魔界―弐―

 

彼女にとっては幾許の日が過ぎただろう、十日、一月、十ヶ月、それとも数年か、どれだけの時間を流れたのかも判然とはしない、先ず時間という観念はこの際の問題とならないのだろうが、長きに渡って彼女は彼女の思いを持ち続け。

 

慕情を募らせて魔界の野にて彷徨う、彼女の生まれた場所ではない魔の世界で一人っきりで。

 

彼女が育て上げた妖鳥は育ちあがり彼女の手を離れた彼女が成長した彼等を彼等に適した魔界の野にて放したのだから、その為に生まれた場所ではない魔界に彼女は足を向けた。

 

親として子の巣立ちが最後の仕事として、その仕事に寂しさがあったかどうかは彼女のみが知るところだが、彼女が生まれた場所でない魔界から帰らなかったのはその子に再び何処かで会えるという執着からきているのかもしれない、無論他の理由も考えられるのだけど、彼女は帰らなかった。

 

仕事の終わった彼女は子が手元から離れ再び独りとなり魔界の野にて彷徨う、元々が人界生まれの精霊、魔界に知己はいない、力においても彼女の育て上げた子供達に劣る力量しか持ち合わせてはいない、そんな彼女にとっては魔界は人界のそれよりも危険度が高い。

 

それこそ下級の、荒野に徘徊する魔獣を相手にするのも手を焼く始末だ、力の無い彼女にとってはそれ程住み心地のいい大地とは成り得ない。

 

それでもこの地にい続けることを選択したのに理由がないということはないだろう、力のない彼女にとっては気紛れでいる場所にしては物騒に過ぎる。

 

無論、年月を経て魔界の空気により力を練り上げ食事を得ればそれなりの力を得られたのかもしれない、元々の存在が魔性に組する精霊、力の糧は魔界のほうが満ち溢れている、いやそれこそこの地に立った瞬間に彼女の力は飛躍的に増した、嘗ての数倍、だがその程度魔界の地にはごろごろいる、彼女が別段特筆するように強化されたわけではない。

 

来た当初のフェレスに玉藻も格段に力を増したのだから、魔界の空気は魔性に力を与える。

 

だが、彼女はそれを入れても弱かった、弱っていたというのが正解にちかい。

 

食人精霊、人を糧として得ることに力を得るのが彼女の本性、本質、生まれながらに購えない性分だ、その性分を彼女はある日を境に辞めている、その日から一口たりとも人の肉を貪り血を啜ることはない、これでは力の減退からは逃れられない。

 

別のものを口にしてもそれは彼女の栄養としては不十分なのだ、故に弱る。

 

何を口にしても己の業により飢えを満たしても力の源とは足り得ない、それこそ魔獣や魔族の血肉を食らってもだ、遥かに人間よりも力を秘めた肉を食らっても力の回復は微々たる物、力のない生物は淘汰される、特に力の位置付けが高い魔界では。

 

そんな世界に居続けるのに人を食べないのは完全に自殺行為、そもそもが人間の居ない魔界というのは只それだけで彼女にとって存在するのには相応しくないのだから。

 

それでも魔界からは離れようとせず、一時的に人界に行き人を攫って食べようともしなかった。

 

食さないのは彼女の誓いだ、彼女一人の誓いだ、彼女が只一人で、自身に課した誓いだ、それゆえに彼女は己に立てた誓いだこそ、守り通している。

 

人は食べない、誰にも口にしなかった彼女自身が定めた戒めの誓い。

 

その誓いを守り通している、彼女が自分で決めて自分で実行している誓い、彼女が惚れた人間の男に対する自分の想いへの誓い、ただ一人が守り通す誓い。

 

彼女の思い、彼女が惚れた男と対面していた時間は一日を越えない。

 

たったそれだけの短い時間だ、たったそれだけの束の間の出会いだ、彼女が精霊として存在する時間に比べたら僅かに過ぎる時間に違いない、瞬く間の時間に時間に違いない。

 

だが、それがどうした、時間の長さは問題と成り得ない。

 

彼女には大切な時間だったのだろう、彼女は化け物だ、人を喰らう化け物だ、それが彼女にとっての当たり前とはいえ、それが彼女の在り方として当然過ぎるとはいえ、それが彼女にとってなんの恥じ入るような必要もない食欲の充足だったとはいえ、彼女は人間から見れば化け物だ、彼女の食料からしてみれば猛獣を超える化け物。

