変化

 

 

はてさてこれからがこの物語の本流となる話の展開だ、前座は終わり物語の流れが始まりだす、過去の惨劇から現在へと続く、そして未来へと。

 

物語は流れていく、とめどなく、激流にも清流にもなって。

 

登場人物はその流れに身を任せてしまうのだろう、身を任せてしまうしかないのだろう、物語に流していただいている身分としてはその流れに逆らうことなど出来はしない、流れそのものを逸脱できるのは“ ”に触れた真なる魔法使いのみ。

 

“ ”を理解することが“物語”に介入する資格を持つものだから、流れすら変えてしまう資格を保有する者達だから。

 

だが、それほどの類稀なる魔法使いの出番などいはしない、早々都合のいい登場人物はいはしない、故に物語に変革はない、変革はありえない。

 

だから此処からは流れに乗ってしまうしかない登場人物たちの物語、哀れに哀れそんな境遇の、悲惨の一言ではいい表せないない少年少女の物語。

 

詭道八百、それこそが相応しい偽りを用いていくのがこれからだ、これからは偽りに満ち欺くことに心血を注ぎきる、誰も彼もが嘘を表し、誰も彼もが騙される、嘘を嘘と知り、偽りを偽りと認めてなお、欺瞞の中で息をする。

 

誰を信じて、誰を疑い、誰を見限り、誰を殺し、誰を救い、誰を望む、そしてその全てがどこまでが嘘か真実かもまるで判然しない、そんなそんなお話。

 

世界が欺瞞に満ちて悪意に満ちる、全てが全て敵意の総動員、悪意の総攻撃、嘗ての哀れな少年少女が、これからも哀れな物語に身を落とす物語。

 

戦うことしか出来ない人形少年。

失うことに慣れきってしまった少年。

 

失うことを恐れすぎる少女。

血に塗れて哂う美女。

 

理性と狂気の間にいる少女。

血路を己の刃で築く少女。

 

家族の為に全てを殺し尽くす殺人鬼。

最悪にて醜悪なる群体の殺人鬼。

 

偽りの仮面を外すことが出来なかった狼。

最後の最後まで嘘を貫けなかった狼。

 

今回はそんな五人の織り成す序曲、物語としては序盤も序盤、始まりもいいところだ、そもそも終わりなど無いかもしれない物語ではあるが、人の感情のその果てにある物語に終わりなど無いのかもしれないのだが。

 

それでも終わりが無いかもしれない物語でよければ、この度この時この折に、気楽にくだけて物語を始めよう、悲惨で哀れで、悲しみに満ちた詭道八百の物語を。

 

誰も彼もが真実などに気を置かない嘘に満ちた物語を。

 

 

 

 

 

唐突にて突然、突拍子も無いような、それでいてありきたりな展開で情緒も無い物語の展開だが戦いの場面だ、一対三、数の上では圧倒的。

 

だが精神的にはどうなっているのかは当人たちの知るところ、数が意味を成す次元の戦いなのか、数すら意味をなくす次元の戦いなのか、それは当人たちの判別するところだ。

 

少なくとも数の優位が働くほどに生ぬるい戦いの気配などは感じることなど微塵もできはしない、殺気を剥き出しにして、それこそむき出しの感情をぶつけるがごとく式森和樹、神城凛、杜崎沙弓の三人が一人の青年を相手に対峙する。

 

殺し合いのために、殺し殺される為に、相手の真意などどうでもいい彼がこの場に現れた姿を見せた時点で成立した戦いだ、数の優位など無視した凄絶なる殺気を叩きつけている。

 

彼と彼女にしてみれば己の過去を知るものはすべからく敵に相応しい、姿を見せることで殺し合いの条件は十分成立、殺し殺され戦いの場を設えるのは対峙したその時からだ。

 

故に普段外界に興味を示さない式森和樹ですらその溢れ出る殺気の程は並を超越している、感情が無い問いっていいはずの少年が放つ空虚な殺意。

 

それは二人の少女のそれを凌駕している、彼は無表情無感動の表情で敵と認識する相手に視線を送っている。

 

ただそれだけで殺意以外の何も感じられないのだろうけど、殺意以外の何も無いのだから故に恐ろしい、殺す、この一つにしか思考が裂かれていない証左。

 

得てして殺気と呼ばれるものは殺意以外の何かを混合する、その“何か”が人それぞれにあるものなのだろうが、そのそれぞれが一つも混じっていない。

 

そんな殺意を出せるのは“あの”殺人鬼一賊だけだというのに、忌まわしき連中にしか出せないはずの殺気なのに彼はそれを放っている。

 

憎しみも怒りも悲しみも躊躇いも歓喜も喜悦も恨みも、そのほか全てにおいて何もない殺意、虚ろな殺意、空っぽの殺しの決意、ガランドウの殺気。

 

最悪にて最凶と同種の空気、ただそれが最強に通じるほど都合は良くないのだろうけど。

 

対峙する青年は神城駿司、神城凛の元実家神城家最強の男にして人外の化け物、人狼、二十代半ば程の長身の青年で長い髪を後ろで縛り、ラフな服装で得物は何も持っていない、どころか殺気を叩きつけられても構えすら取っていない、加えてこの異常なまでの殺しの空間の中で微笑みすらも浮かべている、それはやさしげな微笑、そして何かを諦める微笑、何かを痛みだと感じている微笑。

 

だが、油断なるだろうか、最強の名を、それが狭い範囲であれ呼ばれた男が、何も持っていない、敵意を示していない。

 

油断に足る理由になるだろうか。

 

油断の理由にはならない、笑顔で相手の首を切るぐらいの芸当はまさに朝飯前の連中の中にいた一人、殺しを生業にしていてそんなことで油断はしていられない。

 

そもそも油断などしてはいないのだろうが。

 

「凛、久し振りだね、それに和樹君も沙弓ちゃんも。僕が言うことを許される言葉でもないけど会いたかったよ、三人とも」

 

その声にも優しげなもので敵意等はかけらも含まれてはいなかった、それが真実か詭弁かは別にして、そして聞く側がどう判断するかも別にして。

 

 

 

 

 

さて戦いは、戦いとも呼べない戦いが始まろうとしている。

 

だが場にはまだ足りない、まだ一人足りない、最悪なる登場人物が足りない、最悪すぎる登場人物は足りない、最悪にして醜悪、劣悪にて最凶、冒涜と破壊の極みの殺人鬼。

 

“悪”にすらなりきれない最悪、零崎一賊、殺戮殺人鬼ゼロ裂一賊。

 

殺しに殺し、息をするがごとく殺し、心臓の鼓動のごとくの自然さで人を殺す、花を摘む容易さで命を刈り取る、殺しに長けた殺人鬼、殺しに長け過ぎた殺人鬼、殺人に殺人を重ねに重ねた殺人鬼

 

生まれた時から殺人鬼、死ぬまで殺人鬼、人から外れた正真正銘の生粋の化け物。

 

そんな彼らに名前を連ねる一人が足りない、最悪に限りなく近い一人が足りない、生物最悪たる殺人鬼、欠陥製品や人類最悪すら上を行く、本物の最悪集団の末席にて頂点、最強足りえぬ最凶、零崎の中の零崎、零崎らしくない零崎、それでいて骨の髄まで零崎。

