魔・武・仙の物語【第七章】
「はぁ? 桜咲さんが?」 「う、うん・・・」 かの有名な清水寺に来ている3−Aを見ながら、ネギは新幹線内での事を話した。カエル騒ぎに乗じて、燕の式神に親書を奪われた。だが、それをクラスの桜咲 刹那が退治して親書を取り戻してくれたのだ。 【話を聞けば助けてくれたのかもしれねぇが、ひょっとしたら親書を奪うつもりだったのかもしれねぇぜ】 「ふむ・・・」 そう言われてリュークはクラスの連中とは離れて歩く刹那を見る。彼女が常に持っているのは刀だろう。騒がしい3−Aでも物静かな方で、余りクラスに溶け込んでないようだ。 【新幹線で戦った男と同じく関西呪術協会の回し者でしょうか?】 「さぁな・・・証拠がないから何とも言えないが・・・」 「リュー君!! エルちゃんとばっかり遊んでないで一緒に遊ぼ〜!」 「うわ!?」 いきなりまき絵に後ろから抱きつかれ、リュークは慌てた。 「ほら! ネギ君と一緒に清水の舞台から飛び降りて!」 「「無茶言うな(言わないで下さい)!」」 物騒なこと言われてリュークとネギは同時に声を上げた。 「では拙者が・・・」 「わ〜! 長瀬さん、駄目ですってば!!」 手摺りに足をつける楓にネギが掴んで引き止めた。 「そうそう。此処から先に進むと恋占いで女性に大人気の地主神社があるです」 神社仏閣マニアの夕映が何気なく言うと、あやか、のどか、まき絵の三人がピクリと反応した。 「ではネギ先生。一緒にその恋占いなど・・・」 「は? はぁ?」 いまいち分かってないネギは流されるままに相槌を打ち、リュークは首を傾げて尋ねた。 「鯉占いって・・・魚占うのが女性に大人気なのか?」 本気でそう思ってるリュークに何名かは唖然となり、まき絵と桜子がギューッと抱きついてきた。 「リュー君って純情〜!」 「え? え?」 「恋って魚じゃなくてL.O.V.E! ラヴなのだ〜!」 「ら、らぶ?」 そう言われてリュークは顔を真っ赤にした。 「ぼ、僕そういうのは・・・・」 「ダ〜メ!! ほら、行くよ!!」 あやかに連れて行かれるネギに続き、リュークもまき絵と桜子に引き摺られて行った。
「こっち側の石から目を瞑って向こう側の石に辿り着けば恋が成就するそうです」 「で、では早速クラス委員長の私から・・・」 クラス委員長も何も関係ないのだが、あやかは目を瞑って歩き出した。 「あ! ずるい! 私も行く〜!」 「わ、私も・・・」 それに続いてまき絵、のどかも目を瞑って歩き出した。まき絵はあやかに続いて石に向かっているが、のどかは全くお門違いの方向に向かっている。 「(ふふっ! まき絵さん達には悪いですが、この程度の試練・・・武芸百般、様々な段位を取得した私には造作もありませんわ・・・・雪広あやか流 恋の心眼術!)」 キュピーンとあやかの目が光ると、一直線に石に向かって駆け出した。 「ターゲット確認! 行きますわよ!」 「お〜! 何か、いいんちょ凄いぞ〜!」 その声援にまき絵は薄っすらと目を開けて、あやかの後を追って走る。 「ずるーい!! いんちょ、目開けてるでしょ!?」 「ホホホ!! まさか! これで私と某N先生との恋は見事成就ですわ!」 正に石が目前に迫って来た二人だったが、突然、ズボッと体が沈んだ。 「きゃあ!?」 何故か石の前に落とし穴が掘ってあり、二人は見事に落っこちた。 ゲコゲコ。 「きゃああああ!!」 「ま、またカエル!?」 しかも落とし穴にはカエルが大量に生息していた。 「だ、大丈夫ですか、まき絵さん!? いいんちょさん!?」 ネギとリュークは二人を引っ張り上げると、落とし穴のカエルを見る。 「リュー君、これって・・・」 「多分な・・・」 関西呪術協会の仕業だろうと確信し、リュークはチラッと背後を見る。そこでは刹那がジッと自分達の方を見ていた。 「リュー君、刹那さんが・・・」 ネギも彼女の視線に気付き小声で話しかけてくると、リュークはフッと笑みを浮かべた。
