世界で最高の宝物は何ですか?

What is the treasure for you? Do you have it or?

If you could clearly answer these questions on the spot, you must be happy.

Writer  sara

大層な事書いちゃいるけど戯言だよなぁ

 

第一話パパは東大生、ママは誰?


 

浦島景太郎、21歳。

 

東京大学文系三類、二回生、一浪の果てに入学。

 

こう記述すればそれなりに優秀な学生が努力を経て東大に通っているということになるが彼は些か通常とは違う経歴を持っている。

 

他の学生に比べればという条件を除いても、奇異には違いない経歴を。

 

彼の生い立ちは十歳の頃まで施設で育ちその後浦島家、正確には浦島ひなたに引き取られる、捨子であった為引き取られる前の苗字は施設の人間が付けたもので本当の苗字は不明。

 

そのまま十八まで浦島家で問題のない(ある意味かなり問題がありまくるような生活環境ではあったが)生活を送っていた、実際問題ない生活環境のお陰で捻くれることもなく真直ぐに成長。

 

現在はある約束の為、高校を卒業してから家を継ぐことを拒否し上京。

 

一浪の後東京大学在学、その為実家、景太郎の父母となった人間の元を飛び出して生活している。

 

一人暮らしのアパート暮らし、生活水準は極貧

 

その一言に尽きる。

 

今時の東大生では考えられない位極貧生活を送っている学生、浦島景太郎(因みに東大という名の官僚予備軍学校の生徒はやたら親が世間一般の尺度から金持ちである率が高い。注、作者の偏見や妬みは一切含まれておりません、事実です)

 

極貧理由はぶっちゃけ、仕送りが無いからである。

 

実家(京都)の老舗の和菓子屋を継ぐことを養父母に求められていたのだが、それを大学在学期間の間延ばしてくれと申し出たら最初は反対され。

 

景太郎の様々な説得の結果、彼の養父母は(引き攣った)笑顔で送り出してくれた、実際のところ学費、生活費は一切払ってはくれなかったのだから内心怒っていたのだろうが。

 

因みに送り出した両親と送り出された息子は両者とも全身がズタボロで満身創痍、両親への説得に何が用いられたのかは語りはしないが、かなり過激な種類の説得には違いないだろう。

 

結果、金銭面の援助が無いのはある意味当たり前であった、自分の勝手で東京の大学に行きたい息子に金を与えてやる程甘い親ではないのだ。

 

真実は説得の際敗北を喫したのがムカついたので困窮の余り頭を下げてきたら援助してやろうという腹積もりだったらしいが、一応説得に負けて笑顔で送り出した癖に中々に執念深い両親である、大人気ないとも言い換えられる。

 

なお現在進行形で景太郎が貧乏生活を強いられているということは景太郎が両親に頭を下げていないことをあらわすのだが、金が無いせいで景太郎の在学期間が延びるかもしれないと頭がいっているかは甚だ疑問、バイトに明け暮れて大学を留年する輩はそれなりに多いのだから。

 

実際に今現在景太郎は単位がすれすれで喘いでいる(東大は三回生から専攻に進むのだが、その時規定単位を取っていなければ専攻に進むことが出来ないのだ、単位が足りないと即ち留年である)

 

因みに景太郎は頭を下げたら両親が援助をしてくれるなどということを知らない、伝えていないのだから当たり前なのだが。

 

多分、今後景太郎が金銭面で両親に頭を下げることは無いと思われる、景太郎自信が両親が金を出してくれるなど露ほどにも思っていないのだから。

 

 

 

 

 

因みにこれは完全に余談となるのだが。

 

景太郎が家を出るときにある女性三人が彼を止めようとかなりの努力を試みたらしい、この女性達から逃れて東京に向かうほうが景太郎にとっては難行であったとか。

 

この女性達かなり暴力的かつ性的に問題のある手段を使ってまで止めようと試みたらしい。

 

それは景太郎の努力と鈍感さと理性を総動員させて失敗に終わっている、その三人の女性とは後で記述する機会があるとは思うがそれなりに戦闘力を保有している女性達であるとは言っておこう、この時点でバレバレのような気がするが。

 

特に一番年かさの女性は鬼のように強いというか鬼も裸足で逃げ出すほどに強い。

 

 

 

 

 

さらに追記すると。

 