 

優しい、自称博愛主義者の殺人鬼、だが徹頭徹尾で殺人鬼。

 

 

 

 

 

“伽藍の堂”、一人の変な訪問者が蒼崎橙子を尋ねて来ている。

 

それはもう変な男が、変という言葉を張り紙に書いて貼り付けているような、妙に背が高く、手足が長く、それでいて各部が細い、まるで針金のような体で長い髪の毛をオールバックにして伊達眼鏡、そして柔和な笑みを湛えた男、まるで似合っていない黒のスーツ姿。

 

エル(エリザベート)の入ってきたときの評価は「変な変人じゃな」と言うわけの判らない評価だった。

 

だがそんな言葉で評され、そしてその矛盾が固まっているような言葉、人を評価するにもけなすような言葉でもない、それでいて未知を頭に掲げた言葉。

 

そんな評価の下された男の名前は零崎双識、業界ではとても有名な男「二十人目の地獄」と称され「自殺志願」とされる恐るべき男。

 

誰もが誰も彼『等』との係わりなど心のそこから持ちたくないと思える男、たとえ隣に座るという些細なことでさえ関わりを持ちたくない、同じ酸素など断固として吸いたくない、それが最強に近い位置に立つものでさえそう思えるほどの最悪の彼。

 

その零崎が口を開く、柔らかく、温厚そうに、まるで人畜無害な青年のように、故に油断なら無い、笑いながら首を切れる人間に油断等してはならない、なんの意味もなく殺人を行えてしまう化け物を相手に一瞬も気を緩めてはいけない、何の思惑もなく殺してしまえる怪物を前にして。

 

そんな最悪が口を開く。

 

「久し振りだね、両儀式君。そう殺気立たなくてもいいよ、僕は平和主義だからね“君”が何もしなければ僕も何もしないよ、僕は何もされなければ何もしない、それに君との殺し合い、余り進んで行いたいものではないよ。今日用があるのは蒼崎君だ。蒼崎君、いつ以来か覚えが無いけど。久々に会ったんだ、お茶でもどうかな。別段積もる話もないのだろうけど見目麗しい女性に対する礼儀として聞かせてもらおう」

 

零崎の言葉に式が上げかけた腰を下ろす、この男は式が全力になって戦っても勝てるかどうか判らない、超越的な殺人鬼である式でさえ勝利が見えない。

 

だが、嘘はつかない種類の男だ、嘘は、その点で式は上げかけた腰を下ろしたのだろう、それでも警戒の目を向けている。

 

まぁそれは当たり前だ、幹也も事務所内にいるのだし、“零崎”に気を抜くような式ではない、彼の言葉通り彼女は無敵に近い能力を持つが、最悪を比べれば足元にも及ばないのが。

 

零崎。

 

この世で最も忌避すべき醜悪なる軍隊、敵にも味方にも回してはいけない最悪、それが彼ら、それを知るものに警戒は当然、必然、警戒しないほうがいかれている、この場から逃げ出そうとしないだけで十分に異端。

 

「フン、どうした零崎。お前がここに顔を出す必要は無いだろう、確かに久し振りだが私はお前に会いたくないし顔もあわせたくない。お茶も結構だ、大体お前に容姿を褒められても嬉しいとは感じない。そもそもお前は私が女かどうかは問題ではないだろう」

 

橙子も彼に対しては邪険な態度を隠そうともしない嫌悪を滲まして退室を言い渡す、社交辞令に対して毒の返礼を付け加えて。

 

だが、その程度で引き返すとも思ってはいるのだろうか、この男が偶々旧交を辞そうとして現れた、それは無い。

 

零崎は零崎で自分たちが最悪であるということを自覚している、どうしようもないことを理解している、救いようがないことを思い知らされている。

 

そんな連中が旧知の人間に顔を合わせに来るものか。

 

ならば何か用件があったと考えるのが必然、そしてそれならば素直に帰る道理が無い、少なくとも用件が済むまでは、用件が済むまでは何をしても帰らず、何をしても用件を済ますだろう。

 

そういう意味では彼が現れた時点で、彼の言葉尻通りに彼が何もしないと考えるのは早計に過ぎる。

 

「それがそうでもないのだよ。確かに僕も君自身に用は無いのだけどね、でも用が無いけど君が必要というわけだ、そうでもなければ僕が現れる道理が無い。判るかな君が関わっているわけでもないけど、君は僕が求める答えを持っている」

 

そこで言葉を切り、目線を送る、なんでもない風に、なんでもないように、それでいて何かとんでもないことを口にしそうな様子で。

 

まるで矛盾の塊のような様子で、言葉を継ぐ。

 

「“零崎一賊の一人”が殺された。その情報が欲しいんだ、そして君はその情報を知っている。因みに殺した男の名前は“神城駿司”、勿論“神城一族”の神城駿司だ」

 

橙子はその言葉を聴いて息を呑んだ“神城”の名前にも息を呑んだが“零崎”が殺された、その事実が、その起こっては為らない事象に対して、そしてこれから起こる結果に。

 

そして理解したもう既に因果は決まった、物語の流れは理解した、これからの流れの激流具合、これからの動きの激動具合、目の前の男がこれから何をするつもりなのかを十全に理解した、理解させられた。

 

“零崎”は自分たちの家族、一賊を殺した人間を赦しはしない、何処までも追い詰めて殺す、何処までも追いかけて殺す、どれだけの犠牲をはたいても殺す、どれだけの損害を出しても犠牲を出しても赦さない。

 

それが零崎の“家族愛”、それはまさしく敵討ち、零崎を一人殺すと言うのは二十人以上いる零崎全てを殺す覚悟が必要となる、零崎一人を殺すことは、零崎一人を殺す覚悟を持つということは零崎総てを殺す覚悟を持つことと同義

 

殺人美学は“理由無く殺す”、その中で例外は異常なまでの仲間意識から生じる殺しのみ、その殺しのみが零崎に明確な意思を持って、明確な決意を持って殺しに当たらせる。

 

最悪の戦闘集団、最凶の化物たち、否“殺人鬼”集団、“零崎一賊”。

 

彼等はビジネスでも快楽でもどんな理由でも人を殺さない、理由無く人を殺す、まさしく人を殺す鬼、呼吸するように人を殺す鬼、気付いたら殺す、どうしようもなく人を殺すと言う性質を持って生まれた人間が寄り集まったのが“零崎”。

 

彼等は、血族ではない殺人鬼が集まって家族を作る、故に孤独たる殺人鬼達にとって唯一の同類にして家族、そして零崎双識、零崎一賊長兄“二十人目の地獄”、彼は家族に対する愛はことのほか深い、それ故に誰よりも誰よりも零崎の特性を保持している、加えて零崎においても上位に入る戦闘力を持つ殺人鬼、彼はが人を殺せば恨みを買わない為に家族、知り合い、親密な人間全員が皆殺し。

 

殺人鬼たる零崎に於いて珍しい理由のある“人殺し”だろう、殺人鬼にとっての殺人は理由が無い、理由など必要が無い、殺人鬼と言う生物は殺人をするから殺人鬼なのだ、狼が他の動物を捕食するのに理由があるだろうか、確かに食べるためと言う理由があるだろうが、それは本能に直結した理由だろう。