音羽の滝・・・「健康・学業・縁結びのご利益」があると言われてるが、それは観光用の宣伝文句で、実際は、「仏・法・僧への帰依」とか「行動・言葉・心の三業の清浄」を表している。 まぁ今の若い子がそんなの知ってるなんて、それこそほんの一部だろう。ぶっちゃけ観光用の宣伝文句の方が有名なのだし。 「ゆえゆえ〜! どれが何だっけ〜!?」 混雑している音羽の滝に3−Aが並んでやって来る。夕映は水筒を開けて「右から健康・学業・縁結び」と説明する。 「左、左〜!」 すると皆、一斉に左の縁結びに群がる。 「お、お待ちなさい、皆さん! 順番を・・・」 などと言ってるあやかも、しっかりと長杓を伸ばしている。 「むっ・・・」 「う、うまい! もう一杯!!」 飲んだ連中は僅かに頬を赤らめて沢山、飲む。 「ちょ、ちょっとリューク・・・」 流石に不審に思った明日菜がリュークに言うと、彼はぺロッと左の水を指につけて舐めてみた。 「これ・・・酒だぞ」 『ええええええええ!!?』 飲まなかった連中は驚き、飲んだ連中は酔っ払って寝そべっている。リュークは屋根の上に登ると、何故か水ではなく酒樽が置いてあったので表情を引き攣らせた。 【何て言うか・・・・相手は親書を奪う気があるのでしょうか?】 「・・・・さぁ」 ちょっと自信がなくなって来たリュークであった。
【やっぱり、あの桜咲って奴の仕業に違いねぇって!】 「う〜ん・・・」 「・・・・・・」 酔った生徒達を宿泊先のホテル嵐山に連れて来たリューク達は、ロビーで話し合っていた。あくまでも刹那が犯人だと言い張るカモにネギは首を捻り、リュークは何も答えない。 「確かにちょっと怪しいと思うけど・・・でも・・・」 「・・・・・・・・・・・」 自分の生徒を疑いたくないネギは、何とか弁解しようとしている。一方のリュークは目を閉じて何か考えているようだった。 「ちょっと、ネギ! リューク!」 そこへ明日菜がやって来て話が中断された。 「とりあえず酔ってる皆は部屋で休んでるって言って誤魔化せたけど・・・一体、何があったっていうのよ?」 「じ、実は、そのー・・・」 【言っちまえよ! 兄貴!】 カモに言われ、ネギは明日菜に事情を説明した。 「え〜!? 私達3−Aが変な関西の魔法団体に追われてる〜!?」 「はい。関西呪術協会っていう・・・」 「道理で・・・あんなカエルだの変だと思ったのよ。また魔法の厄介事か〜」 「す、すいませんアスナさん」 申し訳なさそうに謝るネギに明日菜は微笑んだ。 「ふふっ・・・どうせまた助けて欲しいって言うんでしょ? 良いよ。ちょっとだけなら力貸したげるから」 「ア、アスナさん・・・」 【ネギ様は良きパートナーと仮契約されてるのですね・・・】 「だな・・・」 ジ〜ンと感動するネギを見てエルとリュークは頷く。 【そうだ、姐さん! クラスの桜咲 刹那って奴が敵のスパイらしいんだよ! 何か知らねーか?】 「え〜!? スパイって桜咲さんが?」 カモの言葉に驚く明日菜は「う〜ん」と考える。 「そ、そうね・・・このかの昔の幼馴染って聞いたことあるけど・・・ん〜・・・そう言えば、あの二人が喋ってるとこ見たことないな・・・」 【む! 待てよ姐さん。このか姉さんと幼馴染ってことは・・・!?】 「あ! そういえば・・・待って・・・!」 そう言ってネギは鞄から生徒名簿を開いて見せた。 「あ〜! み、見て見て! 名簿に京都って書いてあったよ〜!」 桜咲 刹那の欄には『京都・神鳴流』と書かれていた。リュークはそれを見て眉を顰める。 「(神鳴流・・・あの鬼道坂 京とかいう奴も神鳴流の使い手だったが・・・奴らは関西呪術協会というより、京都の退魔師だった筈・・・雇われのフリーターとか言ってたが・・・)」 果たして、それも信用できるかどうか。 【やっぱり、奴は間違いなく関西呪術協会の刺客だ!!】 カモは京都出身という事で刹那が敵だと断言した。 【お待ちなさい、アホガモ。京都出身だけで敵の刺客だと決め付けるのは愚の骨頂です。あらゆる観点から調べてみなくては分かりませんわ】 【じゃあ違うってのか?】 