れた。

「う・・・く・・・え？」

　リュークは目を覚ますと、木乃香の顔が見えた。

「あ、リュー君、気が付いたえ？」

「近衛さん？」

　体を起こし、周りを見ると真名や古、楓に夕映もいた。後、見慣れない黒髪の少年が一人。

「リュー君、良かった」

　隣ではボロボロのネギが安堵した表情を浮かべていた。リュークは頭を振ると、自分が水の中で意識を失ったのを思い出した。

「ふん。あれぐらいの敵で情けないぞ、小僧」

「・・・・悪かったな。水の中は苦手なんだ」

　リュークは視線を逸らして言うと、エヴァはフッと笑う。

「あ、あはははは・・・・」

『！？』

　その時、笑い声がして全員が顔を向けた。そこにはボロボロ状態の千草が池の中から這い上がってきていた。

「天ヶ崎　千草！」

　刹那がバッと全員を庇うように立つと、真名、古、楓も彼女に並んで構える。

「ち、千草姉ちゃん！　もうやめろ！　俺らの負けや！」

　彼女の仲間であり、楓に負けた犬上　小太郎がそう訴えるが、千草は眼鏡を押し上げて笑った。

「まだどす。まだ終わってませんえ」

「諦めの悪い奴だ」

　エヴァが睨みを利かせると、千草はフンと鼻で笑った。

「ウチにはまだ切り札があるんや」

　そう言うと千草は懐から一枚の封書を取り出した。それはリュークが近右衛門に渡された親書だった。

「それは・・・」

　千草は封書を開くと、中から四枚のお札を取り出した。

「こればっかりは使いたくなかったんやけど・・・背に腹は変えられへん！」

　そう言うと千草は詠唱を開始した。すると急に地面が揺れ出した。

「な、何！？　何が起こってるの！？」

「これは・・・・」

「そこの精霊魔法の使い手の坊や。あんさん、この京都に住む最強の存在が何か知ってるか？」

　リュークは問われ、全員が彼に注目した。リュークは、しばらく考えるとハッと目を見開いた。

「まさか・・・」

「あんさんの考えてる通りや」

　すると更に揺れが激しくなった。

「ちょ、ちょっと何なのよ！？　リューク、最強の存在って何！？」

「・・・・神楽坂さん、７９４ウグイス？」

「え？　か、鎌倉幕府？」

「平安京や、アスナ」

　ベタな間違いをかます明日菜に木乃香が訂正する。明日菜は顔を赤くして、「それが何なのよ？」と問い返した。

「平安京は７９４年に桓武天皇が山背国の葛野と呼ばれていた所に造られた都だ。何でそこに都が造られたか分かるか？」

　皆が首を傾げる。頭が良いと言ってもネギはそういう雑学は詳しくないし、長く生きてるエヴァも興味が無い。だが茶々丸がデータベースを検索し、答えた。

「土地が中国の風水学的理想的地相である『四神相応』だったからですね」

「し、ししんそうおう？」

　聞き慣れない単語に明日菜が声を上げた。それに刹那が千草に刀を向けたまま、答える。

「四神とは東の青龍、西の白虎、北の玄武、南の朱雀の事を言います」

「そうだ。青龍は鴨川、白虎は山陰道、玄武は船岡山、朱雀は巨涼池と平安京は正に四神によって守護された都という事だ」

「ほんまに賢い坊ややな〜。そして、この四枚の札はそれぞれに眠る四神を呼び起こす為のものや」

『！！？』

　その言葉に皆は目を見開き、リュークは目を細めた。すると、遠方より四つの光が飛んで来て、千草の後ろに並んだ。すると空が真っ暗な雲に覆われ、辺りの空気が変わる。

　光はそれぞれ獣の形を為し始めた。黒い光は蛇の尻尾をした亀に、白い光は真っ白な虎に、青い光は青色の龍に、そして赤い光は伝説に出てくる鳳凰になった。どれもこれも巨大で十メートル近くある。

「き、きゃああああ！！　な、何よアレェ！！」

「あはははは！！　これが四神や！　ウチにも制御不能な京都最強の守護神！　スクナみたいな霊体とは格が違うわ！！」

　千草は高笑いを上げて言う。するとエヴァが真っ先に飛び出した。

「ふん。四神だろうが何だろうが私の敵では・・・」

　すると、それに気付いた朱雀が口から強烈な炎を吐き出した。エヴァは驚愕し、炎に飲まれて落っこちて来た。

「マスター！」

「エヴァンジェリンさん！」

「ぐ・・・な、何だ、あの力・・・！」

　体中焼け焦げ、エヴァは四神を睨み付ける。

「相手は化け物じゃない・・・古来中国より語り継がれている神だ。真祖とはいえ吸血鬼の勝てる相手じゃない」

　リュークが忌々しげに言うと、古が叫んだ。

「じゃ、じゃあ、どうすれば良いアルか！？」

　この中で最も強いエヴァが勝てないとなると、もう打つ手なしだった。

「・・・・・・・」

「ははははは！！　神に勝てる存在なんてあらへん！！　全員、死んでまい！！」

　千草が叫ぶと、玄武の尻尾の蛇がリューク達に向けて口を開いた。

「（まずい！）ネギ！　杖を借りるぞ！　全員、僕の所に集まれ！！」

　言うや否や皆、リュークの後ろに集まり、彼はネギの杖を取って地面に突きたてた。その瞬間、玄武は閃光を放つが、リュークが咄嗟に結界で防いだ。

「ふん、そんな結界、いつまでも持つわけあらへん」

　千草の言うように、リュークの杖を握っている手からは血が滲んでいた。

「リュ、リュー君！　これ以上やったらリュー君の体が・・・！」

「・・・・・・・エヴァンジェリンさん、一分ほど結界を持ち堪えさせてくれないか？」

　苦しそうな表情を浮かべながらリュークが言うと、エヴァは四神を見上げた。

「秘策でもあるのか？」

「ああ・・・」

　リュークが頷くのを見て、エヴァはギュッと杖を握った。

「ぼーや！　近衛　木乃香！　貴様らも手を貸せ！　いないよりはマシだ！」

「あ、は、はい！」

「それ握るだけでエエん？」

　言われてネギと木乃香も杖を握った。その圧倒的な圧力に三人は表情を歪める。

「リューク先生、どうするんです？　秘策と言っても相手は神・・・」

　刹那が頼りなさ気に尋ねてくると、リュークはフッと笑みを浮かべた。

「精霊魔法の極みだ。よ〜く見ていろ・・・神に対抗できる術を」

　そう言うとリュークは目を閉じ、詠唱を始めた。