 

殺人鬼の殺人も似たようなもの、それは性質なのだから、敵討ちは殺人鬼たる人間のする行動にとっては矛盾を孕んでいる。

 

何故なら理由をもってやる殺人つまりは“人殺し”、理由も無く行う殺人は“作業”、殺人鬼にとっての殺人は作業だ、息をするのと同じ、食事を取るのと同じ、眠るのと同じ作業。

 

そんな彼等が、唯一意味を持って殺人を行うのが敵討ち、その敵討ちがこれから行われようとしている。

 

その敵討ちがどういう意味を持つかも彼女は理解している。

 

「それで零崎の長兄“二十人目の地獄”たるお前が動いたのか、いや他のも動いているんだろうな。お前達はそういう連中だ、神城そのものを滅ぼす気か」

 

そう、一人殺せば、言葉の間違いなく全ての零崎が襲い掛かってくる、その親類縁者知り合い顔見知り、関係の薄い濃いの区別無く。

 

例えば言葉を交わしたことも無い隣人であろうと、それが敵と僅かでも関係を持つのなら“隣人”という薄すぎる関係を持つのなら、“見せしめ”として殺す。

 

彼女の言う「滅ぼす」はまさしくその意で問うているのだろう。

 

「まさしくその通りだよ、蒼崎君。彼以外の神城は、彼以外の神城関係者は全てが総てその通りだよ。神城の残党は軋識が始末した。でもね、彼は僕の手で始末を付けたいんだよ、愛しい弟が殺されたんだからね。それで“神城駿司”の情報は?これじゃあ判り辛い“神城凛”は何処に居る“瞬殺姫”は。おっと、この言い方は誤解を招く、いやいや安心していいよ“瞬殺姫”は殺さない、その辺の事情は裏で有名だからね。“殺し名”に匹敵する戦闘集団一族、その手の情報は僕らにも回ってくるものだからね。彼と彼女と瞬殺姫は敵に回したくはない。彼らは身内を殺されても報復なんて微塵も考えないだろうからね」

 

彼らを相手にすると此方もただでは済みそうに無いからね、そう付け加えて、言葉を閉じた。

 

“瞬殺姫”凛の縮地から付けられた裏の名前、その名の通り、その速さと手口一撃必殺のスタイルから付けられた忌み名、恐怖と血に濡れた二つ名、恐れと怯えを交えて口にされる字、因みに和樹の忌み名は“貌なき羅刹”、沙弓は“血染めの鬼女”、和樹の無表情と圧倒的戦闘力、沙弓の斬殺と残酷さからつけられた。

 

因みに凛の読みは「しゅんさつひめ」ではなく「しゅんさつき」なので。

 

自分で名乗りはしないが、それなりに有名な彼らだった。

 

そして彼等がどういう状態で居るかもある程度は知れ渡っている、派手な戦いの趨勢など裏では嵐のように伝わる、つたわる、ツタワル。

 

情報こそが命の業界、知らぬほど零崎も人間からは離れていない、殺し合いにとっての最大の敵は未知なのだから、その手の情報は自然と耳に入る。

 

「聞いて如何する」

 

「“瞬殺姫”が何処にいるかって事なんだよ、彼女のところに神城駿司は現れると僕は踏んでいるんだ。そうでなければ、そうでなければ僕がここに来たりはしない、彼女の所在を知りたいのだから、彼女の仲介をやっているのが君だとはそれなりに聞こえる話だ、知らないとは言わせない」

 

「追いかけっこになると人狼の彼には追いつけないからね。頭を使わないと。後本当だよ“駿殺姫”には危害を加えない、噂の二人にもね“零崎”の名前にかけて誓おうじゃないか、もし嘘をついたら、僕のマインドレンデル(自殺志願)を君にあげてもいい」

 

と、零崎は指を橙子の目の前に立てて片手で拝むようなスタイルで尋ねてくる、もう片方の手で、いつの間にか懐から取り出したのか異形な鋏を持ち指で弄びながら。

 

本当に異形な鋏、両刃の刃物二つに半月の取っ手をつけ交差させて固定したと言う感じの鋏、だがその使用用途は殺人以外考えられないだろう、鋏本来の役割など果たせそうに無い、鋏としては余りに禍々しすぎる

 

双識の愛着を持って使う武器、マインドレンデル(自殺志願)、彼がこれを譲るとまで言うのは先ず無いだろう、それほど愛用している武器だということを橙子は知っている。

 

鋏という殺しに向かない武器を彼が愛用していることを知っている、そんな武器を使う以上何らかの執着があることも想像に難くない。

 

それに、僅かにながら目の前の男の人格を知らない橙子でもない。

 

この柔和な微笑を見ている限りでは、この男が最悪の殺人鬼だとは誰も思いはしないだろう、まあ彼は最悪ではあるだろうが随分マトモな殺人鬼ではあるだろうが、殺人鬼にマトモもヤバイも無いのかもしれないけど。

 

殺人鬼としてヤバイのは恐らく生まれながらの殺人鬼、双識の弟、零崎人識。

 

彼は本当に、自己の意識の外でさえ殺人をする、目の前に死体が転がって「あ、殺しちまった」そんな具合だ、因みに彼は敵討ちをしないだろう、零崎でも異端である彼は兄の双識以外を家族であると認めてはいない。

 

そしてその兄が死んだところでだ。

 

まぁ、他の殺人鬼達も似た様な所であるが、殺人鬼とはある種の災害なのだ、殺人鬼と言う猛獣に襲われる災害、運が悪いで済ませられるほどに単純な結論。

 

だって、理由が無く殺す殺人鬼たち、彼らに殺される人間は彼らに出会ったと言う時点で運が悪かったとしか言い様が無いじゃないか。

 

道を歩いて通り魔に会うよりも始末に終えない運の悪さ。

 

だが、そんな殺人鬼と比べれば双識は言葉が通じないほどではない。

 

無駄に零崎の敵を作り出すような男ではない。

 

「まぁ、お前は嘘の類はつかないだろうし、本気で私と敵対する気も無さそうだしな、其処まで言うなら構わないが。そもそも私が教えなければ別の手段に訴えるのだろう」

 

「“赤”の魔術師に喧嘩を売るほど僕は強くないし、其処の両儀式君にもね、“瞬殺姫”に危害なんて加えたら、残りの二人に僕が殺されそうだ」

 

まぁ、そうだろうが、肩を竦めておどけている彼はそれこスーツの似合わない変な人だ。

 

だが、それでもこと戦闘能力で彼が最悪であることには変わりない、彼が言葉通りならばそんな簡単な話は無い。

 

「凛なら葵学園に通っているよ。だが今更神城の人間が接触してくるのか?式森と杜崎は既に潰された、残った神城もお前達が滅ぼした。今頃、その神城の生き残りが何故現れると踏む、それにどうしてお前ら零崎が殺された?」

 

当然の疑問だろう、今の神城が凛に接触するとは思えない。

 