彼の妹が金銭援助を一切出さなかった親達と血で血を洗う闘争を繰り広げたなどのエピソードがあるのだが。

 

妹の言い分は「貴方達の嫌がらせでお兄ちゃんがどれだけ苦労していると思っているんですか。そのせいでお兄ちゃんが帰省するお金も無いんですよ、家は継ぐと言っているんですから下らない意地を張らないで下さい。修練をサボってお兄ちゃんに負けて見苦しいですよ。大体当代の癖に息子に負ける父さん、母さんが情けないのが悪いんでしょう」

 

多分、帰省できない辺りに激怒しているのではないだろうか、勿論負けて兄が東京に行ってしまったことも当てつけているのだろう。

 

ただ、言われ続けて黙っていられる両親でもなく、言った瞬間には戦闘体勢に入って喧嘩をおっぱじめている、因みにその闘争はかなり長期的に続き景太郎が家を出て三年と経つがその闘争は定期的に行われるそうだ、現在のところは妹が負け越しているらしいが。

 

なお、勃発時期は普通の学生が帰省時期に選ぶ長期休みや正月等の時期に頻発するそうだ。

 

その辺の争いも後日機会があれば書くとして。

 

 

 

 

 

結局として親の意地と自分の選択で景太郎は大学生をやりながら生活費と学費を稼ぐ苦学生としての極貧生活を送っている、なお何処かの魔術師に雇われている素人探偵よりはマシな生活状況なので餓死する程ではない。

 

今現在、今日この時をおいては、未来において保証はしない。

 

だが、それを握っているのは作者である。

 

 

 

 

 

東京大学キャンパス内。

 

建前上は日本の最高学府である、実際どこか神奈川にある私立大学のちょっと田舎じみたところにある学部とか京都にある国立大学が日本の最高学府と最近言われているような気もするが建前上は最高学府である(因みに本当に作者に他意はない。作者が予備校時代には事実であったのだから。なお作者は関西の私立学生です。その評価を下していたのはその予備校の人気上位の英語教師でした)

 

キャンパス内を歩く眼鏡を掛けた中肉中背の男性。

 

余り冴えた印象を与える容貌ではないが容姿はそれ程悪くない、童顔だが体は締まっており野暮ったい眼鏡が無ければそれなりだろう、容姿だけを見るならば。

 

何故冴えない印象を与えるのかはとにかく服装がみすぼらしい、着古された古着を着込み極貧から生じる生活臭を湛えた雰囲気がみすぼらしい、微妙に疲れた表情がみすぼらしい、それに加えて気弱を連想させる表情がみすぼらしい、言い換えると全てがみすぼらしい。

 

さらに言い換えると「貧乏くさい」

 

そんな所ではないだろうか。

 

天性の天然ボケが更にそのみすぼらしさに拍車を掛けているのだが、みすぼらしいと評価されている本人がそれを余り気にしていないのでどうでもいいことだろう。

 

当人が気にしなければ余り問題が無い。

 

当の景太郎はやはりみすぼらしい雰囲気を湛えつつ授業を受ける為に教室に向かっていた、バイトのやり過ぎでいい加減にヤバくなっている学生生活二年目を何とか乗り切る為に。

 

ただ、彼が一人で大学内を歩いているわけではなく、景太郎に親しげに声を掛ける女性の声、中々に親しげな声で話しかけている。

 

「けーたろ。久し振りやんか。二、三日顔見せへんと思っとったけどまたバイトか?」

 

彼の隣を歩く、正確には彼に殆ど抱きついているショートカットに狐目のような細目の女性、スタイルは抜群にいい、表情も明るく元気が良さそうな感じで人受けもいいだろう。

 

服装もそれなりに金が掛かっているもので、彼女の容貌と相まって彼女を引き立て美女と誰もが文句を言わない姿をしている。

 

そんな彼女が東大でもみすぼらしさでは代表格の彼の首に腕を巻きつけるようにして背中から伸し掛かっているのだが、そんな彼女に対して景太郎は。

 

「あ、ああ。みつねちゃん。久し振り」

動揺した声しか返せない、所詮は彼女いない歴=年齢(厳密には違うのだが。それに本人に自覚症状が無い為気付いていない)の景太郎である、彼女のような美女が至近距離で体の凹凸がわかる距離に密着されて迫られれば顔を真っ赤にさせて動揺するのは当たり前。

