空の境界―蒼崎橙子の欲望―
廃墟“伽藍の堂”、面倒くさいので廃墟と形容すると言うか建築途中の建物なのだから形容は廃墟で十分、どこかの魔術師が少し怒り気味に否定してくれそうだけど、そこの所はおいておこう、今回主役なのだから大目に見て貰ってもいいだろうし。
今回の主役、橙子さんがいい感じの、他者の視点では不吉な感じの笑みを湛えて一人自分の所長用のデスクに座ってなにやらノートパソコンで作業中、事務仕事は黒桐君に押し付けるので珍しいことです、パソコン得意そうにも見えないし。
いい感じの笑みとかそのへんは、読者様皆様で適当にお考えください、タイトルと合わせれば想像しやすいと思います。
満面の笑みともいえます、勿論表記の通り他人に嫌な予感を誘うような種類の。
因みに現在橙子さん眼鏡を掛けていません、つまり性格と口調は“暴君モード(命名黒桐幹也)”。
時折、そのいい感じの笑みを更に崩れた感じと言うか蕩けた感じに微笑むのが普段のこの方を知っている方には怖いことでしょう、クールビューティーで通っているんですから(多分、ネェ黒桐君、唯一の従業員に話しかけてみたり、同意も否定もされなかったけど)。
どうやら、現在普段見せもしない表情を出している要因にパソコンの操作が入っているようなのだが、何をやっているのかはわからない。
そこに、暇つぶしにでも来たのか、それとも黒桐幹也を求めて来たのか多分後者が有力な選択肢だろうけど、空の境界のヒロイン両儀式(ヒロインっぽいのは浅上藤乃あたりだと思うんですけどね、式はかなり男前な性格だし)。
着流しに皮のジャンパーという何とも言い難い格好なのだが似合っているのでいいだろう、それに格好いいし。
因みに式の行動範囲は学校、自宅、実家、“伽藍の堂”、黒桐のアパートと狭い、自炊はするようですから買い物にも出かけるのと後は趣味の夜の散歩ですかね、肉体年齢十六歳、戸籍年齢十九歳とは思えない行動範囲です。
「トウコ、幹也はどこだ?」
どうやら黒桐君を探しているようです、それ以外にここに来る目的も皆目見当もつきませんが、たまに暇つぶしに来るのも黒桐君がいるからです。
橙子さん式が来たことに気付かず作業中、よほど熱心に作業しているようです。
今は蕩けてはいませんが橙子さんやはりいい感じに笑っています、普段の皮肉気な微笑や苦笑しか見ない式としては珍しいものを見たと言う心境でしょうか。
だけどもう一度声を掛けてみるようです、作業内容に興味は無いようです、確かに誰かが作業している内容なんてどうでもいいことです。
「おい、トウコ、聞こえているのか、幹也はいないのか?」
やはり目的は黒桐君ですか、羨ましい限りです、熱愛中の恋人同士というのは。
どこぞの黒桐という苗字を持つ某お嬢様学園の生徒兼魔術師見習いの少女は断固として認めないでしょうが。
確か鮮花とかいいましたかねそのお嬢さん、でも近親相姦はいけません。
だが、やはり返事が無いようです、完全に自分の作業に集中しきっているようです。
呼びかけているのに無視されているのが気に触ったのか、式、橙子さんに近寄り途中にあった缶(缶コーヒー中身あり)を軽く、投擲、一応放物線は描いていますから当たっても死にはしにはしないでしょう、直線軌道ではないのですから。
見事的中。
ガコン、といい感じの音を立てて命中してくださりました、さすが運動神経と言うか戦闘センスの塊の両儀式さんです、外すほうが考えづらい。
中身入りが頭部にヒット、それなりに痛いでしょう軽くとはいえ(式の全力投球では死にかねませんが)。
橙子さん痛そうに声も出せない感じで頭を抑えています、そりゃ痛いでしょうね、暫くして痛みが引いてきたのかこれ以上ないくらい不機嫌そうな表情で口を開きます。
「何をする、式、死にたいのか」
目が怖いです、気の弱い人なら意識ぐらいは手放せるでしょう。
「無視するな、二度は呼びかけたぞ」
物騒な会話です、呼びかけも物騒ですが、因みに目線は軽く受け流してます、流石です。
「だからといってお前は缶を人に投げつけるのか」
怒りを堪えているようです、よっぽど痛かったんでしょうね。
「トウコが珍しい表情をしていたんで、近寄りたくなかった」
理由になっていませんね、それで缶を投げつけられたらたまったものじゃありません、当たり所が悪かったら。
橙子さんが何か文句を続けようとする前。
「大体、トウコ一体何をやっていたんだ、そのパソコン買ったばかりだろう、幹也がそんなものより給料を払えといっていたぞ」
式に作業内容が何かを聞かれた橙子さん文句を言いそうな表情を引っ込め。