“式森”“杜崎”の一族は和樹達が逃亡を果たした後も、和樹達に追撃を掛けたが返り討ちに合い、式森、杜崎の順で滅ぼされたのだから。

 

式森和樹の両親、煉と和馬は杜崎の当代最強を殺し、目ぼしい使い手を殺しつくしてから果てた、この時点で実質的な戦闘力は数割しか残っていなかっただろう。

 

それでも腹の収まらない馬鹿が和樹達に喧嘩を売り、逆に滅ぼされた、若手最強の三人に、修羅と課した、容赦のかけらも無い、無慈悲の権化の三人に勝てるほどの戦力など残っていなかった。

 

因みに一話の冒頭のシーンは和樹、沙弓のコンビで杜崎家を皆殺しにしたところ。

 

凛は完全に狂っていないのは自分の一族を自分の手で今のところ滅ぼしていないから、最後の一線、家族殺しを行っていない。

 

沙弓は自分の母親を自分の手に掛けた時点で完全に狂気に染まった。

 

和樹は自分の祖父母を一撃の下に撲殺し、弟弟子まで殺した、和樹は両親の死を悟ったときには壊れていたんだが。

 

最後の最後で残酷な愛を注いでくれた両親の存在により心が壊れてしなったのだが。

 

神城は他よりも理性的で、逃亡後は和樹達に干渉しなかったので何もされなかったと言うだけだ、それ故に生き残っていただけ。

 

それ故に凛に、滅ぼされた最後の残滓が凛荷関わろうとするのは解せない、姿を見せるだけで殺される、“神城の狼”とて、あの三人に態々関わる理由が見当たらない。

 

少なくとも彼女には、蒼崎橙子には、その理由が判らない。

 

故に問う、彼の狼が現れると踏んだ殺人鬼に。

 

「さて。彼、“神城の狼”が狼だからじゃないかな。まぁ、僕らと似たような理由で会いたいんだろうさ」と言って、去っていた、因みに深いお辞儀をするのが長身の為、妙に似合っていたとここに追記しよう。

 

そして、ゆっくりと歩いて“伽藍の堂”を出て行った。

 

帰り際に。

 

「黒桐君、今度久々に酒でも交わそうじゃないか」

 

殺人鬼とも懇意にする、黒桐幹也何気にツワモノである、周辺環境に慣らされただけなのかもしれないが。

 

最後に誰にも聞こえないような呟くような声で「家族には会いたいものだからねぇ」と。

 

 

 

 

 

さぁ、役者の揃い踏み、物語の登場人物の総登場、ここからが今回のお話の主観にて醍醐味、中心軸、そしてこれからの始まりへ続く物語。

 

三人目の修羅が生まれる瞬間。

 

不器用すぎる狼、敵討ちの殺人鬼、壊れきれない少女、本筋はこの三人に担ってもらおう、大筋はこの三人が関わっているだろう、この三人の物語。

 

では悲しみの物語、悲しい物語、不器用な狼が悲しみを運んでくる物語。

 

必要の無い苦しみを運んでくる物語、彼が彼女に会おうと思わなければ悲しみは連鎖しなかった、壊れきれない彼女は、暫く暫くは現状維持を保てたはずだ。

 

それが吉かどうかは別として、でも不器用過ぎる狼は、不器用なまでに伝えようとする。

 

伝えたいという欲求に従って、でもその欲求は必要だったろうか、伝える意味があったのだろうか、伝わることに意味うがあったのだろうか。

 

彼の放つ言葉の一つに、たった一つでも意味があったのだろうか、彼が満足するという以外の意味が、彼がそうしたいと望む以外の意味が、ありはしたのだろうか。

 

まぁ、そんな建前のような口上は止めにして物語を語っていこう。

 

 

 

 

 

何の敵意の殺気も無く挨拶する神城駿司。

 

だが“神城”というだけで、三人にとっては敵意の対象、しかも神城最強、三家の中でも最強の名を欲しいままにした神城の狼。

 

いやそんなことは関係ない、彼等にしてみれば彼等の力に対する関係者の殆どは殺すべき敵、憎むべき対象、殺さなければならない怨敵。

 

例えそれが殺し名と同列に扱われる“塵処理係”神城駿司であろうと、因みに何気に忌み名が間抜けだが、神城の敵対者、邪魔者などを殆ど殺しつくした化け物。

 

“殺し名”第一位の連中とも一対一と言う条件ならば対等に戦えるだろう戦闘力、警戒するなと言うほうが無茶だ、いやそれとも人間を超えた運動能力を誇る狼相手にサシでの戦いを挑むことができる殺し名のほうが化物なのかもしれないが、人を超えた猛者に挑むことができる殺し名のほうこそが化け物なのかもしれないだろうけど。

 

瞬き一つの後に攻撃が迫っていても不思議は無い、文字通りの人殺しの化け物、神城駿司。

 

三人がかりでようやく互角。

 

人狼の速度は凛の“縮地”に匹敵し、魔眼からの急所攻撃も当たらねば意味が無い、和樹の強力無比の攻撃も同様。

 

何より神城駿司は速い、速度なら凛に劣るが、速さと速度は別、凛は単に移動が早く、駿司は全てが速い、そして魔眼など無くても殺す手段など精通している、攻撃技術、威力ともに劣らない、経験なら圧倒的に劣る。

 

そんな相手に気が抜けるならば自殺志願者だ、優れているのは数の暴力のみ。

 

和樹達は当面は死ぬつもりなど微塵も無い、少なくとも和樹以外の二人の意志は死を望んでいない。

 

和樹がそれを如何思っているのかは別なのだろうが。

 

 

 

 

 

挨拶から続く沈黙が数十秒も立たないうちに、駿司が張ったのであろう人払いの結界を越えて入ってくる乱入者、いや流れに従った登場人物。

 

似合わないスーツ、伊達眼鏡、オールバック、針金のように細長い体躯、そして神城駿司を見据える眼光、殺人鬼、零崎一賊、二十人目の地獄、零崎双識、奇怪にて醜悪な殺人鬼の登場、冒涜と悪逆の集大成、最悪存在。

 

それは場の均衡を潰すには十分で、この緊張に孕んだ空間をぶち壊すには十分な闖入者だった、異端も異常も奇抜もすべてを含んだ招かれざる訪問者。

 

零崎双識はその顔に笑みを湛え、口を開いた。

 

「お初にお目にかかるでいいかな“塵処理係”、神城の殺し屋、神城駿司。僕は零崎双識、後は説明は要らないだろう、零崎の名前で十分だろう。僕の苗字で君は全てが判ってしまうんじゃないのかい」

 

 

 

 

 

凛と沙弓は零崎双識の名乗りに唖然とした顔で双識を眺め駿司の顔を眺めた、呆然と言ってもいい。

 

もしくは拍子抜けた、驚いた、予想外、度肝を抜かれた、何でもいいが、なんでも表現できるが“居るはずのない”“関わるはずのない”最悪を目にして、無論彼女たちはその最悪の姿は知らなかったけれど、最悪の名前で十全だ。

 

何故ここに“零崎”が、彼女たちでさえその恐ろしさを知る“零崎一賊”がここにいる、その想定外に過ぎる事態に僅かに混乱する。

 