 

家を出るときの性的な誘惑も持ち前の鈍感さでスルーしてきた彼だが、そんな景太郎だからこそ直接的なスキンシップには弱い。

 

なお、景太郎に抱きついている関西弁の彼女の名前は紺野みつね、東京大学二回生の女子大生。

 

大学内では有数の美女として名を馳せている彼女であるが、周囲からは理由不明で景太郎に構いたがる女性である、本人には景太郎に構うそれなりの理由があるのだが。

 

彼女には親しい男が景太郎以外にいるという噂は無く、だが彼女は景太郎と恋人関係かと言われれば否定する、だから彼女に言い寄る男も多いのだが彼女はその誘いを全て丁重に断っている。

 

憎まれにくい性格のお陰で全て断っているにも拘らず玉砕した男達にもそれほど疎まれず、若干ハッキリしない景太郎のほうは偶に敵意の視線を向けられることもあるのだが。

 

まぁ、美女とみすぼらしい貧乏人、その不釣合いでも腹立たしい人間はいるだろうし、それでいて関係がハッキリしないのはみつねを狙う男としては若干の嫉妬ぐらいは仕方が無いかもしれない。

 

実際のところ彼女が景太郎に構う理由を知っているのは彼女と僅かな人間だけなのだが、その理由は些か複雑である。

 

その理由は何時か後述するときもあるだろうが、というか後述しないと話にならない。

 

「キツネでええって、言うとるのに、けーたろは。それでバイトやったんか?バイトもたいがいにせんと体を壊すで。ここの勉強も楽やないんやから」

 

景太郎の首に腕を絡ませたまま彼女が景太郎に問い掛ける、声質には心配の色が濃厚に浮き出しており、言葉の上でだけ彼を心配しているわけではないのが伺える。

 

まるで、恋人を心配するように、因みに繰り返すが二人は恋人同士ではない、この姿を見て周囲からはどのような評価を受けているかは判りそうなものだが、本人間ではそのような関係には発展していない。

 

少なくとも自覚症状はない。

 

殆ど公認の不釣合いカップルと認知されているのに、もしかしたら景太郎だけでなくみつねもまた鈍感な女性なのかもしれない。

 

で、みつねの問い掛けに応える景太郎、因みに未だに顔は真っ赤だ。

 

「まぁ、バイト。泊り込みで三日間」

 

三日間の泊り込みのバイトが如何なるものか描写は避けるが現役の大学生が受講期間中にやるバイトとしては不適切だろう、普通の大学生ならばまずやらない。

 

それでもその手のバイトを選択するのはそういうバイトを選択せねばならない生活状況ということだろう。

 

「今月は苦しいんか?どないなん」

 

本当に心配そうな表情である、大体疲れていそうな景太郎の雰囲気が彼女の心配に拍車を掛けているのかもしれないが心配する表情はなまじ造作が良い為心配されるほうが申し訳なく感じる種類の表情に見える。

 

そしていくら鈍感な景太郎なれ、その手の表情の機微を失するほど対人関係の能力が低いわけでもなく、まず知人がそれもそれなりに親しい人間がそのような表情をしてほうっておける人格を保有していないのも彼だ。

 

景太郎は貧乏人なれ、その性根はお人好しの好青年、彼の年齢や境遇から考えれば真直ぐに成長した人間である、みすぼらしい外見をしていても彼と付き合って好印象を抱くのは間違いないだろう、外見だけで人間に悪感情を向ける種類の人間はこれに含まれないが、その手の人間に評価されたくも無いだろうし、評価される筋合いもない。

 

故に彼の人格を知る知人や大学のみつねの友人からは彼と彼女が付き合うように画策するような動きまである始末だ、単純にこの今時珍しいカップルで遊んでいるという話もあるが、お似合いと評価されているのだろうからよしとするべきだろう。

 

だから、景太郎はみつねの心配そうな表情と声に対する返答は。

 

「大丈夫、体だけは頑丈だし。今回のバイトで当座は凌げるだけ稼いだから問題ないよ。心配掛けちゃったね、御免」

 

そう言って、ニッコリとみつねに微笑みかける景太郎。

 

