吸血鬼の師匠―幼い頃の約束―

 

 

半同棲と言うか完全に同棲なんじゃないかという感じに最近居住し始めている凛、アル・アジフも誰も居ない凛の寮では昼に暇で仕方ないと殆ど同族のエセルのいるマンションに居ついてしまっているので問題は無い。

 

居ついた理由としては最近和樹の周りに女の気配が多いことがあげられる、後は対キシャ―対策、和樹一人では色々面倒であるからである、和樹が本来所持する概念武装は危険極まりないのでおいそれと使うわけにもいかないし。

 

何故に女一人、しかもストーカーにそんな警戒態勢をとらにゃならんと悲しくなりそうではあるが、和樹も凛もそれなりに猛者であるのに。

 

まぁ、それはおいといて。

 

今日は何故か、と言うか日曜日なのでこの家に居る4人全員が同じベッドについていた、しかも全員が全裸で和樹に縋り付く様に眠っている昨夜は和樹が三人相手に頑張ったようだ、その結果三人のロリ系美少女(凛は年齢的にロリでは無いような気もするが、なんとなく)が和樹に抱きついて眠る様はある意味壮観ですらある、本当に殺意が沸くほどに。

 

B組男子でもこの様子を見て殺意を覚えなければ雄であろうか、いや違う(反語表現)。

 

三人とも外見年齢は幼いが十分に男を魅惑する女の雰囲気を纏ってどことなく肉感的な肢体をしているのでその無防備な裸身を晒した寝姿は十分に艶かしい。

 

羨ましくなんか無いやい、電波です。

 

 

 

 

 

で、このまま和樹君が目覚めて朝からナニをするかと思えばいきなり乱暴に玄関が開けられる音、というか破壊するような勢いの音が響いて凄まじい勢いで誰かが廊下を走り、まっすぐに和樹達の居る寝室に飛び込んできた。

 

中々に無礼で傍若無人な人物なのかそれとも切羽詰っているのかその不法侵入者は銀髪の二十台半ばの女性、出るとこ出ていて引っ込むとこ引っ込んでいる大人の女性のはずだが、性格のせいで年齢相応に見られずかなり子供っぽく見られる、なんとなく性格で女の魅力をスポイルしている女性、実際の年齢から見れば若いというか子供っぽいとか言うなんてもんじゃなく、人間としてはありえないのだが。

 

その傍迷惑な女性がとんでもない勢いで寝室に飛びみ、そのまま和樹たちに掛けられていたシーツを剥ぎ取って、そのまま転がるような勢いで寝室の隅でシーツを被って丸くなり、ブルブル震えていたりする。

 

はっきり言って、奇行以外の何者でもない。

 

この奇行は、朝から喧しい騒音を巻き散らかして進入してきた人間に家人が気付かないわけもなく、何事かと起きだして文句を言おうとしたあたりで呆気に取られて暫く見物することになった。

 

中々に珍しい行動だったから、で、その奇行さらに続いたりする・

 

震えたまま、持っていた鞄から出るわ、出るわ、十字架、聖水、首輪状に繋げられた大蒜、聖書、木の杭にハンマー、銀の弾丸が詰まっているのが垣間見えるマガジン

 

多分その両手にはマガジンを装填するべき拳銃がしっかりと握られていることだろう。

 

しかも時折聞こえてくる声はブツブツと聖書の一説でも唱えているのか、なにやらそれっぽい単語が聞こえる。

 

かなり怖いと言うか、完全に壊れているじゃないこの人と言いたい。

 

人格の壊れた頭の痛い人はデビルキシャーで十分だというのに、これ以上増えられると、しかも身近な人間に、まぁ、つまり知り合いなのだが。

 

と言うか知り合い以外にこんなことされたら果てしなく嫌だ、知り合いでも嫌だが、なんとなくどっちでも関わりたくないと言うのが人間としての本音と言うか主張なのだが。

 