零崎は裏の世界ではあまりに恐ろしすぎる名前だから、絶対に関わってはならない代名詞だったから、人類最強を相手にしても最悪一賊を敵にしてはならない。

 

敵にしないことは不文律、逃亡が出来る人類最強と殺戮するまで止まらない最悪、敵にして最悪の最悪は零崎、呪いの域にまで邪悪に染まった名前。

 

その苗字を持つ双識が口を開く。

 

「さて“塵処理係”。今更に何だが一応聞こうか、今更に間違いだったら嫌だからね。今更間違って殺人をして後味が悪いってんじゃなくて、間違っていたら面倒だからだけど。まぁ、意思疎通の齟齬がない程度に噛み砕いて質問をするとして」

 

一端呼吸を置いて。

 

「弟を殺したね、“塵処理係”」

 

双識はその問いの時にも口元に笑みを湛えていた、そんな彼の問いに駿司は、軽く天を仰いでため息をついて。

 

まるでなんでもないような口調で、まるで安易なことを口にするように、どうでもいいことを口にするように、普段慣れ親しんだ言葉をつむぐような手軽さで。

 

そして何かを諦めたような、僅かに苛立ちと悲しみを浮かべ。

 

「ああ、僕が殺したよ、でも零崎だと言うことは判っているけど、誰かは知らんよ、名乗らなかったから」

 

認めた、零崎を殺したことを。

 

「ああでも“二十人目の地獄”、僕の用が終わるまで待ってくれないか、そう待たせない。僕を殺す時間にはそう時を待たせるつもりはない。どうせ“僕だけ”を殺しに来たんだろう“二十人目の地獄”」

 

駿司は双識に、双識は懐にマインドレンデルを戻し、既に背中を向けて、その様子に警戒心が無い、“塵処理係”の前と言うのに。

 

もしかしたらこの場で双識が今の駿司の状態を一番理解しているのかもしれない、仇敵を前にしているというのに、敵討ちにきている殺人鬼なのに。

 

もしかしたら一番彼の心に近づいているのは彼なのかもしれない、人を外れた化物が、人と交わった化物の心情を理解していたのかもしれない。

 

それがどちらかだろうと戯言に過ぎないんだけど、どちらでもまるで関係のないことなんだろうけど。

 

ほんとうにどうでものだけど。

 

「まぁ、いいよ、それほど焦る話でもない、急ぐほどのことでもない、いつでも出来ることをせく必要もない。僕は久々の再会を台無しにするほど無粋じゃない、でも見物はさせてもらうよ興味深いからね。そしてその後に殺し合おう」

 

双識は近くの壁にもたれ掛かり、本当に先ほどまで零れていた僅かな殺気でさえなりを潜めた、もう完全に興味津々と言った傍観者スタイルは流石と言うべきか、その代わり身の速さは、零崎とは関係ないけど、零崎双識の変人っぷりとしては。

 

博愛主義を自称する彼としての物分りのよさなのかもしれない“愚神礼讃”ではこうもいかないだろうが、最も激しい殺人鬼“シームレスパイアス”にはない悠長さ。

 

 

 

 

 

零崎双識が傍観者となり、神城駿司は再び三人に向かい合う、再び睨みの眼光に晒される。

 

やはり殺気も闘気も敵意も無い、まるで穏やかな神城駿司、穏やかな笑みを湛えて、その目は凛を見つめていた、まるで父親のように。

 

双識の介入で若干拍子が抜けたが、警戒感を落とさない凛と沙弓も気がついた、何でここまで敵意が、いや暖かい、そして申し訳の無さそうな表情をするのだろう、と。

 

だが気は緩めない、そんな甘さを彼女達はとうに捨てている。

 

敵は殺す。

 

障害は排除する。

 

だが、容易くは飛び込めない。

 

狼が怖い、自分たちを上回るはずの“最強”、そして心理的には“最悪”がいることでも飛び込めない。

 

事情は判らない、だが“もし”最強に勝利しても負傷し疲労した状態で最悪が待ち構えていると考えると、戦いなど挑めるものではない。

 

互いが互いに依存する彼女達にとって捨て駒の戦術は無い、互いを失う戦術をとるならば先ず己を捧げる殉教者、どれだけの状況でも生き残りを最優先で考える。

 

故に最強を前にして飛び込むことなどできるわけもない。

 

 

 

 

 

その葛藤を知っているのか知らないの、駿司は口を開く、ゆっくりと、まるで独白のように。

 

その語りは穏やかで敵意も、いやむしろ今誰かが攻撃を仕掛けたら避けようのない無防備さを晒して、ただ口から言葉を紡ぐ。

 

でもその言葉は誰に話しているのだろう、己か、それとも他者か?

 

「凛があの下らない考えをやらされるって時に僕は神城を離れていた、まぁ言い訳にもならないだろうけど、そして過ぎたことなんだから言葉にしても詮無きことだろうけど。あの時何も出来なかったことは・・・・・・・・・・・・ことばにする必要もないか。言葉にしても今更だ。でも、見つけるのには大分掛かって。まぁ、この生き恥を晒している僕が現れることなんて凛は望んでいなかっただろうけど。会いたかったよ」

 

一つ区切り、薄く輝いている満月を駿司は見上げ、続ける。

 

その姿に僅かに凛が震える、刀を突きつけたまま、注意を注いだまま。

 

「それに沙弓ちゃんにも苦労を掛けたね、小さい頃凛を、今思うとやり過ぎだと思うくらい鍛錬を押し付けて、いつも慰めてくれていたのは君だった。感謝しているよ、あのままだったら凛はつぶれていただろうから、君が凛の友達になってくれて嬉しかったよ、これからも凛を頼むよ。後、不謹慎だし、不道徳だろうけど、凛と沙弓ちゃん和樹の三人で添い遂げてくれると嬉しい。和樹君も君にも有難うといっておく・・・・・・・僕の立場として・・・・・・・・・・こんなことを言えた義理ではないのだろうけど・・・・・・それでも少々腹立たしいのが事実だけど凛をよろしく頼む」

 

また一拍置いて。

 

「凛、子供の頃は虐待のように凛をシゴイテ、それでも僕は自分が凛の兄だと思い上がっていた。小さかった君を、赤ん坊から見続けて、最後には何もしてやれなかった。僕は・・・・・・・・・・・君の兄だと思っていたのだけどね・・・・・・・何も出来なかった、君にだけ苦痛を背負い込ませて・・・・・・・・・・何も出来なかった僕を恨んでくれ・・・・・・・・・・・・・・この場に現れた僕を呪ってくれ・・・・・・・・・ただ会いたかった。もう現れることもないだろうけど会いたかったよ」

 

まるで遺言のような。

 

二度と会えないような。

 

これでお仕舞いのような。

 

そんな、台詞。

 

 

 

 

 

駿司は和樹に無造作に近寄り、和樹もそれに警戒せず接近を赦した。

 

無情な彼が何故赦したのかは、彼のみを知るところだろうけど、彼も何を言っているのかを悟ったのかもしれない。

 

いつぞやの両親と同じ匂いを嗅いだのかもしれない、そんな相手には牙を向けられない。

 