その顔を向けられたみつねの顔が朱に染まる、動揺を悟られまいとするのか妙に元気な声で、そして友好を示した声で話し始める。

 

まぁ、照れ隠しの話題転換なのだが。

 

「そうか。でも苦しいときは言うてくれたらええんやで。ウチはそれなりに余裕あるから。貸すぐらいやったら何時でも貸したるから」

 

と、みつねが景太郎に生活の援助を申し出るような言葉を出す、確かに金に余裕があるみつねの服装からならば多少ならばお金が借りられるかもしれないと思えそうだが。

 

「それはいいよ」

 

景太郎はみつねの申し出に即座に断った、間髪入れずといってもいい程に。

 

「みつねちゃんも学生なんだし、一人暮らしなんだちね。・・・・・・・・それに、女の子にお金で頼るわけにはいかないよ。これが俺の男のプライド。大したこと無いプライドだけど、これは絶対。例え、お金が無くてもね」

 

断りの言葉に続く景太郎の言葉、笑いながら答えまた笑いかける、その言葉には意思が篭っており、男としての潔さが伺える。

 

そんなものを感じさせる言葉だった、そんな言葉にみつねも笑いながら、今度は照れ隠しではなく穏やかに笑って言葉をつむぐ。

 

「そうやな。けーたろも男の子やからな。ウチに頼るようになるわけにはいかんやろな」

 

彼の言葉にどこか満足そうに呟いていた、因みに未だに彼女は景太郎の背中に抱きついていたが、これだけ密着する時間が長いくせにこの二人は自分達が恋人同士ではないと言い張るのだろうか。

 

傍目から見たら完全に仲の良い恋人同士だろうに、しつこいが。

 

少なくともみつね狙いのほかの男子学生が彼等のじゃれ合いを見たら自分が間に入るのは諦めそうな仲のよさなのだが、これなのだから景太郎を妬む野郎の声は多い。

 

その後二人は和気藹々と会話しつつ共に同じ授業に向かって、この二人何故かやたらと同じ授業がかぶっているのだ、何らかの意図が感じるくらいに。

 

因みにみつねがやたらに景太郎に構いたがる理由の一つは自分以外の悪い虫を寄せ付けない為である、彼女本人は景太郎とそういう関係になることを望んでいるのだから。

 

景太郎に関しては不明だが、彼女を嫌っているわけではないのだから、このままいけば彼と彼女が恋人同士になることは遠い未来ではないかもしれない。

 

それに周りのこの二人を肴に楽しむ連中の後押しもある。

 

勿論このままでいけばであろうが。

 

この物語がこのままで進むだろうか、しかし作者がそれを許すわけが無い。

 

このまま進んだら面白くないからである。

 

 

 

 

 

で、授業終了後、景太郎はみつねと別れて自宅に向けて帰路に着いていた、その帰路に着く彼の頭の中に今晩の夕食をどれだけ安く済ませることが浮かんでいる辺り貧乏生活が染み付いているのだろう。

 

帰る前に常連の安売り店のタイムサービスに行こうと足を向けている辺りが筋金入りである、その手の情報は完全に頭に入っていたのであろう。

 

「ふぅ。でも少し疲れているのかなぁ。でもレポート済まさなけりゃならないし、今日も何時寝られるやら・・・・・・・」

 

やっぱり微妙に哀愁が漂っているかもしれない。

 

生活臭と学生としての苦労の板挟み、大変の一言では済ませられない生活レベルだろう。

 

「でも、みつねちゃん。元気そうで良かったな。元気が無いって連絡あったんだけど大丈夫みたいだし」

 

やはり漂っていないかもしれない、微妙に表情が嬉しそうだし。

 

因みに連絡したのは東大での景太郎の悪友である、灰谷、白井とか言う名前の(因みにこいつ等出番は今回これだけ)悪友、バイトの都合で貧乏人の景太郎でも持たなければならない携帯に連絡が入ったのだ、こいつらは景太郎側のみつね、景太郎カップル成就結成委員会会員()

 

みつねがここ数日明るさが消えて不機嫌そうにしたり不安そうにしていたりしていたと景太郎に伝えたのだが、連絡した側は何故みつねが不安そうにしていたかはお見通しである。

 

景太郎が大学構内で見掛けなくなった時期と一致しているのだから知人にはあからさまなのでこの二人でなくてもみつねの情緒不安定は察せられるだろうが。

 