 

そんな彼女に彼女が惚れた男は何をした“惚れろ”、そんなことを望むか、そんなことが出来るならば滅ぼすことも拘束することも出来たはず、それだけの力を持っていたことは知っている。

 

ならば彼女は化け物だ滅ぼしてしまえばいい。

 

そして滅びそうに成る時何をした“見捨てることが出来ない”という理由で“癒した”、ただの化け物に貴重な道具を費やす、それも人間に害成す化け物が死ぬだけ、それが“見捨てられない”、その為だけに勝利への必要な道具を費やす、敵でしかなかった化け物でしかなかった彼女に。

 

馬鹿だ、そんな男は大馬鹿だ、救いようがない阿呆だ、見捨ててしまえばいい、捨て置けばいい、自分が生き残る為に道具を使えばいい、そうすれば自分の命が助かる可能性は高まる、連れていた女の命も助かる、仲間の命も助かる、勝利の可能性が高まる、全てに於いて良いこと尽くめ、迷う必要すらない、迷う暇すら必要ない。

 

それなのに滅び行くのが“見捨てて置けない”、そんな理由で男は何の躊躇いもなく彼女を救った、其処には何の打算もなく、何の考えもない、ただ“助けたい”だ、そうでなければ彼女は滅びていただろう、一時の迷いでも生じていたら彼女は滅んでいた、ひとつの単純な意思で彼女を滅びから救った。

 

一時の迷いもなく、一瞬の逡巡もなく。

 

そんな行動を、そんな打算のない行動を咄嗟に行える、そんな存在に惚れる、慕情を募らせる、焦がれる、愛する、ただの一時のこととはいえ、ただの一度の出会いとはいえ、そんな感情を持ってしまうだろう、もってしまって何が悪い。

 

そんな大馬鹿野郎に惚れる、それのどこが悪い、長い時を存在して、長い時間を人を食べて過ごした彼女が人に思いを募らせる、確かに今更だ、捕食者が被捕食者に恋をする。

 

前代未聞だ、それでもどこが悪い、意思あるものが他の意思あるものに感情を募らせて何が悪い、そんな一時の感情の為に力に必要なものを食べない、そんな誓いを立てて何が悪い。

 

いや誓い以前にあんな、自分が惚れてしまうような人間がいるのなら人間を食べることに恐れを抱いたのかもしれないが。

 

いつか似たような人間を食べることが、それとも食べ続けて、惚れた男の手にかかる可能性があることが、それとも食べていることが男の耳に入ることが、それとも・・・・・・、その結果嫌われてしまうことか、どれかに恐れを抱いたのか。

 

様々だ、様々だけれど、理由としては彼女が女性だから、それで十分じゃないだろうか、思いを掛けるだけの相手が見つかったのならその相手に綺麗に見てもらいたい、汚いところは見られたくはない、嫌われたくない、好かれたい、そんなものだろう。

 

まぁ、彼女の本心はどこに在ろうと知る由もない以上戯言なんだけど。


でもそんな彼女はその時から人を食べないで隠者のような生活を営み、人の手により造られた魔族を育て上げ、魔界の野に放した。

 

 

 

 

 

それからの魔界でのひとりの生活で、これからの一つの偶然、もしくは必然が彼女にはあった。

 

“想いは力となる”そんな戯言ではないけれど、どれだけ想おうと祈ろうと力にはならないのだけれど、そんな戯言のような一つの奇跡だ。

 

その奇跡が彼女にとっての吉兆のどちらを示すのかはそれもまた判らないのだけど。

 

 

 

 

 

弱っていた彼女、そんな彼女が生き残れる場所とはどこだろう、力が支配する土地での彼女にとっての安寧はどこにあるだろう、戦う力がない、戦う術が無いそんな彼女にとっての安全は。

 

それは誰もいないところだ、力のある存在が近づかない所、力ある魔獣がいないところだ。

 

そんな場所があるのかと問われれば在る、故に彼女が赴いた土地はそんな土地だったし、そんな土地に誰かと出会うのは一つの奇跡だ、ましてや知人となると奇跡を越える。

 

だが条件を考えると必然といえるほどの可能性だ、誰もが近寄らない安全な場所、魔界とてそういう場所が皆無な訳でもない、年がら年中殺し合いをしているわけでもないのだから安全地帯が無いわけでもない、それでも“意図的”に安全過ぎる場所、争いが全くといっていい程起こらない場所は少な過ぎる。