そこまではまだ辿り着けていない、もうどうしようもないところまで行ってしまってはいたが、まだ行き着いていはいなかったのだろう。

 

だから近づくことを赦した、殺せる距離に入ることを赦した。

 

「煉さんの手甲、君が持つのが相応しいだろう。後和馬の小太刀、使ってやってくれ」

 

左手用しかない漆黒の手甲、業物の小太刀を空間から取り出して和樹に渡し、儚げに笑い掛け、耳元で何かを喋りそれに僅かだが和樹が反応する、それは本当に僅かな反応だったけど。

 

彼女たち以外ではなかなか引き出せない彼の反応だった。

 

「人狼族の秘石、君の魔眼の力を高め守ってくれるだろう。凛を助けてやってくれ」

 

沙弓に何の装飾も無い鎖の付いた石のネックレス、それを渡してやっぱり小さな声で呟く。

 

そして最後に

 

「凛、これを受け取って欲しい、僕の愛刀、月詠と十六夜、凛には扱いづらいかもしれないけど。いやどうしようと凛の勝手だろうね・・・・・・・・・よければ使ってくれると嬉しいけど・・・・・・・・・・・・邪魔なら叩き売っても構わないから受け取ってくれ」

 

一つは大振りな打刀、一つは小振りな小太刀、華美な装飾は無い刀、それでいて刀身は美しい刀。

 

その動作はまるで自分の遺品を分配するような作業、その作業の終わりに駿司はおもむろに凛の頬に手を伸ばして、頬を撫でた、顔全体を手で包むようにゆっくりと優しげに。

 

凛は驚いたように顔を上げ、そして撫でられた、その間は睨むこともなく、僅かだが表情を緩めて。

 

「じゃあ、和樹君、凛と沙弓ちゃんを守るんだぞ」

 

そう言って凛から離れた。

 

 

 

 

 

「駿司!!

 

離れていく、背を向けて双識のほうに歩みを進める駿司に凛が叫ぶ。

 

既に悟っているのだろうけど、その悟りを拒絶するような声音で、その悟りを否定するような調子で吼えた、そこに先程までの拒絶はなく。

 

あるのは何だろうか?

 

「どうしたの凛」

 

「お前は、何で私にこれを・・・・・渡す。これはお前の連れ合いの形見じゃないか。そんなものをそんな大切なものを何で私に・・・・・・・・・・お前は何がしたい!!

 

凛は月詠を突き出して叫ぶ、確かにそれは遠い昔、駿司と連れ添った人間の女性が愛用した打刀、死後駿司が使い続けた刀、彼の命よりも大事にしていると妹の立場として知っていた得物。

 

凛は知っている、時折何かを思い馳せるように彼がこの刀を見つめることを、その刀をどれだけ大事にしているかを、そんなものを、そんなものを渡す。

 

受け取れるわけが無い、それではまるで。

 

それではまるで。

 

「貰って欲しいからかな、凛に、最後までロクデナシだった兄の、最後までロクデナシな行為だよ、我が侭かな、これは」

 

駿司の答えは残酷なまでに凛の想像を肯定するものだった、どう否定することもできないほどの肯定、この言葉の裏を探ることなど不可能だ。

 

言葉のとおりの意味、言葉のままの意味、誤魔化しようのない意味。

 

 

 

 

凛は叫ぶ、嘆くように、慟哭のように、怨嗟のように、嘆願するように、懇願するように。

 

「何で、何で、お前はこんなことをする、私が苦しむだけだって判っているだろうが、駿司。何を考えているんだお前は。何で、何で私の前に現れた、何でこんなものを私に託す。何で最後の最後まで私を苦しめる!!!

 

そんな叫びに駿司は応えない、背中で受けて流すだけ、歩みを止めようとさえしない。

 

「じゃあ“二十人目の地獄”、始めようか、でも場所を変えてくれないかな、ここじゃあやりづらい、そちらもそうだろう」

 

双識はチラッと凛を眺め。

 

「いいのかい、家族は大事だよ、愛すべき家族は特にね。もう少し待ってもいいんだよ私は。しに行く君に時間を与える寛大さくらいは持ち合わせているのだし。ここまで待ったのだからどれだけ待とうと同じことだ」

 

それに駿司はやはり応えなかった。

 

「まぁ、いいか。それにしても“塵処理係”僕に嫌な役回りをさせるものだね、弟を殺した理由は尋ねないけど、尋ねる意味もないから尋ねないのだけど。まるで僕をこの場に来させるみたいじゃないか、君を殺す為に。まぁ、その為に零崎を殺すことはないだろうけど」

 

ふふ、まるで僕は悪役で君の妹に恨まれる、それでも妹さんは僕は殺せないからね。

 

そんなことを唇の上だけで呟く双識。

 

「そんなつもりは無かったんだけどね、どうせ数日後には・・・・・・・・どこかの山の中でくたばろうと思っていた、看取ってくれる相手がいるだけ幸福だよ、僕は。それが殺人鬼であろうと」

 

 

 

 

 

凛の叫びは続いていた、もう意味を為さない叫びを、それを沙弓が後ろから羽交い絞めにして取り押さえている、そして凛の耳元で何かを呟く。

 

そして凛は更に激しく、絶叫と言える叫びで吼えた、それでも先ほどとは違う意味の伴った叫びなんだけど。

 

「お兄ちゃん、死ぬな、死んじゃ嫌だ、まだ必要だ、私にはお兄ちゃんが必要だ、駿兄!!!まだ生きられる、どうにでもして生かせる。悪いと思うのなら、私に謝りたいなら生きて、生きて兄さん、兄さん!!!!もう私から家族を、誰かを失わせないでくれ」

 

その叫びで駿司が僅かに震え、呟いた。

 

「嗚呼、死ぬ前にまた聞けた、やっぱり僕は幸福過ぎる、過ぎた妹だ」

 

一筋だけ頬を伝う涙が双識には見え、呟きは聞こえなかった。

 

「じゃあ、いこうか零崎双識」

 

そう言って駿司は消えるような速度でその場を去り、双識もそれに続いた、後には泣きながら叫び続ける凛と、凛を押さえつける沙弓、そして駿司の消えた方向を見つめ頭を一回だけ下げた和樹がいた。

 

僅かに「わかりました」と呟いた、本当に唇だけの動きで。

 

 

 

 

 

郊外の森の中、駿司と双識。

 

駿司は無手、双識の右手にマインドレンデル(自殺志願)

 

殺気も立ち上らない殺しの空間で双識は宣告した、零裂きの台詞を。

 

「零崎を始めようか」

 

最強の古狼と最凶の殺人鬼の殺し合いの幕開けだ。

 

 

 

 

 

はてさて、狼の最後の戦いは幕を飽け、最悪との戦いを始める。

 

だが結果は見るべきものでもない、見る必要さえない、見る価値さえない、結果の決まってしまった物語など、結果の定まってしまった流れなど、推し量ればわかるというものだ。

 

戦いになどなるものか、全てを諦めてしまった、終わってしまった狼が、それでも勝利をつかみとるほどには甘くない、行き着いてしまった殺人鬼を相手にして、執着してしまった最悪を相手にして勝利は在り得ない。

 