で、景太郎が先程までのみつねの様子に安心の表情を浮かべて道の角を曲がった先にて。

 

自分が原因だと察していないのがこの二人が進展しない所以かもしれない。

 

それはともかく。

 

小さな人影が景太郎の道を塞ぐ様に立ち止まっていた。

 

無論立ち止まっている人影の脇を抜けて景太郎が通り過ぎても良かったのだが、景太郎は思わず足を止めた。

 

その小さな人影、年の頃は12.3歳、身長は150cmには届かないだろう背丈。

 

肩を覆う長い髪を頭の両サイドで纏め、束ねるのに使っている赤いリボン。

 

ベージュのジャケットとは関東随一の名門女子学院、カト女の制服。

 

そして何より目を見張るのは、その人影はー美しい少女だったー。

 

その手の趣味を持たない景太郎でさえ足を思わず止めてしまうほどに。

 

瑪瑙石のような瞳、長い睫、小さな顎、これらの要素が作り上げるコンパクトな美貌&可愛らしさ、彼女は十分に一目で景太郎の注意を買うほどの美貌を保持していた。

 

 

 

 

 

そして景太郎が足を止めた最大理由、彼女はその幼い美貌を思いつめた表情に歪め景太郎を見ていた、それは真剣な表情で。

 

「・・・・景太郎君!!!

 

少女は叫んで地面を蹴り景太郎に抱きついた、まるで長年引き離された愛しい人を自分の手元へ招き寄せるように、必死に宝物を自分の手元へ集めるように。

 

仰天するのは景太郎だろう、幾ら注意を引いていた少女とはいえ、見ず知らず。

 

そんな少女に自分の名前が叫ばれ、抱きつかれる、そんな日常からかけ離れた行為に仰天しないはずが無い。

 

そんな景太郎に構わず、抱きついた美貌の少女は叫び続ける。

 

「あーん、もう。やっと会えたよぅ!!ずーっと、ずーっと、ホントにずーっと捜していたんだからぁ!!!!景太郎君、景太郎君、景太郎くぅん!!!!

 

少女は涙を流し、涙に頬を景太郎の胸に摺り寄せ、必死に縋り付く。

 

だが、混乱した景太郎には対処する術が無い、首に回された少女の腕が更に自分と少女を密着させ、その少女の体温が景太郎を更に混乱させていった。

 

ただ、景太郎はその時、この少女に対してどうしようもない懐かしさを感じていたのだが、初めて出会うこの少女に不思議なまでの懐かしさを感じていた、まるで旧知の、いや自分の半身に出会ったように、どうしようもない懐かしさを。

 

その叫び声、その容姿、その雰囲気、その全てが、懐かしく。

 

景太郎は思わず呟いた。

 

「ゆうちゃん」

 

本当に口から自然に、零れる様に出た呟き。

 

それは今、景太郎の胸に縋り付いて泣いている少女には届かないほど小さな呟きだったが。

 

 

 

 

 

暫くして少女が落ち着いたのか景太郎から身を話し、涙で腫れた目で景太郎を見据え。

 

先程自分が泣いていた事を恥じるかのように明るい声で景太郎に問いかけた。

 

「えーっと。こんな道端で泣いて御免ね、迷惑じゃなかった。この先に景太郎君のアパートあるんだよね。事情も話すしさ、景太郎君のアパート行かない?」

 

その提案を述べる少女の眼はまだ潤んだままで、そんな目をする少女の申し出を断れる景太郎ではなかった。

「駄目かな?」

 

景太郎が返事をしないことに不安を感じたのだろうか、少女が、その幼い美貌で景太郎を見上げるような視線で見据える、正に恐る恐るといった感じで。

 

その声に反応したのかどうかは判別しないが景太郎は慌てた口調で言葉をつむぐ、その声はとても優しげで、初対面の少女に掛けるようなものでは無いほど。

 

「えっと、大丈夫だから。迷惑じゃないし。・・・・・・・・・・・そういえば俺に話があるんだっけ。どんな話」

 

「うん、話があるんだよ!!でも、こんな道端じゃ、話し難いから景太郎君のアパートに言っていいかな。近くにあるんだよね!!