 

その場所に足を向けた彼女、その選択を選んだ時点で偶然は必然だ、少なくとも奇跡といえるほどの希少なものではありえない。

 

ある哀れな青年の為に意図的に平穏を作り出された土地は力ない存在が魔界に生きるには絶好の場所だった、その場所を選んだ偶然と、その先にある必然。

 

勿論、彼女が魔界に来て、帰らなくて、そして人を食べないことを続けて、安全な場所を探し、その場所を知り、その場所を選択する、ここまでの選択から生じる可能性は確かに奇跡の領域だ、だが奇跡の後にあったのは必然。

 

出会うべくして出会った。

 

 

 

 

 

その日、彼女はいつものように彼女が想う、そして罪悪感を募らせる男がいる家を見渡せる丘の上に座り込んで辺りを眺めていた。

 

時折後ろを振り返り家の様子を頻繁に確認しながら。

 

その確認には意味が無い、自分がこの場所にいるのは男を落ち着かせる為だし外敵が来るとしても自分が見張っている、只振り向くのは気になるから、それだけだろう。

 

それでも彼女は頻繁に後ろを見返し、そして。

 

「どうしたの。横島君の傍にいるのは貴女でしょ、メドーサ」

 

自分の後ろから近寄って来ている蛇神に気付き、声を掛ける。

 

「ああ、今は・・・・その、な・・果てたところでね。よく眠ってる、狐のお嬢チャンとベスパに任せて私は出てきたのさ。火照りも覚ましたいし、あんたはあいつの事を少しでも聞きたいだろう」

 

僅かに頬を染めて答える、果てた、火照る、彼女と彼がした行為はそういうことだろう。

 

この僅かな仕草が今のメドーサが彼に抱かれる、二者間の行為が単なる性欲の発露ではないとしても、その行為を好んでいることは判る。

 

その言葉に彼女は特に何も動揺した顔は表さず、そもそも彼女は彼が少しでもいい方向に向かってくれるなら自分に微笑んで貰おうとは思ってはいない、そんな資格は無いと思っている。

 

そんなことはどうでもいい、彼に一番おびえられる彼女はこの地に来てから眠っている彼しか眼にしたことは無い、そんな自分がそういう対象に成り得ないことは理解しているし、そもそも眼に、偶然にでも入る範囲にいることのほうがどうだろうとさえ思っていたのだから。

 

彼女にとって考える時間というのは余りあるほどにあった。

 

彼女がこの地に来てから他の仲間のように彼の世話を焼くことは出来ない、幻術や何らかの術を使えばそれも適ったのかもしれないが、彼女はその手の手段をつかっても“もし”自分の姿や気配が彼に与える影響を考えると出来なかった。

 

と為るとやる事といえば見張りや、彼の見えないところでの仲間の世話といったことになる、嘗ての彼女からは想像にすることは難しいがそれらを買って出て行っても考える次官は十全とあった。

 

そして考えれば考える程に、そもそも今の彼女の精神状態において考えるという行為は何の生産性も無いだろうが、嫌な所が見えてくる。

 

最初は、何故居なくなったその時に探さなかったのだろう、数日経っても私は腰を入れて探そうとはしなかった、もし、あの時に探していればもう少しマトモな状態で助けられたかもしれないのに。

 

何で一度目で、一度目に部屋を探した時に文殊を見つけることが出来なかったのだろう、あれがあればもう少し早く見つけられたのに。

 

何で私は危険性に気付かなかったのだろう、文殊は使いの良すぎる道具だ誰かが独占することを考えられたはずなのに、そんな能力を持つ人間がどんな末路を得るのか知らなかったわけではないのに、何故私はその対策をしなかった。

 

考えれば考えるほど自分の不手際が目に付いてくる、考えれば考えるほどに自分のせいだと思えてくる。

 

それに加えて彼女は思考を巡らす、悪いほうに。

 

そもそも私は何をしていた、扱き使って、殴って、何かを彼に報いたか、正当なギャラは払わず、時には苛立ちの紛らわす為に殴りつけた、それでも肝心要の所で私は守られてきた、自分は頼ってきた。

 

その為の対価を何も払わずに。

 

そして頼り続けてきた、あの時も、最後の最後まで。

 