【そうは言ってません。ですが、まだ彼女は表立った行動をしていません。確証が無いまま動くのは危険だと言ってるのです】 【やれやれ・・・由緒正しきネコ妖精ってのは臆病なんだな】 【(ぴきっ!)ふ・・・近頃のオコジョ妖精は随分と短絡的思考なのですね。これではオコジョ妖精に将来などありませんわ】 【んだとぉ!?】 【何ですの!?】 またいがみ合いを始めるエルとカモにそれぞれの主は溜め息を吐いた。 「気になるのは二点」 「「【【え?】】」」 リュークがポツリと呟くとネギ達は彼に注目した。 「もし桜咲さんがスパイであるなら、何で修学旅行中に親書を奪う必要がある? 団体行動している時に奪わなくても、ネギが一人の時、幾らでも奪うチャンスはあった筈だ。 【そう言われりゃそうだな〜・・・】 リュークの説明を聞いてネギ達は『う〜ん』と考え込む。 「ネギ先生〜、リューク先生〜。教員は早めにお風呂済ませて下さいな」 と、そこへ風呂上りのしずながやって来た。 「あ、は、はい、しずな先生」 「しょうがない・・・」 「ウチの班もすぐお風呂だし、続きは夜の自由時間に聞くよ、OK?」 そう言って明日菜は部屋に戻り、リュークとネギは、エルとカモを伴って風呂に向かった。
「良いねぇ〜。これが露天風呂か〜」 リュークとネギはゆったりと湯に浸かり、堪能していた。風呂嫌いのネギも温泉なら良いようだ。リュークは何故か湯にお盆を浮かべ、徳利とお猪口を載せている。 「ねぇリュー君。それってお酒?」 「アホか。麦茶だ」 風流だけでも味わおうとしているリュークにカモは表情を引き攣らせた。 【何で兄貴も旦那も揃いも揃ってジジィ趣味なんだ?】 【失敬な。リューク様は大人の嗜みを心得ておられるのです。ネギ様にしても日本文化を心より愛でていらっしゃるのですよ? それが分からないとは・・・使い魔として失格ですわね】 【けっ! 相変わらず難しい言葉並べやがって!】 【あなたに学が無いだけの事です】 フン! と互いにソッポを向くエルとカモ。もうリュークもネギも苦笑いを浮かべるしかない。 「けど風が流れてて気持ち良いね〜」 【そうだな。これで桜咲 刹那の件さえなければな〜。あいつ、いつも木刀みないなの持ってるし、魔法使いの兄貴じゃ呪文唱える前に負けちまうよ】 おまけに式神使いというカモの言葉にネギはガクッと肩を落とす。 「う〜ん・・・魔法使いに剣士は天敵だよ〜。けど、リュー君は新幹線で剣士と戦ったんでしょ?」 「まぁな・・・これでも修行時代、東洋に渡って剣術を学んだ事もある」 「凄いな〜」 心底、感心するネギ。リュークとの付き合いは四年ぐらいになるが、同い年とは思えないぐらいリュークは凄い。ネギにしても他の同年代から見れば凄いのだが・・・。 「それでも接近戦だとやはりシオンに変わるのがベストなのだがな」 「あ〜・・・そだね」 天下無敵の格闘娘であるシオンなら、魔法を使う前に徹底的に相手を潰す。 ガラガラ。 その時、誰かが入って来たようでネギとリュークは顔を上げた。 「ん? 誰か来たよ?」 「新田先生か瀬流彦先生じゃないのか?」 ネギは岩からヒョイッと覗くと、大きく目を見開いた。 「せ、刹那さん!?」 「何!?」 小声で驚くネギにリュークも驚いて見ると、刹那が桶に湯を汲んで体を洗っていた。どうやら混浴のようで、入り口は違うようだが中は一緒のようだ。 カッ! その時、リュークの体が激しく光った。 「! 誰だ!?」 それに気付いた刹那は、小石を弾いてライトを壊すと愛刀の夕凪を持ってこちらにやって来た。 「奥義! 斬岩け・・・」 ピタァッ! 「何!?」 攻撃を仕掛けようとした刹那だったが、刀が止められて目を見開く。そこには十歳ぐらいの女の子が指で摘んで受け止め、フッと扇子で口を隠して笑った。 ググッ! 更に華奢な腕で自分ごと持ち上げた。刹那は驚きを隠せず目を見開き、湯の中に落とされた。 「シ、シオンさん?」 「久し振りじゃのう、ネギ。この前は会えなんだが・・・・しかし血気盛んな生徒じゃのう」 シオンは『諸行無常』と書かれた扇子をパタパタと振る。