 

まぁ、そんなこんなで、景太郎はこの後少しの問答の末に少女を自分のアパートに連れて行くことになったのだが、因みに景太郎と少女の問答は景太郎の微妙な道徳観で年頃の少女が男の部屋に行こうとするもんじゃないといったものだったのだが、ものの見事に少女に論破され封殺された。

 

 

 

 

 

で、景太郎のアパート内、やはり前文の通りに言われるがままに少女のリクエストに答えてしまったのだ、意志が弱いというか、押しに弱いというか、なんと言うか。

 

「で、きみ、誰?」

 

アパート内で景太郎が放った第一声だった、確かに少女は景太郎に対して名乗っていないし、だがその一言で少女の今まで嬉しそうだった表情は一変し不機嫌そうな顔になって、責めるような口調で景太郎に問い掛けて来る。

 

まるで、自分誰なのかが判らないことが理不尽なことであると責めるように。

 

因みに表情描写は不機嫌というよりはムスーっとした感じが近いかもしれない。

 

「・・・・信じらんない。本当にわかんないんだ?」

 

本当に責め立てるような目付き、まるで浮気男を責める女房のような、何でローティーンの少女がそんな目つきが出来るのかは置いておくとして。

 

その表情の変化に、景太郎が自分が拙い事を言ったと判ったのか、先程の抱きつかれたときよりも慌てて、完全に弁解にしか聞こえないが。

 

「えっと、そうだ!!その制服、カト女の制服だよね。だったら、そうあれ、君、みつねちゃんの知り合い?そうなんじゃないかな?」

 

景太郎が、慌てる頭で記憶を走査して解答を見つけ答えようとするが、殆ど当てずっぽうであるし、大体、当てずっぽうの解答が当たるほど世の中甘く出来ていない。

 

確かに本質的な意味で間違った解答は出してはいなかったのが、それは後の話に続く、現在この場においては間違いであり、少女を更に不機嫌にするような答えとなったのは、景太郎が答えた後に更にムスーっとした少女の表情変化に現れている。

 

「み、みつねぇ!!!だ、だ、誰よそれ!?景太郎君とどんな関係なの!?

 

表情変化は不機嫌だけではなく、怒りも伴っていたようではあるが、しかも景太郎の首をつかんで叫んでいる様は美貌とあいまって年齢以上の迫力があったりする。

 

「あれ、違った」

 

「知らないわよぅ、そんなのぉ!?景太郎君の女!?それにどんな関係なのか答えてないっ!!

 

「女!?違う、違う、みつねちゃんは友達、そりゃ俺には優しくしてくれる、いい娘だけど。彼女は友達だよ、そんな関係」

 

最後のほうは微妙に嬉しそうに話す景太郎、馬鹿正直というか、この場においてそんな感情を込めた言葉を出したらどうなるかぐらい察しなさいというに。

 

まか、みつねのことをそれだけ気に掛けているということだろうが。

 

で、当の少女の対応、景太郎の反応が彼女の怒りと不機嫌を更なる高みに押し上げた。

 

それに呼応するように、先ほどの大声とは違う、低い、感情を押し殺したような呟く声。

 

「・・・・・・さいってー」

 

心底軽蔑するような声でそういった。

 

その言葉に景太郎は動揺するしかない、そのような言葉を掛けられる覚えは無いのだから、それを伊庭先ほどのやり取り全てがそれに該当するのだろうが。

 

「え、ええっ」

 

「・・・・・さいってーって言ったの。私絶対に認めないからね。他の女に手を出すなんて。これじゃ、死んだママが可哀想だよ・・・・・・・・・・・」

 

その言葉が更に景太郎を混乱させる、ママと呼ばれる単語に覚えもない。

 

「ちょっとどういうこと。ママ?・・・・・・・・そもそも俺と君はどんな関係。そもそもここが判らないし。君のママと俺がどういう繋がりが」

 

だから景太郎は思いついた疑問を口にする、そもそも判らない事が多すぎる。

 

その疑問が景太郎の僅かな不機嫌となって表情に表れる、まぁ、立て続けに起こっているのだそれくらいの感情が負に向かっても仕方が無い、それにその不機嫌はすぐさま吹き飛ばされた。

 

少女は、怒り、侮蔑、不機嫌、景太郎の何百倍も負の感情を込めて呟く言葉によって。

 