あの時あの瞬間あの場所で私は何をした、私は何をさせた、私は誰だ、あの時私が彼に何の選択を要求した、世界か愛しい人か、そんなことを選択することを彼に選ばせた。

 

あの時彼はその義務は無かった、そんなことをするべきじゃなかった、あんな言葉を吐くべきじゃなかった。

 

あの時結晶を破壊することを選択するのは私だった、少なくとも彼にその選択だけは任せてはいけなかった、そして実行するべきも彼以外だ。

 

そして私は誰だ、彼の雇用主だ、経験も知識も年齢も上の大人だった。

 

あの時の選択は十七の彼に任せてはいけない選択だった、十七の彼に任せるべきではない、任せるなど考えてもいけないこと。

 

それでも私はあの時も最後の最後まで彼に頼っていた、彼に任してしまった。

 

そんな考えが彼女に次々とわいてくる、自分は何て残酷なことをした、自分は何て我侭だった、自分は何て素直じゃなかった、自分は何て子供だった、自分は何て無責任だった。

 

そうした考えは彼女に取り付く、そんな考えは彼女を病ませる、どこまでも、どこまでもだ、果てが無いほどに、底が無いほどに。

 

そんな彼女がもう一度でいいから微笑んで貰いたい、抱いてもらいたい、触れてもらいたい、言葉を、怯えからくる以外の言葉を掛けてもらいたい、そんな資格がどこにある、そんな権利がどこにある、彼女は自分でそういう考えを結論付けた。

 

そういう結論が出るほどに、そういう結論が出てしまう程に見返した自分は愚かで憎かった、無力で無思慮で無責任で哀れなほどに愚かな自分に。

 

あの女と同じくらいに憎かった、彼をあんなふうにした連中と同じくらいに憎かった。

 

だから彼女は彼の前には顔を出さないことを誓った、それでも彼女がこの場所を離れる選択が出来なかったのは彼女の弱さなのかもしれないのだけど。

 

離れた時に彼に何かが起こることを恐怖する彼女の。

 

故に彼女は彼が起きている時は離れて見張りに立ち、眠っていたりする時にはホンの偶にだが寝顔を見るに留まっている、せめて顔だけでも見てしまうのも彼女弱さか。

 

 

 

 

 

「横島君はどう?」

 

「あたしが最初に来たときよりも随分安定しているよ。ワルキューレやべスパならもう問題ないようだしね、狐のお嬢ちゃんでもそれ程怯えない。パピリオの奴は、あんたと同じで怯えられるのが怖いのかあんまり近寄ろうとしないから、慣れが出来てないみたいようだけどね」

 

「そう」

 

彼女の返答が簡素なのは何時もの事だ、感情を抑えているのか彼女は話を聞くことを望んではいるが明確に何かを示そうとはしない。

 

そんな様子の彼女を見てメドーサは口を開く。

 

「そろそろアンタも顔を出してやったらどうさ。横島はもうアンタが顔を出しても激しく怯えることは無いだろう。偶にアンタの名前を呼ぶ、どうしてるのかってさ・・・・・・・・・・聞いてくる。こっちとしても誤魔化すのも限界があるよ。横島はアンタが自分を助け出したのを知っている」

 

最後の言葉で彼女は僅かに反応する、背中越しに語りかけているメドーサにそれ以上の変化は読み取れないが、変化、もしくは動揺は見れる。

 

そして言葉を続ける。

 

「アンタがやったことじゃない。何だかんだでアンタが横島の近くに居てきたのさ、だから横島はアンタを求めてる。そもそもアンタの姿はそれ程使われてないってのはヒャクメの奴から教えられているんだろう。アンタが怯えられるのはアンタが他の怯えの対象を連想させるから・・・・・・・・その辺は断ち切れつつあるんだ。リハビリ代わりにもアンタが顔を出したほうがいい」

 

そんな言葉にも彼女は反応するが言葉は返さない。

 

そもそも自分の姿が彼に対して使われていないのは判ってはいた、激しく怯えられるのは自分繋がりで他を思い出すのが多いからだ、彼女が彼の一番近くにいて長く近くにいたから共通となる点が多い、その為だ。

 

あの女は自分の娘の姿を使おうとはしなかったのだから。

 

それから暫く彼女は口を開かず。

 

「考えておくわ」

 

そう口にして口を閉ざした。

 