無視するにしても迷惑極まりない。

 

というか無視するにしてもどちらにしろ自宅に居られる以上無視の使用が無い、無視するには煩わし過ぎる、そして無視したらしたで関わりたくない方が自ら無視したことの苦情を切々と訴えてくるだろうし。

 

それはそれで鬱陶しい。

 

和樹が意を決して、そこまで勇気を振りしぼらないといけないほどの事だったのか、なまじ知り合いの分だけ嫌なものはあるんだろうが。

 

「かおり姉さん。その、朝っぱらからどうしたの」

 

因みに内心鬱陶しいと思いつつ掛ける声は優しげである、なんとなく腫れ物を扱う感じというかなんか爆発物を扱う感じでその奇行を行っている自分の担任兼血のつながりのある姉(正確には先祖、血の繋がりも果てしなく薄い)伊庭かおり、一応吸血鬼に声を掛ける。

 

前々回、デビルキシャーにあっけなく吹き飛ばされ、一応前回デビルキシャーに魔属性の封印を施した張本人でそれなりに勇ましかったが、今はそのときの面影は欠片もない。

 

いまや完全に行動不審者以外の何者でもない。

 

因みに彼女の周囲にある妖しげな物品、よくある吸血鬼の弱点のはずなんだが、つまりは自分の弱点のはずだ。

 

で、その当の吸血鬼、伊庭かおりは和樹に声を掛けられてもブルブル震えながら顔だけシーツから出して、半泣きだった。

 

童顔のせいでかなり可愛らしい、と言うか幼く見える。

 

しかも半泣き状態でべそをかく子供のように両手でイヤイヤするような仕草をしている、そんな子供のような仕草が似合うのは外見年齢的にどうかと思うが。

 

可愛らしいのでOK。

 

「師匠が来るのー(T_T)/

 

でも、この世の終わりのような口調で言って、再びお篭りに戻ってしまったどうでもいいが本当に先生か伊庭かおり。

 

そしてそのお篭りに戻ったかおりを睨みつける和樹、凛、井桁マークが額に浮いていた。

 

 

 

 

 

かおりがお篭りに戻ってぴったり3分後、リビングのテーブルの下に隠れて周囲を警戒しているかおりが居たとか何とか、ついでにシーツ取り払われている。

 

半泣きのかおりから強制的にシーツを剥いで、かなりの奪い合いの攻防があったらしいが二人がかりで奪い取られ、それでも背中を丸めて震えているかおりの足を凛と和樹の二人掛りで引きずり嫌がるのを無視してリビングに連行したのである。

 

リビングに着いて釈放した途端、周囲を警戒しテーブルの下に隠れてしまったと言う次第。

 

和樹たちも、その様子にあえて突っ込まない、突っ込んでもしょうがない、突っ込むのも無価値過ぎる。

 

因みに和樹が無碍に自分の姉(しつこいようだがかおりがそう主張するだけ)を扱っているのかと言うと。

 

理由一。

 

朝の安眠を妨害されたから(+朝の快楽も邪魔された)

 

理由二。

 

厄介事を持ちこんで来たから。

 

理由三。

 

その厄介事から被るであろう被害の前払い。

 

多分、13番が理由の大半を占めているだろう、なお主に不快そうな感情を浮かべているのが女性陣だと言うことは言うまでもない。

 

但し、かおりがここに来なくても遅かれ早かれかおりの師匠とやらはここに来るので殆ど八つ当たりなのだが、どうせ、その師匠はかおりにも会うが和樹にも絶対に会いに来るからだ。

 

「うううっ、和樹、お姉ちゃんを助けて。匿ってよぅ」

 

未だテーブルの下で丸くなっている猫っぽい吸血鬼、そんなにその師匠とやらが怖いのだろうか。

 

因みに絶対来ると判っているのにかおりが逃げ込むのは和樹の前ではかおりの師匠それほどきっついことしないからである、故に匿うよりは庇って欲しいのかもしれない。

 