「・・・・・・・・・娘だもん」

 

暫く痛いような沈黙が続いて、耐えられなかった景太郎が口を開く。

 

「誰の?」

 

「貴方の」

 

「誰が?」

 

「私が」

 

押し問答である、景太郎が現実否認をしているだけかもしれないが、この押し問答が景太郎に現実否認を赦さなかった、どれだけ現実味が無かろうと。

 

いや景太郎の21歳という年齢から目の前の少女が娘という現実自体が現実離れしすぎている、現実否定のほうが現実的過ぎる。

 

だが、景太郎は目を点にして呆然として、言葉を紡ぐ。

 

「僕の娘、君が・・・・・・・・・・・・・・・・・僕の娘、そんな馬鹿な。え、絵、、絵、ええええ、いや、だって君、中学生くらいで」

 

やっぱり現実否認に走るようだ、走るしかないような気もするが同性として。

 

だが、少女はそんな景太郎の現実否認など欠片も赦してくれる気はない、まず赦す赦さないの問題ではないのだろうが。

 

慌てる景太郎に向かって少女はボソッと呟く。

 

「・・・・・・・・・しちゃったくせに」

 

景太郎がその声に反応して少女を見ると、少女は不機嫌そうな顔を赤らめさせて、捲し立てはじめた。

 

「景太郎君が、こ、こ、子供が出来るようなことっ、その、あのっ。十三年前の夜、青葉学園でっ。しちゃったって。私、ちゃんとママから聞いてるんだからね」

 

景太郎が呆然と、その叫びを聞いているうちに更に。

 

「わたし――結城美沙・十二歳。貴方、浦島景太郎の血を引く、実の娘なんです」

 

そして美沙、景太郎の娘を自称する少女は景太郎に詰めるように身を乗り出し、真剣の表情と目線で景太郎を見据え、それに応えるように、今まで呆然としていた景太郎が目を細めて、少女を同様の表情と目線で見つめ返す。

 

見つめながら景太郎は、先ほど感じたどうしようもない懐かしさを感じた、あの時は意味が判然としなかった感情、そのどうしようもない感情が、彼の中でつながった。

 

その自分の目の前の少女は、似ている、容姿も、声も、雰囲気も、分身と言っていい程。

 

彼の脳裏にこびり付いた記憶の中にいる少女に。

 

彼の約束の少女に。

 

十三年前に約束をした少女に。

 

重なった、目の前の少女、結城美沙に。

 

彼の約束の少女「ゆうちゃん」と。

 

 

 

 

 

「どう、わかった?私が娘だって」

 

エッヘンといった感じに景太郎に向けて薄い胸を張って、微妙に満足そうである。

 

それに対して景太郎は今日最大級の狼狽振りで美沙に向き直り。

 

「うん、似ている、似てる。・・・・・・・・そっくりだ。でも・・・あの時僕は八歳で」

 

確かに常識的に考えるとおかしい、だが。

 

「ギネスブックの記録でね、最年少妊娠記録って八歳なんだって」

 

「ギネス?」

 

「だから八歳で子供を生んだ女の子がいるの。で、ママと景太郎君がしたときママは景太郎君の一歳年下だから」

 

「妊娠期間を考えたら・・・・・・・・・」

 

「そういうこと、よっく、覚えているぅー。やっぱりママのことを愛してたんだ」

 

 

実際、嬉しそうな娘に対して景太郎の表情は真っ青を通り越して紫色に行き着きそうである。

 

「じゃぁ・・・・・・・・・・・・。本当に・・・・・・・・君は・・・・・・・・ゆうちゃんと俺の・・・・・・・・」

 

「そっ、ゆうちゃんっていうのは−苗字の結城のことだと思うけど−とにかくおめでとう、ギネスの世界にご招待って感じだね。お父さん」

 

お父さん、嬉しそうに微笑む自称・娘、既に自称ではないかもしれないが、「お父さん」のあたりが景太郎に更に現実認識、非現実的な現実認識を強めることになるのだが。

 

 

 

 

 

で、そのあまりの否定できない現実に対して景太郎は呆然とするも、彼に纏わる騒動はどうやら一斉に来る傾向にあるらしい。

 

呆然としている景太郎の携帯が鳴り響き、因みに着メロではなく黒電話の音なのだが、それが妙に今の景太郎の燃え尽きた感じにマッチしている。

 