ここで潰えるのが時節で頃合だ、この時を逃しても既に死が確立してしまっているだろう、この時の殺しを断行するオルタナティブは早々いないことを考えれば、ここで死ぬのが必然だ。

 

そしてここで死ななくても、ここで死ねなくても、彼の物語は幕を引く。

 

それが判っていながら抵抗出来るだろうか、全力以上を搾り出して抵抗することなどできるだろうか、もう諦めてしまっているのに、最後の我侭ですら済ましてしまっている狼に。

 

抵抗など出来ないだろう。

 

流れのままに物語に流していただくのが相応というものだ。

 

 

 

 

 

神城駿司が死んだ、それは明確にて確かなことだったろう、神城駿司は自から望んで死ぬことが判って零崎双識との殺し合いに応じたのだから。

 

死ぬのは前提だ、死以外の結果はありえない、神城駿司は死を望んで死合った。

 

自分が勝てる見込みなど微塵も持たず、ただ殺されることだけを望み、死のみを嘆願して。

 

結果は明白、死にたがりそして余命幾許も無い古狼が最凶の殺人鬼の相手になどなるものか、勝つつもりが無いのだから、勝てるわけが無い、戦いになるわけが無い。

 

今の彼ならば双識でなくても勝てたろう、彼女達の一人でさえ刃をその身に埋もれさせることが出来たはずだ、強い弱いの強弱関係は別として、そうなることが必然のように出来てしまったのではないだろうか。

 

彼にとっては違いが無かったのだ、どこかの森の中で一人ひっそりと死を待つのと、誰かに命を絶たれて野に晒されるのと。

 

何処にも違いは無かった。

 

死に場所を探して死を看取る相手さえいた彼は幸福だったのかどうかは本人にしかわからないだろうが、看取るのが殺人鬼だったとしても。

 

断言できることは一つ。

 

彼は間違いなくエゴイストだろう、不必要な悲しみを凛に押し付けたのだから、不要な感情を義理の妹に押し付けてしまったのだから、必要な無い想いを与え永遠に去ったのだから。

 

そもそも初めからどこかで静かにくたばっていれば凛は気付かずに生きていたのだろうから、時たまふと思い出す程度の存在に成り果てることが出来たのだから。

 

彼がここに現れる必要性なんてかけらも無かった、現れる意味など無かった、死にぞこないはそのまま死をおとなしく迎え入れていればよかったではないか

 

余計な悲しみなど与えず、どこかの山か森の中で自分を悔いて無力を呪ってくたばればよかったのだ、己の無力を嘆いて呪って蔑んでくたばれば路傍の石として記憶の片隅で磨耗して消える存在に成り果てることが出来ただろう。

 

それがどれだけ寂しい選択だったとしても。

 

だが、それをしなかった。

 

死の前に凛の前に現れた駿司は只己の欲望に従い現れたのだろう、只自分の妹に、娘のような妹に己を焼き付けておきたかった、それがたとえ悲しみの記憶になると判ってはいても、己を誰かの中に残したかった、妹の胸の中に忘れ得ない記憶として存在したかった。

 

そして謝りたかった自分の無力、自分の罪悪を。

 

そんなものは胸にしまってくたばればよかったのに。

 

だから故に彼はエゴイスト。

 

エゴの果てから出た我が侭を死の淵で押さえられなかったのだから。

 

死を目前にして彼が最後にとった我が侭、誰にも責められない我が侭。

 

最後の最後で我が子に会いたいという親として最高の我が侭。

 

彼は凛の悲しみを判ってその最高の我が侭をやり通し、逝った。

 

最悪のエゴイストとして。

 

 

 

 

 

零崎双識は己がマインドレンデルで止めを刺した戦士に何の感慨も持たず立ち去った、殺人鬼たる彼にとっては殺人など取るに足らない作業に過ぎないのだろうから。

 

罪悪など感じない、憐憫など感じない、愉悦も感じない、達成感も感じない、それがたとえ敵討ちであったとしても、殺人に何の意味も付けられないのが彼ら殺人鬼だ。

 

彼等の殺人に理由は無い、今回は家族愛という理由があるが本来それ以外理由をもたない。

 

敵討ち、そういう名文での殺しであっても殺しに感慨など無いのだろう。

 

零崎にとって殺しは日常的で当たり前で普遍的だから、零崎は零崎だというだけで人を殺す、人殺しの鬼、零崎一賊。

 

躊躇い無く、偽りも無く、優しさも無く、厳しさも無く、戸惑いも無く、只人を殺す鬼。

 

殺意のみを有して人を殺す鬼。

 

其れが殺人鬼、零崎、零崎一賊、全てを殺しつくす殺人鬼。

 

只、この一戦に限れば彼は異例なことを為している、神城駿司の遺体が砂に成るのを看取ると彼は立ち去った。

 

彼にしては珍しく、自分を怨むであろう少女捨て置いて。

 

彼は“二十人目の地獄”その名の通り彼は一人殺せば恨みを買わぬように親類縁者皆殺し、二十人以上を殺すのだから、その彼が約定を守り凛を捨て置いた。

 

約定よりも遥かに重い零崎の理を放棄して立ち去った。

 

彼が凛を殺さなかった、それは彼の信条から外れる行い、それが蒼崎橙子との約束か、古狼の意を汲んでかは本人にしか分かりようは無いのだが。

 

只、零崎において双識は一番家族を大事にする零崎の長兄だった。

 

 

 

 

 

神城凛。

 

今日彼女は最後の家族を失った、幼い頃からの唯一の兄を、和樹とも違う沙弓とも違う師として兄として、時として親として接した狼は凛から永遠に離れた。

 

彼女の中に自身の父や母に対する情など残ってはいなかった、自身を殺し合いの野に放った両親、親族、一族など憎しみの対象でしかない、死んだところで今更何の感慨も無い。

 

どこでどんな風にくたばろうとそれに何も感じない、もしかしたら愉悦の一つくらいは感じられるかも知れないが、感じるのは愉悦、悲しみなど沸こうはずもない。

 

そんな存在はどうでもよかった、心底どうでもよかった、彼女の心に残っていたのは神城駿司、凛に悲しみを刻み込んだエゴイストの狼。

 

自身を無力と謗った最強の狼こそが彼女の和樹達以外に心赦せる他人、どれだけ彼女が表面で彼を嫌おうと、彼女は彼を嫌い切れていなかった。

 

彼女に纏わる過去の人物の殆どを憎悪していても彼は憎まれてはいなかった、彼女は彼の見えない優しさや自分に対する甘さを見ていたから。

 

力のみを至上とする一族の中で盾となっていてくれたぐらいは判っていたから。

 

彼は厳しく、非情なほどに凛に接していたが、その優しさは伝わっていたから、異常な一族の中で厳しいながらも彼は凛を守っていたから、凛は心のどこかでは幼い頃から守られていると察していたから。

 

憎みきれなかった。

 

そしてそんな数少ない人を失った、永遠に、これで彼女には何も無い、和樹や沙弓と同じく互いしか何も無い。

 

帰る家も無ければ、家族も無い、師匠も無ければ兄弟もいない、お互いだけしか居ない。

 

絶対的孤独、絶対的共依存状態。

 