正確に言うのならば顔を上げて言葉を紡いだ彼女が何かに気付いて飛び出したからなのだが。

 

 

 

 

 

メフィスが気付いたのは一人の影、此方に近づいてくる一人の影。

 

その影に向かって空を駆け、その後ろにメドが続く、この場所に誰かが訪れたり侵入することが皆無に近いとはいえ偶にいる。

 

相手が意思の疎通が可能ならば魔界軍の演習場を理由に退去させ魔獣ならば叩きのめすか他の場所に連れて行くかを選択する、最悪戦いも含まれることになる。

 

その影に迫ってメフィスとメドは気付くそれが知りえる姿だと。

 

メフィスは自分が携わった仕事で関わった精霊と、メドは嘗て人間の企業に渡した精霊の壷の中身であることを。

 

 

 

 

 

この出会いは必然に近い奇跡だ、この出会いは奇跡に近い必然だ。

 

 

 

 

 

彼女、グーラーはそれから、彼のいる場所に居続けることになる、関わった以上は離れようが無く、ここで出会った以上は彼女にはまだまだ彼との因果があるということだろうから。

 

そして憎しみを募らせる、当然のように、当たり前のように、必然のように。

 

只、彼女もまた彼には怯えられない一人ではあった、彼女には一日しか接点が無い、それも敵として表れ、一日を除いては彼と彼女を繋ぐものが無い、彼女の姿を知るのは彼が壊れる前を考えるならば彼当人に彼女、おキヌの三人だ。

 

故に怯えは滲ませない、多少の回復を見込めた彼はグーラーの名前を呼びある程度の会話を出来たほどであった。

 

 

 

 

 

それから時間は経ち、時間が経過し、時は巡る。

 

 

 

 

 

彼は徐々に回復する、メドを対象に会話を募らせ僅かながらに微笑を浮かべ、そしてグーラーと談笑し時間をすごす、彼女に触れることを赦し、彼女とも逢瀬を交わす。

 

次はべスパが彼と交わる、その頃には彼は怯えを見せないようになっていた、暗い、陰鬱な何かを持ってはいたが、嘗てのあけすけな態度など望むべくも無いが、ベスパは彼が姉が愛した彼だと思えるぐらいには回復した時抱かれた、涙を流し、微笑を浮かべ、幾度も。

 

その頃にはべスパも彼を愛していたから、壊れて回復していく過程ですら僅かな優しさを取り戻していく、姉が愛した男が愛しくなってしまっていた。

 

それは嘗ての仲間に対する情ではなく、または創造主に対する情でもなく、初めて男に向ける情、そういう感情を経て抱かれ、いや彼女が抱いたと表現してもいいのかもしれない、それは上の二者に対しても同様だろう、彼は誰かを能動的に抱くとまでは回復していたのではないのだから。

 

絶対的に恐怖、他者に対しての恐怖を植え付けられている彼に自分から女を望む能動性は無い、あるのは真剣な情念を自分に向ける女に対して受動的に感情を返すだけ。

 

そして最後にワルキューレと玉藻が抱いた、その頃には回復は果たされたといってもいい。

 

誰かと一緒であれば外に出られる、親しい人間にならば要求も出来る、気兼ねも最小、問題はあるがこの揺り篭で生きるには十分な程に回復していた。

 

この時彼が壊れて十一ヶ月と二週間。

 

 

 

 

後書き、久しぶりの魔に〜です続編出すのはどれぐらいぶりでしょうか、節操無く作品数を出した報いとしての遅筆、楽しみにされている方には真に申し訳ないとです。

 

でも、これからも連載九本体制は変わらないのですが(連載といえるほどに筆が早くないのですが)嘗てのスピードが懐かしいものです。

 

昨年夏などA4で五十枚越えを週間ペースで書き上げ+連載作品を二つ回していたのですが。

 

後、これ以前は自サイトのほうに加筆修正版がありますが、どうもタッチが変わっているくさいです、努力はしているのですが。

 

なお、次からはフェレスを最初にやって後半で玉藻に戻って、やっと美知恵との対決です。

 

因みにこれ以後キャラ数が増えそうです、横島奪還チームの生き残りとか(死んだキャラはいます)

 

では次は何の作品か書いてるほうも未定ですがよろしくお願いします。

 

何故か最近終わりのクロニカル三巻目から読み出している作者でした〜(佐山が好きです+熱田)


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