一瞬モニターを睨み、慌ててなにやら操作をしてノートパソコンを閉じてしまいます。
一体、何をしていたんでしょうか。
作業が終了したのか顔を挙げ。
「で、何のようだ式、黒桐なら使いに出したから暫く戻らんぞ」
因みに橙子さん式の質問に何一つ答えていません、黒桐君の給料使い込んで何かを買うのはいつものことなのでたいした事ではないんですが。
この後、缶をぶつけられたことをネチネチ橙子さんは式の文句を言うのであったが、式はその文句を聞き流しながら、黒桐君を待ち。
頭の中で考えていました、あの時モニターに写っていたのはなんだったんだろう、と。
気になると好奇心と言うものは厄介です、彼の他者に関心の薄い両儀式とて無感情無感動ではなく知的好奇心などは人並み以下ですが持ち合わせています。
気になったらなんとか知りたいと思うのが人間です。
人情なんです。
人間は好奇心が強い動物なんです。
特に人の秘密や、隠し事なんかはとくにです。
両儀式も例外ではなかったと言うわけです。
で、数時間後黒桐幹也のアパート。
安くて狭いアパートです、給料安い割りに支払いが不定期なのでいいところに住めないんですね、なんであそこで働いているんですか黒桐君、恋人も心配しています、君の懐具合。
あの後、暫くして黒桐君がお使いから帰ってきて、定時まで仕事をしたら待っていた式と同伴でお帰りです。
本人達は自覚しているのか本当に仲のいいカップルです、最近珍しいですねこんな初々しいカップル、忌々しいことです(本音)。
何故か帰り際の橙子さんの視線が怖かったのですが二人は気付いていませんでした。
婚期を逃した妬みでしょうか、いけませんよ嫉妬は。
嫉妬の最終進化でデビルキシャーになってしまいます。
その古ぼけたアパートで、式の料理した夕食を食べている黒桐君、本当に幸せそうですねぇ。
月の無い夜に気をつけて、そこまで幸せだと<|%X|>誰かに刺されますよ<>(特に恋の適わなかった妹さんとか)。
食べ終わって、幸せそうな空間を形成している二人ですが。
いまは黒桐君が食べた食器を洗い終わり二人でハーゲンダッツアイスクリームのストロベリーをデザートで食べています。
微笑まし過ぎます、血を吐きそうです。
もし、今現在恋人に振られた人間が目撃したらデザートイーグル片手に乱射して突撃かけられても文句言えませんよ、きっと。
警察の人も犯人の言い分わかってくれます。
で、幸せ恋人空間が待ったりとしてきたころ最近、人の温かみと言うか、可愛らしくなった両儀式さんが口を開きます。
「トウコが昼間、変な顔でノートパソコンで作業していたんだが、何をしているか知っているか」
どうやら時間がたっても好奇心は燻っていたようです。
まぁ、簡単に消えるものでもないんですけどね。
好奇心って物は、作者はその存在だけで生きていますよ(威張れることではない)。
例を出すと浪人時代好奇心で化学を始めてそのとき偏差値38で(高校時代授業はあったけど50点以上とった試し無し)、本試験前には偏差値80でしたよ。
好奇心の刺激されなかった英語は一年間ずっと48という平均値をキープしてくれましたけど(英語の成績低けりゃなんにもなりません)。
つまり好奇心だけで人間結構凄いことが出来るもんです、だから一度火がついた好奇心の鎮火はとっても難しいんです。
断言。
さて話は戻ります、戻さないと話が進みませんし。
式の疑問を聞いた黒桐君。
「そういえば何してるんだろあのパソコン、僕には触らせないんだよね」
どうやら何も知らないようです、しかも触らせないと言うことです。
因みに事務所にはデスクトップパソコンがもう一台あるので業務に支障はありません、つまりは橙子自分専用に従業員の給料を危険に晒して購入した模様です。
我が侭ですね。
暴君ですね。
今に始まったことではないですが。
これで更に式の好奇心が火を灯しました。
部下にも秘密にしている、あの様子で私にも見せようとしない内容。
「気になる」
口に出るほど好奇心が燃え上がっているようです。
もう止められないでしょうね。
「え」
黒桐君がいきなりの恋人の口走ったことに興味と言うか意表を突かれたように恋人の顔を覗き込みます。
「気にならないか、幹也。 あのトウコが誰にも見せようとしないもの、私は気になるぞ」
因みに、これから黒桐君は人のものを勝手にとか、後が怖いとか、常識的なことや、自分の未来を考えた発言をしたのですか。
いとしの恋人の珍しい我が侭に押し切られてある行動をとることになりました。
因みに、彼本人が好奇心に目覚めたと言うのもありますが。