湯から顔を出した刹那は慌てているネギとシオンを確認して目を丸くした。 「ネ、ネギ先生と・・・・誰?」 【やい、てめぇ! 桜咲 刹那! やっぱりテメェ、関西呪術協会のスパイだったんだな!!】 唐突にネギの頭のカモがビシッと刹那を指して言うと、彼女は慌てた。 「なっ! ち、違う、誤解だ! 違うんです、先生!」 【何が違うもんか! ネタは上がってんだ、とっとと白状しろい!!】 「落ち着け、アホガモ」 ガシッといつの間にか体にタオルを巻いてるシオンがカモを押さえつけると、素っ裸の刹那にタオルを渡して言った。 「こやつが関西呪術協会の刺客であるなら、わざわざ団体行動をする修学旅行中ではなく、学園で奪っとる筈じゃ。 そう言うとシオンは扇子を口許に当てて刹那を横目で見る。 「さて、お主は何者じゃ?」 刹那は溜め息を吐くと、パチンと夕凪を鞘に収めた。 「私は敵じゃありません。15番、桜咲 刹那。一応、先生達の味方です」 「へ? あのそれって・・・」 「私はこのかお嬢様の・・・」 「ひゃああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」 刹那が説明しようとすると、脱衣所から変な悲鳴が轟いた。 「こ、この悲鳴は・・・」 「このかお嬢様!!」 ネギと刹那は慌てて脱衣所へ駆け出した。シオンはパタンと扇子を閉じると、茂みを横目で見て脱衣所に向かった。
「このかお嬢様!!」 「大丈夫ですか、このかさん!?」 「・・・・・・・・」 木乃香の悲鳴を聞きつけてシオン、ネギ、刹那が脱衣所に駆け込む。 「いや〜ん!」 「ちょっ! ネギ! 何かお猿が下着を〜!」 脱衣所では明日菜と木乃香が猿の集団に絡まれ、下着を脱がされていた。思わずネギはずっこけ、シオンは唖然としている。 「や〜ん!!」 やがて猿はブラとパンツまで取って木乃香は素っ裸になる。 「あ! せっちゃん、ネギ君!? あ〜ん、見んといて〜!」 木乃香は言うとネギは慌てて目を隠す。一方の刹那はワナワナと震えて、夕凪を抜き放った。 「こ、この小猿ども・・・!! このかお嬢様に何をするか〜!?」 「きゃっ! 桜咲さん、何やってんの!? その剣、本物!?」 明日菜が胸を手で隠しながら驚くと、ネギが刹那を止めた。 「駄目ですよ、おサル切っちゃ可哀想ですよ〜!」 「あっ! 何するんですか、先生!? こいつらは低級な式神! 斬っても紙に戻るだけで・・・わっ!?」 すると猿が刹那のタオルを脱ぎ取り、ネギと一緒に転んでしまった。 「あたた・・・」 「うひゃ!?」 刹那は頭を押さえるが、ネギの目の前で思いっ切り大股開きになっていた。刹那は顔を真っ赤にし、慌てて胸を隠して股を閉じた。 「あ・・・! な、なななな!? わ、私は味方と言ったでしょう! 邪魔をしないでください!!」 「え? べ、別にそんな・・・」 ネギが必死に弁明するが、明日菜が声を上げた。 「ま、待って二人とも! このかがおサルに攫われるよ〜!?」 そう言われて二人は顔を上げると、サルどもが木乃香を連れ去ろうとしていた。 「このかお嬢様!!」 刹那は夕凪を持って飛び出し、剣を振るった。 「神鳴流奥義・・・百烈桜華斬!!」 凄まじい高速の斬撃がサルを切り裂き、紙に戻した。木乃香は刹那の腕の中で呆然としている。 「このか〜!」 「このかさん、大丈夫ですか!?」 そこへネギと明日菜が駆け寄って来ると、ガサッと近くの木が揺れた。 「ん?」 「ワシが追おう」 すると、いつの間にやら浴衣を着ているシオンがエルを肩に載せて木から飛び出した影を追いかけた。 「あ、あれ? シオンちゃん?」 「大丈夫です、アスナさん! シオンさんがやられる筈ありません!」 それよりも木乃香だと言い、ネギと明日菜は刹那達の元へと向かった。 |
管理人の感想は第八章で。
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