「大体、姉さん、十字架やら、大蒜なんて姉さんでも平気なもの、あの人に効くわけないでしょうが」

 

和樹はそんな救済を求める声はあっさりブッチして、かおりの荷物を指摘する、マトモに取り合う気がないのかもしれない。

 

今のかおり吸血鬼の癖して、胸に十字架を下げるわ、大蒜の首輪を下げるわ、手に木の杭に拳銃、Cz75を携えていたりする。

 

吸血鬼が吸血鬼狩りのスタイルであるが、かおりもその師匠も上等の吸血鬼、日光も流れる水の上も、十字架も聖書の文句も、大蒜もまるで効果がない、効きそうなのは銀の弾丸を装填しているCz75くらいだろうか。

 

基本的な性質が魔である吸血鬼には破邪の力の宿る銀の武器は効果が高い、高いといってもかおりの怯える相手にどれほど効くのか疑問だが、かおり自身マガジン全部を叩き込まれても痛いかなって程度で済ませられる装備である。

 

「だって、師匠なんだよ、師匠。今度は何されるか、前何されたか知ってるくせに。お姉ちゃんを助けてよぅ。今度こそ今生の別れになるかもしれないんだから。前は怠けているって理由で魔法封じられてから装備なしで冬のシベリアのど真ん中に叩き込まれて自力で帰って来いって、死ぬかと思ったんだ、寒かったんだ、お腹減ったんだ。大体素手で昼間の吸血鬼が飢えた白熊と格闘しても勝てるわけが無いのに師匠は態々白熊を怒らして帰ってくし・・・・・・・・・・・・・・・・・。だからこの銃弾をぶち込んで、口に大蒜押し込んで聖水で飲み込ませて、手足と胸に木の杭を打ち込んで逃げるだけの時間ぐらい稼がないと」

 

それでも死なんのか、吸血鬼。

 

最後に今度は何されるか、とか呟いていて、再びガタガタ震えながらテーブルの下にお篭り、よっぽど怖いらしい。

 

因みにその師匠とやら、その虐待同然の行為を思いつきでやらせたわけではなく仕事中(バイオレンス関連)に携帯ゲームに夢中になり大損害を叩き出した馬鹿弟子のことを知り、お仕置きにやっただけなのだが。

 

ついでに一応かおりはシベリアから半死半生で何とか帰還した、凍傷にならないし体温が下がっても死なない吸血鬼ならではの生存能力で人間なら数十回は軽く死んで来れる環境から何とか生還を果たした、基本的に吸血鬼は不死だし、死にようもないのだが。

 

血さえ吸っていれば死ぬことは先ずない、下半身吹き飛んでも大量の血を啜れば復活できるような非常識さだ、しかも上位になればその血さえ少量で済むという理不尽の塊。

 

最強のアンデッドと呼ばれるのは伊達ではないのだが。

 

その最強のアンデッドの一人の地獄からの帰還時開口一番の台詞は「人間の血が飲みたい」だったそうな、冬眠中の動物と熾烈な生存競争を行って、血を吸って生き永らえたらしいが、どうも動物の血は不味いらしい。

 

なお、暫く彼女が白熊恐怖症に陥っていたとかいないとか。

 

で、その師匠曰くの馬鹿弟子が怯えているのは、今回は何をされるかということ。

 

会うたびに師匠主観お仕置き、弟子主観無茶苦茶な地獄体験ツアーに連行されるのだから無理もない、合う度にお仕置きのネタをあたえているかおりにも問題があるのだろうが。

 

なお過去に、サハラ砂漠チキチキ横断ツアー、南極極寒遠泳ツアー、サバンナで生肉を体に巻きつけたサバイバルツアーなど様々体験している。

 