そこに普段こき使ってくれている恨みとか、誰のせいで貧乏暮らしをしているとか、もう少し給料上げてくれてもいいんじゃないのかとか、そもそも僕の給料国の最低賃金割ってるんじゃないんだろうかとか、恨みが原因で動いてなんていませんよ
本当ですよ。
本当ですってば。
で、深夜の“伽藍の堂”
昼間でも廃墟っぽいのに深夜となったら幽霊スポットにならないのが不思議なくらいの雰囲気ありますね、こんなとこに寝泊りしている人の神経を疑います。
どこかの“赤”の称号の魔術師さんがかなり本気で怒っているっぽいんですけど、扱いが悪いのも原因ですか主役にしたんだし大目に見てくださいよ。
え、いい目を見ていない、これから見るんです、うそは付きませんよ多分、まぁ多分ですけど。
恋人コンビ、でも男性のほうは黒尽くめ女性のほうは和服に皮ジャンですか、警察官が見たらとりあえず交番送りですね、きっと。
因みにこの事務所、魔術師の館だけあって入ったら感知されるんですよね、当の魔術師に。
勿論、この二人そんなことは知っています。
なので、式さんナイフを取り出して軽く一薙ぎ。
その後は何の気なしに入っていきます。
解説すると直死の魔眼です、結界の”死の線“を見て部分的に殺したんですね、異常は魔術師には感知されないようです。
でも直死の魔眼ってなんでもありですね、今更ですけど。
で、後は気にせず侵入です。
因みに式は持ち前の体術で気配無く不法侵入を果たし、黒桐君もそれに続いています。
でも黒桐君なんで式さんより気配無いんですか。
嗚呼、得意の探偵行為のお陰で<|%X|>ストーキング技術も身についてしまった<>んですね、やっぱり貴方探偵に転職することをお勧めします。
貴方に掛かれば調べられないもののほうが稀有でしょう、きっと。
で、四階の仕事場です、同じ階に橙子さんの私室もあるんですけどね。
どうやら気づかれてないようです。
二人揃って橙子さんのデスクに直行、足音一つ立てません、やっぱり本気で何者ですか貴方達は。
で、あっさりノートパソコン発見。
面白みがありませんね。
まぁ、そんなことはいいでしょう、問題は中身です。
黒桐君が起動させてファイルを調べます、どうやら橙子さんそれほどその手の技術を持っていないのかパスワードや隠しファイルの類はなさそうです。
黒桐君があっさりファイルを開いていこうとしますが。
先ず一つ目。
黒桐君の寝顔のデジタル映像でした。
二つ目。
働く黒桐君の横顔でした。
三つ目。
何故か自宅で半裸の黒桐君でした。
四つ目。
シャワーを浴びている黒桐君でした。
そのX目
式とイケナイコトしている黒桐君でした、なにやら式の首の辺りに線が入れられたり、呪いの文句が見受けられます(見た目かなり本格的です、本領を使おうとしたんでしょうか)、何考えてるんでしょう橙子さん。
因みにこの映像、全部黒桐君の目線から見て盗撮です。
当たり前です、半裸や入浴シーンや式との最中なんて画像取れるわけがありません。
それを全部見て式が怒りのまま橙子さんの部屋に突撃しようとしたしたところです。
因みに黒桐君はあまりの恐ろしさに腰を抜かしています、もしかしたらあきれ果てているだけかもしれませんが。
でも、式の怒りの突撃、途中で止められました、何か猫っぽい陰が式に襲い掛かり押さえ込んでいます。
その後ろにはとっても怖い顔をした橙子さんが居ました。
黒桐君に後で聞きましたが、あの時魔王にあった気がしたそうですご愁傷様です。
でも言うでしょ、好奇心猫を殺すって。
因みに、自分の趣味“黒桐君の盗撮”がバレタ橙子さん、開き直ったのか黒桐君への思いをぶちまけ。
関係を迫ったそうです、拘束している式の目の前で。
それで怒り狂った式、なんと得物なしで拘束を脱出、本能で今の橙子は危険と判断し黒桐君を連れて逃げ出したようです。
だって、黒桐君を誘惑している橙子さんの目は本気でした。
どうやら式、怒りよりも女の独占欲が優先したようです。
因みに後日、黒桐君、橙子さんに言葉巧みに騙され性的な関係に陥りそこから式、黒桐、橙子の三角関係が勃発したそうです。
宣戦布告は式の目の前で縛り上げた黒桐君へのディープキスでした。
後書き。
短編集再掲載第二弾、空の境界です。
空の境界自体がお気に入りの中でも上位に入る作品なんですが、管理人は式と橙子さんのかなりのファンです。
この二人の間近にいる某貧乏素人探偵を憎悪してしまうくらいには大好きです。
まぁ、彼は彼で苦労を背負い込んでいるのでしょうが。
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