景太郎は本能的に携帯を手に取り、通話状態にして耳にあて。

 

更に仰天したような声を上げ始めた。

 

「ちょ、ちょっと。婆ちゃん。突然、何を言い出すんだよ。何、反論は赦さないって。・・・・・・・こっちはいまそれどころ・・・・・・・・もうアパートは解約しておいたからって。勝手に何を・・・・無茶苦茶・・・・・・逆らうなって。俺も大学とバイトがあるん・・・・・・・・・・そこから通えばいいって勝手すぎ・・・・・・・・・・・・・もう直ぐ引越し業者が来る・・・・・・・・・・どうしてそんなに手際がいいのさ。・・・・・・・・今日中に行かないと・・・・・・・・どうなるかって。そんなの・・・・・・・・・・わかりました・・・・・・・・・判りましたからばあちゃん。やめて、それは・・・・・・・・俺を殺す気・・・・・・・・・・・・(暫く問答が続く)・・・・・はい、わかりました」

 

何やら祖母との会話のようだが、会話に物騒な単語が頻発していたような気もする。

 

なんと言うか、脅迫。

 

勿論、その会話に興味を抱かない、娘、結城美沙ではない。

 

この景太郎の娘、かなり好奇心という名の猫を大量に脳内に飼っているのだ。

 

「どうしたの、お父さん。なんか大変そうな電話だったけど。お父さんの御婆ちゃんからだよね。私にとってはひい御婆ちゃんだね。なに言われたのかなぁー。娘なんだからちゃんと話してよぉ。家族なんだからさぁ」

 

家族といっても、家族だとわかって十分も経っていないのだが、まぁ、無粋な突っ込みは置いておくとして。

 

景太郎が、先ほどとは微妙な感じに憔悴して、娘に語りかける。

 

「婆ちゃんが。来いって。その婆ちゃんが経営していた寮の管理人を俺にやらせるから、その寮にね。婆ちゃんには逆らえないし行くしかないか」

 

「ふーん、だったら私も付いてく」

 

「駄目だよ。美沙ちゃんが今暮らしている家があるだろう。そこに帰らないと、暫くしたら俺もその家に挨拶させに生かせてもらうから。ゆうちゃんはもういないんだろうけどね、挨拶ぐらいはけじめだし」

 

まぁ、マトモな発言だ、いきなり父親になった青年にしてみれば立派と評していい程の反応だし、言葉だろう。

 

ゆうちゃんがいない、というあたりには彼の深い悲しみが見え隠れしていたが、それは彼にとっては余りに認めがたい現実だったから。

 

彼は「ゆうちゃんとの約束」の為に東大に入り、東京での生活中も暇を見ては夕ちゃんの消息を探していたのだから。

 

十三年前の一夜のみ体を合わせた少女をずっと探していたのだから。

 

それでもその悲しみを一瞬見せただけで、自分の娘と称する女の子の前ではそんな姿を見せたくなかったのか、芽生え始めた父親の自覚か、どちらにしても立派だが。

 

「あたしって。今家出中なの。ウチのヒィジジイと喧嘩して、家に帰られないのよねぇ。で、誰かのところに転がり込むわけにも行かないしぃ。ほら、色々私達は複雑だけど、親子の絆って強いと思うのよねぇ。だから、お父さんは私を放り出したりしないよねぇ、お父さんなんだしぃ、だから連れて行ってくれるよねぇ。お父さん」

 

因みにこの時も幾許かの論争が起こったのだが。

 

娘の腕を胸の前に組んでウルウルと見上げるように景太郎を見つめて懇願すると景太郎はあっさり折れて、美沙は景太郎に付いていけるようになったりしている。

 

 

 

 

――浦島景太郎、21歳、東大生。

結城美沙との出会いと、祖母からの電話によって今までの一介の学生から数奇たる運命の道へと導くことになるとは。

 

いまだこの青年はそのことを知らない。

 


後書き。

 

自作サイトでは初めての新作連載です。またまたクロス物ですが。

 

サブタイトルで母親伏せているようですが、クロスさせている作品を考えればバレバレですねぇ。

 

子猫様(美沙)で、親猫様(一応伏せる)で、次はひなた荘でのドタバタを書いていきたいと思います。


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