一番死ぬと思ったのはライオン数匹に囲まれ時と腹を空かし怒り狂った白熊と対峙した時と砂漠で数日間血にありつけない時だったらしい、魔法無しでは肉体的ポテンシャル程度で百獣の王と生物界最強に勝つのはきつかったようだ(勿論素手)、勿論肉体ポテンシャルだけで砂漠横断も、生物殆どいないし。

 

で、そんなこんなで本能レベルに恐怖が染み付いている、染みつけられたかおりだった。

 

 

 

 

 

「だからといってここに逃げて来るではない。あ奴が来るではないか」

 

どうやらアルも知っているようだ、どうも歓迎しているような様子ではない、完全に来るなと思っているっぽい。

 

「そうです、かおりさん、あの人が、マスターと会ったら」

 

やはり嫌そうなエセル、何かを心配しているような感じだ、どっちにしろ来るんだから諦めが悪い二人である。

 

諦めたくない何かがあるんだろうが。

 

「うううっ、二人のちびっ子が苛めるよぉ、和樹、お姉ちゃんを助けて。後で、何でもしてあげるから、初めてのときみたいに、胸でもいいからさ、お姉ちゃんは和樹のことなんでも知っているんだから、いい声で鳴かせてあげるから。もしくは鳴いてあげるからぁ」

 

テーブルから上半身を出して胸を腕で持ち上げている、だからあんた聖職者か。

 

どうも助けがなさそうだからと色に訴えんでも。

 

なお、和樹君の童貞を散らしたのはこの自称姉の吸血鬼、和樹が実家に居るうちに手を出し、今の和樹を形成した張本人、姉と主張するのに喰っちゃった人

 

別名諸悪の根源

 

因みにそのときかおりもバージンだった筈なのだが、どうも対和樹(和樹以外としたこともないのだが)では何故かかおりが勝てるという稀有な女性でもあったりする(吸血鬼なので体力が人間の比ではない吸精鬼と言う疑惑もあるが)

 

和樹としても、かおりの体は具合がいいのだが、姉としても嫌ってはいないし騒動さえ持ち込まなければ邪険にはしない。

 

しかも一対一でも遠慮しないでもついてこれる稀有な女性。

 

いつもは和樹が受けに回ってしまうのだが、和樹君の好みは攻め、それが出来そうだと。

 

食指が動こうとするが、隣の凛から凄絶な目で見られていたりする。

 

まぁ駆け落ち相手の、しかも昔から好きだった相手の初めてを奪った女(しかも凛も子供のとき遊んでもらったのでそう無碍にも出来ない相手)、凛と沙弓共通の泥棒猫。

 

そのかおりの性教育のせいで凛の初体験、なかなかにヘビーなものになり(初めてでイカされるのが幸運なのかどうかは知らんが、失神するまで責められるのは不幸だろう)、今では散々嬲られて、定期的に男を欲する(和樹以外は却下だが)までになっている凛ちゃん。

 

現に昨夜も最後にはあまりに感じすぎてやめるように懇願するも、そのまま気を失うまで続けられたのだ。

 

しかもアルとエセルがへばった後、もう一度、やられてそのまま朝までぐっすり。

 

その諸悪の根源が目の前にいる吸血鬼先生、今は師匠に怯えて震えて弟にすがろうとしている最強のアンデッドのプライドを道端に捨て去った情けない存在だが。

 

 

 

 

 

「かおり先生、お帰りを」

 

凛がきつい目線で、かおりを追っ払おうとする、どうもさっきの和樹の様子がムカついたのか、久々の和樹のお仕置きでもしそうな雰囲気だ。

 

「凛ちゃん、お姉さんを見捨てる、あんなにちっちゃい頃、遊んで面倒見てあげたお姉さんをあの極悪非道のサディスト吸血鬼に差し出す、今度こそ灰になって帰ってくるかもしれないのに」

 

どうやら、凛にも縋る様だ、なりふり構っていないのかもしれない。

 

「誰が極悪非道のサディスト吸血鬼だ、この馬鹿弟子」

 