これで彼女は壊れるか、和樹と沙弓のいる側に完全に行ってしまうのか、狂気の渦巻く狂人の世界へと、彼女は未だその一歩手前にいるだけだけれど、その一歩を踏み出す状態は整った、整いはしたがそれを選択するのは誰でもない、彼女自身なのだろうけど。

 

彼女自身が選択することだ。

 

どちらにその身を染めるのか。

 

只和樹と同じ側、修羅、羅刹、狂人、鬼人、悪魔、死神等と呼ばれる人種だろう。

 

殺人鬼とは違うがやはりどうしようもない“悪”、どうしようもない“悪”党となる道だろう、其処に安寧はなく只殺伐とした日常が続くだけの日々が待ち受けているかもしれない。

 

踏み外した人間に普通の幸せを求めることは傲慢に過ぎるだろうから、我が侭に過ぎるだろうから、踏み外した瞬間に彼女は普遍的な幸せとはおさらばだろう。

 

其れが踏み外した代償だろう、何も失わず、何も変わらず、何も苦しまず、自分の存在の在り方を変えるのは理不尽だ。

 

世の中何をおいても等価交換、得るものがあれば失う、其れが世界の法則にして真理。

 

敗北を知ることで益を得ることもある、勝利を失うことで見出せることもある、だが勝利と敗北を同時に得ることなど出来ない。

 

勝者は勝者で敗者は敗者だ、全てを得ることは出来はしない、得れば失う、失えば得る。

 

選べば他の選択肢は潰える、何かを掴めばつかめないものが出てくる。

 

さて、彼女はどちらに向かうのか、選択は少ないだろうけど、選ぶのは君だ、神城凛。

 

 

 

 

 

一人泣いた、託された刀を二振り抱き締めて。

 

声を出さず、泣き明かした、壁にもたれ、声も出さず、只目から雫を流す、窓から見える月を眺めて、一晩中月が見えなくなるまで。

 

たった一人で涙を流し続けた。

 

皮肉かどうかは判らないが、只の偶然なのだろうが、その晩は満月だったのは狼にとって何かの弔いになったのだろうか、凛は円を描く月を眺めて恐らくはその日一晩は兄を感じて悲しんだ。

 

 

 

 

 

彼女はその晩に選んだのだろうか自分の在り方を。

 

 

 

 

 

翌日。

 

凛と和樹と沙弓は集まり、凛は沙弓と暮らすことになった、今まで住んでいた女子寮を離れ沙弓と同じ彩雲寮に、元々が二人部屋、不都合は無いだろう、確かに女子寮に美少女二人が住むというのは問題だろうが、そんなものはどうとでもなる。

 

凛自身の荷物も少ないことからその日の内に。

 

沙弓も凛の状態を考えればそれに否は無い、元々が二人で暮らしてもいい関係だった

 

学校側もこの新たな女子の男子寮への居住は否を唱えなかった、彼等は学校側からそれだけの我が侭が赦される存在で、玖里子を通して行われたその申し込みは彼女が拒めなかったというのもあるのだろうが。

 

玖里子は完全に未知たる自分の知らない領域に存在する三人を恐れていたから、敵に回すなどもってのほか、自分が以前にしたことを考えれば、ご機嫌を取っておきたいぐらいの相手、玖里子は自身が尽力してその理不尽な申し出を通したともいえる。

 

まぁ、つまりはどうとでもなったのではなく、正確にはどうとでもしたという事か。

 

 

 

 

 

沙弓の部屋に住むようになった凛は以前と変わらなかった、表面上は。

 

深いところでは窺い知る事は出来ない、只、前より一層和樹を求め、和樹を守り、沙弓に縋り、自身を鍛えた。

 

何の為に鍛えたのだろう。

 

託された二刀を操るためか、確かに長大な打刀は凛の体に余る長さがあり、小太刀も扱うとなれば片手で其れを扱うことになる。

 

だが、人の限界まで鍛えられた凛に扱えないというほどではない、凛は既に二刀流を会得していたのだから。

 

慣れるのは時間が解決する問題だ。

 

何の為と問われたら、理由は無いと答えるしかない。

 

彼女は自分が何で鍛えているのか理解していなかったから。

 

不安か、恐れか、憤りか、寂しさか、何かの衝動に突き動かされたとしか言いようが無い。

 

恐らくは失うことに対する拒絶。

 

沙弓、和樹の愛する、文字通り二人共愛する二人を失わないためだろう。

 

本人はその理由さえ理解はしていなかったろうが、守りたいが為に鍛えていると。

 

もう、失うのは凛の本能が叫んでいた、もう誰かを失うならば自分は生きてはいけない。

 

その時は本当に壊れてしまうと。

 

其れは自己保存本能。

 

人間の本能が有する群体生物としての執着心。

 

全てを失いかけた人間の狂気を孕んだ独占欲。

 

歪な人の感情が起こさせる防衛衝動、防衛機制。

 

鍛えることにより力を求め、力を求めることで愛する人を守る、力を得て並ぶことが出来て愛される資格がある。

 

其れは彼女の思い込み、もし彼女が力を失くしても沙弓も和樹も凛を愛さないはずが無いだろう。

 

死を越え、家族を殺し、お互いだけで生きていた彼らが誰か一人を見捨てることが出来るはずが無い。

 

だが、力は与えてくれるだろう、奪われる壊される切り裂かれる恐怖を拭う為の暴力を。

 

自分を邪魔する、自分を否定する、自分を窮地に立たす状況を理不尽を人間を駆逐するだけの力を暴力は与えてくれる。

 

それに是非は無い。

 

只その選択は、修羅と化した和樹と変わることが無い。

 

力を求めるという事は、只単純に力を求めるという事は、狂わずには出来ないことなのだから、彼女の高みに上ってなお力を求めるという事は、狂うという事だよ。

 

 

 

 

 

そして狂えるほどに和樹を求めた、毎晩のように和樹に抱かれ、抱いた。

 

体を繋ぐことで失う恐怖を拭うように、肉欲に溺れることで寂しさを拭うように。

 

凛の小柄な体が男を毎晩受け入れ、沙弓がその体を刺激する。

 

男の精が放たれること充足感をかんじ、凛は満足し眠りにつく日も少なくは無かった。

 

 

 

 

 

また、前以上に凛は沙弓を姉と慕い、沙弓は妹として構った。

 

其れは偽りだろうとも仮初だろうとも。

 

彼女達三人が立った三人で生きて、たった三人の家族として生きていくのに。

 

最良の関係かどうかはわからない。

 

何処もかしこも壊れた彼等に最善は無く最良しかない。

 

何処もかしこも壊れた彼等に普遍も普通も当然の既に無い。

 

 

 


後書き

 

かなり改変しています、元々のものから原型すら変わっているかもしれません。

 

本来の連載ならば次からはメイド編に移行していたのですが、我、無垢で現在メイドなのでこちらは別に進みます、空の境界の色を濃くしてお話としては浅上藤乃編にいけたらと思っていますが、もしかしたら藤乃編に戯言キャラが介入してくるかもしれません。


御意見、御感想はBBS MAILへお願いします
もしくはTOP頂き物の部屋


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送