冷たい冷徹な声、それでいてどこか幼い声が突然、室内に響く、本当に突然。

 

瞬間、かおりの顔から脂汗がダラダラと滝のように流れ落ち、ガキンと擬音が聞こえそうなほど固まった、テーブルに下半身入れて首だけ出しているポーズで。

 

「誰がサディストだ言ってみろ、馬鹿弟子」

 

かおりの正面にある影から手を突き出して現れ、そのまま全身を露にし言葉をさらに発する、身の丈にちかい金色の髪に、10歳前後の幼い肢体、フランス人形をさらに華美にした美貌、漆黒のゴシックロリータの露出の過剰なドレスを纏い、そして嗜虐的に歪む真っ赤な唇から覗く長い犬歯、愉快そうに、苛めっ子の表情でかおりを見据える少女。

 

Bloodsucker(吸血鬼)・Evangeline.A.K.McDowell

 

通称エヴァ、通り名「不死の魔法使い」「人形遣い」「闇の福音」

 

「お久し振りです、和樹様」

 

こちらもいつの間にか現れたのか、和樹に挨拶する女性(?)、メイド服に身を包んだ、緑色の髪を持つ長身の女性、顔の造作は無機質だが15歳前後の少女のもの、それなりに美麗といえる種類の顔立ち。

 

只所々の造作が、彼女が人間、否生命であることを否定する。

 

そう彼女はロボット、魔道と科学の融合物、エヴァの従者絡操茶々丸(エルザの類似品っぽいな、こう見ると)

 

因みに出現した方法はかおりの影から空間を渡って来たのだが、早く言うとかおりは逃げても、逃げても無駄だったのだが、それが判っていても逃げ惑っていたようだ。

 

和樹は茶々丸の挨拶を笑顔で返して、凛も茶々丸に挨拶をしていた、微妙にエヴァに対する現実逃避かもしれないが。

 

そんな和やかな雰囲気をどこかに捨て去ったこちら側。

 

「ん、どうした出来損ない、誰が、何だ、言ってみろ」

 

エヴァは未だ楽しそうにいびっている、本当に楽しそうだ、どうやら仕置き自体は趣味と化しているのかもしれない、それなりに面白い反応を返していることだし、彼女いわくの馬鹿弟子は。

 

かおりは既に顔面蒼白でといってもテーブルごと後ろにずり下がり、既にリビングの隅でガタガタ震えて、許しを乞うていた。

 

「申し訳ありません、申し訳ありません、そんなつもりなかったんです、師匠、お慈悲を、もう地獄ツアーは嫌です・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

壊れたラジカセみたく似たようなことをブツブツ呟いて、なにやら壊れた人間みたいで、かなり怖い、精神的なトラウマという点でならもう壊れているのかもしれないが。

 

 

 

 

 

で、暫くその苛めが続行されて、エヴァ曰く身の程知らずに身の程を叩き込んでやる行為、言い換えると恐怖を骨の髄まで叩き込む、類義語、趣味。

 

そこまでやられて、さらに地獄体験ツアーにまで放り込まれてくるのに行動を治さないかおりも悪いのかもしれないが、エヴァがやるのも過激に過ぎるのだろう。

 

「で、馬鹿弟子。今回は何処がいい」

 

ある程度いびった後かおりは本泣きに陥っていたが、エヴァが唐突にそう問うた。

 

言葉は淡々としたものだったのだが、それはもう凄まじい威圧感を持った言葉で、瞬間かおりの泣き方が号泣に変わった、その問いの意味を正確に理解したのだろう不幸なことに。

 

そんなこと一切構わずエヴァは面白そうに、本当に面白いのかもしれないが。

 

「選ばしてやる、何処がいい、北極点か、エベレストの頂上か、それともまた肉を巻きつけてジャングルか、三択だ」

 

勿論、地獄体験ツアーの選択、号泣が慟哭に変わったりしたが、微かな期待は持っていたのかもしれない、人でなしの師匠に対して。

 

で、暫く選択を迫っていびっていると、勿論かおりは泣いて許し乞うていたが。

 

「マスター、そろそろお遊びは」

 

エヴァの従者茶々丸からの進言、いい加減長くなると判断したのかもしれない、かれこれ10分以上いびっているし、礼儀正しい茶々丸は家主の和樹を放っておいて、弟子と遊ぶ主人を止まらせようとしたのだろう。

 

でも茶々丸から見ても、かおり苛めはお遊びですか。

 

但し、エヴァにとってはお仕置きと言う名の趣味、人生の快楽ですらあったのだが、いつまで立ってもポカをするので理由には困らない。

 

只、茶々丸かおりを助けようとか、そんな気なんて一欠けらも持ち合わせていない、と言うか更なる地獄に突き落とすようなことになるのだが、悪意はないんだがね。

 

「おお、そうだな」

 

どうやら本来の目的を思い出したらしい、嗜虐的な笑みを引っ込めて、今度は艶かしい表情に変わる、因みに、弟子苛めは延期になっただけで、後で更にきっついのが来る予定。

 

エヴァは和樹と凛のほうを見て、因みにその片足が引き摺り出されたかおりの背中を踏みつけていたが、何気にそんな姿がとっても似合うエヴァなのだ。

 

「坊や、久し振りだ、やっと私の仕事も終わった、これで約束を果たせる」

 

何かを望むように和樹に近寄りその首に腕を回す、身長差が凄いのでぶら下がるような感じなのだが、肝心の和樹の表情はとんでもなく引き攣っていたりする。

 

それはもう。

 

凛は引き攣った笑みでなにやら虚空を見て笑っていたりする、どうもその約束とやらに覚えがあるようだ、しかも妙にあせった感じなのでその約束歓迎するべき種類で無いと言うことも見て取れる、ある覚悟を決めないといけないと言う悲壮感もあるのかもしれない。

 

つぶれた蛙のように蹲っているかおりも更に体を震わせている、もう少しでアンデッドの癖にストレスであの世に行けそうな様子だ。

 

「ほら、私の坊や、嬉しいか、どうなのだ」

 

と言って、和樹の頬に舌を這わすエヴァ、幼い容姿に相まって淫靡ですらある、実年齢が垣間見える大人の仕草が男を酔わす、そんな風情だ。

 

只、食指が動くくらい淫靡なはずなんだが、和樹の表情も一向に芳しくなら内、アルやエセルで楽しめるのだからエヴァもストライクゾーンだろうに。

 

因みに約束とは、エヴァが子供の和樹にお前のお嫁さんになってやると言ったこと、エヴァの中ではいまだに有効のようだ

 

和樹は小学校低学年だったのだけど、因みにエヴァは夕菜とは違い度々言い聞かせていたらしいので和樹のほうも記憶にバッチリ残っていたりする。

 

生まれた時から、和樹の世話をしたりするうちに保護欲が性欲に移り変わったらしい、一時期和樹に戦い方を仕込んだのはエヴァだし。

 

なお、エヴァは和樹の現状を知らない、自分の弟子に数年前初物を奪われたとも知らないし、凛と怪しげな関係であるとも知らない、葵学園にいるのも只単にこの学校を受験して通学していると思っている、勿論15人以上の女の子を喰っちゃってる色魔であることも知らない。

 

もしばれていたら目の前の堕ちこぼれ吸血鬼(エヴァ主観)、既に十字架に貼り付けられて心臓に杭を打ち込まれ聖水に漬け込まれているだろうし、仕事になどかまけず、凛と壮絶な争奪戦を繰り広げているだろう。

 

先ず凛がエヴァにどれだけ対抗できるかという問題もあるが。

 

因みに、アルとエセルはこの話題が始まって早々に逃げ出していた、どうやらこいつらも約束とか何とかは知っているらしい、マスター放っといて薄情な精霊である。

 

「あの吸血鬼は加減を知らぬのじゃ、妾にも逃げる権利はあろう」

 

「すみませんマスター、私もかおり様に付き合わされて、地獄体験ツアーは嫌です、ご武運を」

 

とか言っていたが薄情なことに変わりはない、今ではリビングから一番遠い部屋に逃げ込んでいる。

 

和樹と凛も引き攣った笑みで内心、“そろそろバレるか”とか考えていたが、勿論今の関係が、よくここまで隠していたもんだ、今までエヴァが和樹の前に姿を現しても、仕事中なのでそんなに滞在しなかったのが理由なのだが。

 

で、本日速攻にバレた、と言うかバラした、隠しようもないし。

 

 

 

 

 

和樹が返事をせずに居ると。

 

「どうした、坊や、嬉しくないのか、私と結婚するのは嫌なのか」

 

その顔を年相応にクシャと歪めて和樹の顔を覗き込むエヴァ、可愛らしい、幼子の顔立ちと相まって、襲い掛かりたいぐらいに、なおこのとき凛も逃げようかどうか考え中だったりする。

 

エヴァも和樹が絡むと容赦が無いのは熟知している。

 

「嫌じゃないけど、そのね、婚約者も居るわけだし」

 

微妙に論点をずらそうとしているようだ、やはり本質の会話からは逃れたいのだろう。

 

「杜崎の小娘か、何安心していい、邪魔するならば・・・・・・・ククッ」

 

怖いって、凛さらに引き攣っているし、それでも、逃げてなるものかと言うか、このままでは愛しの和樹を取られかねないという危機感か。

 

無謀にも凛ちゃん、無謀がつくあたりが恐ろしい、エヴァに挑みかかる。

 

「エヴァさん」

 

それにつられて、和樹の首にぶら下がったままエヴァが凛のほうを向く。

 

「ぬ、なんだ、神城の、久しいな」

 

存在に気づいていなかったっぽい。

 

で、事情説明、駆け落ちしたとか、契りを交わしたとか、その約束は諦めて欲しいとか、今は同棲中だとか。

 

一語を話すのに莫大な緊張を背負って、いつ切れて、魔法を暴発するかわからないから、爆発物処理班と気分は変わらないかもしれない。

 

その場に居る和樹にとっては地獄だろうが、一々和樹に確認まで取られて、肩を震わすエヴァの前にいるのは。

 

一応かおり関係は伏せる、幾らなんでも知人をギロチンにかけるような真似はしたくないようだった。

 

和樹君、沙弓以来の規模の人生の修羅場(女関係)の予感。

 

 

 

 

 

で、説明後。

 

「えぐっ、えぐっ、うぐっ、うわああああああああああああああんんんっっっ」

 

泣いているエヴァちゃんが居ました、居やそれはもう完全に子供の泣き方で、外見年齢と精神年齢が一致しているっぽい、茶々丸がポンポンと頭を叩いてあやしているし、こうやって見ると茶々丸がお姉さんに見える。

 

エヴァはあまりのことに幼児退行を起こしたか、それとも17年かけてゲットしようとしていた男を取られての号泣か、もしかしたらこれが素なのかもしれないが。

 

で、一通り泣いたと思ったら、因みにこの間初めての泣き顔に一同呆然、一番驚いていたのは弟子のかおりだった。

 

今度は、笑い出した。

 

「ふ、ふふっ、ふふふふっ、ふふふふははははははははははっ、そうだ、そうだ、坊や、坊や、私の坊やだ、ははははははははっ、そうだ、私の坊やなんだ」

 

壊れたか、それとも壊れる一歩手前で何かを思いついたか、どちらにしろあまり変わらないだろうが、茶々丸の膝の上で笑っているので微妙に怖さを半減しているのが救いか。

 

「ははははははっ、そうだ、誰のものでも構うものか、私は吸血鬼、ダーク・エヴァンジェル、Evangeline.A.K.McDowell、形式など知ったことか、坊やは私のものだ!!!!」

 

どうやら不穏なことを思いついたようだ。

 

和樹と凛、二人揃って仲良く冷や汗をかいている。

 

どうにもとんでもないことを考えていることは予想がついているらしい、まぁここまで、殆ど(エヴァ主観で)婚約破棄のようなことを言われていきなり大笑いを始めたら、誰でも嫌な汗をかくだろうが。

 

茶々丸もその無機質な表情を微妙に嫌そうに歪めて自分の膝の上マスターを見やっている。

 

で、暫くなにやら叫んだ後、妙に色の篭った目線で和樹を見やり。

 

「坊や、私もここに住むぞ、いいな、坊や、神城の」

 

まるで最高の思いつきを披露するように嬉々とした様子でそう告げる。

 

因みにエヴァが住むと言うことは茶々丸も住むことになるのだが、高級マンションなので部屋数的には問題なし、凛、アル、エセル、エヴァ、茶々丸、和樹で何とか私室をもてるぐらいの部屋数はある、これで定員ではあるが。

 

なお、妙に目を輝かせて了解を迫るエヴァに凛も和樹も断ることは出来なかった。

 

後に聞かされた、アルとエセルもなにやら鬼気を放つエヴァに文句を言うことが出来なかったとか。

 

 

 

 

 

追記その一。

 

エヴァはその夜、豊満な大人の女性モードに変身して和樹のベッドに潜り込みましたとさ。

 

但し、エヴァ、未だに処女、と言うかかなり純情だったのかキスも未体験状態に色魔和樹に挑戦。

 

その日の順番であった凛と一緒になって和樹に責められ、大人モードとロリモードの両方の姿で和樹君にいいように嬲られた様だ。

 

初体験ながら狂ったようによがり狂わされたエヴァ、夜はかなり従順になりそうだというか最後のほうでは懇願しているくらいだから。

 

翌朝、再び和樹に嬲られキスしたままイカされて呆然としている様子はこれからのエヴァの性生活を物語っているようだ。

 

 

 

 

 

 

追記その二。

 

暫くして二年B組にエヴァと茶々丸が転校、どうやら暫く仕事はないので、昼間坊やが居ないので暇と言う理由で来たらしい。

 

引き攣った顔で転入生を紹介するかおり。

 

どうやら職場まで師匠の影に怯えることが確実になったようだ。

 

「なんでよおおっ」

 

知らん。

 

 

 

 

 

追記その三。

 

知っている癖に黙っていたという罰でかおりがエヴァよりうけた地獄体験ツアー、今回は太平洋のど真ん中で海に叩き込まれて自力で日本に帰って来いと言うもの。

 

ナイフ一本を渡されて、それで得た魚の血を啜ってかおりが半死半生で東京湾にたどり着いたのは、偉業といえるかもしれない。

 

 

 

 

 


後書き。

 

この回のエヴァは人気投票をして一位を獲得したキャラなんですが、個人的にもエヴァは大好きなキャラの一人ですね、これ書いている時はエヴァとかおりの罰ゲームを考えている時が一番楽しかったりしています。

 

二話でも天目一個が出ていますがこのSSはもう無敵きゃらなんてはいて捨てるように出る勢いですからその辺の突っ込みはご遠慮ください。

 

次はハルヒです(角川文庫)彼女の能力、幻想破りは天目一個の能力より上位です。

 

右手で触れるだけで神様のシステムすら崩壊させる、対魔術師最悪のスキル。

 

欠点は己の魔力さえも否定してしまうので魔法が使えないということですが。

 

彼女に掛かれば天目一個も、最上位の召喚獣も、神様さえ殺しうる神器も、触れるだけで否定され、消滅します。

 

一応現世で肉の器を獲得している存在、吸血鬼やアルのような特殊な精霊を消し去る能力はないですが。

 

魔力で更正され世界に存在する物は根こそぎキャンセルされるということで。


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