魔・武・仙の物語【第五章】



「う〜・・・う〜・・・」

「やれやれ・・・熱出して動けないとは情けない」

 リュークは風邪で寝込んでいるネギを見て、ヤレヤレと首を振った。明日菜や木乃香も苦笑している。

「修学旅行までには治しとけよ。僕らは学校行くからな」

「う〜・・・」

 顔を赤くして唸るネギをエルとカモに任せ、リューク達は部屋から出て行った。

 

「えっと・・・英語は・・・と」

 ネギの代わりに英語の授業をしようとリュークは英語の教科書のチェックをしていた。イギリス人だけあって、英語の発音はそこらの英語教師よりも上手い。

 っていうか、ネギと言いリュークと言い、日本語が余りにもペラペラ過ぎである。

「あ、リューク先生〜」

「ん? 源先生」

 と、そこへしずなに呼ばれて振り返った。

「学園長先生が呼んでますよ?」

「・・・・・ジジィが?」

 あからさまに嫌そうな顔をするリュークにしずなも苦笑する。

「まぁまぁ。何か重要な話があるとか・・・」

 そうは言うが、修学旅行で西の長に渡す親書は既に受け取った。これ以上、重要・・・っていうか、面倒な話はゴメンだった。

 だが、行かない訳にもいかないので、リュークは溜め息を吐いて学園長室に向かった。

 

「ゴメンなさい」

 学園長室に入ると真っ先に目に入ったのは土下座する近右衛門だった。リュークは何が何だか分からず首を傾げる。

「どうしたんだ?」

「フォ、フォッフォッフォ・・・・実はの〜・・・」

 近右衛門は申し訳無さそうに表情を引き攣らせながら何やら真っ二つに割れたツボを取り出した。随分と年季の入ったツボだ。

「何だ、ソレ?」

「こ、これはのぉ〜・・・何て言うか・・・そのぉ〜・・・・き、強力な鬼を封印しておったツボだったりして・・・」

 ピクッとリュークがその言葉に反応した。

 鬼・・・古来より人々の恐怖の象徴として存在して来た日本版悪魔。時には人間によって使役される事もあるが、大半は人に災いを振り起こすものである。

「ほう? その鬼の名前は?」

「た、確か酒天童子じゃったかな・・・」

「ほ〜う・・・酒天童子ね〜・・・」

 ヒクヒクと表情を引き攣らせるリューク。

「確か最強クラスの鬼神だった記憶があるが?」

「ず、随分と日本の事に詳しいの〜」

「学園長先生・・・」

「はい・・・」

「歯ぁ食い縛れ」

 そう言ってマテリアルソードを取り出すリューク。近右衛門は「ひぃ!」と声を上げて後ずさった。

「わ、わざとじゃないぞ!! ただ蔵を整理してたら、たまたま・・・」

「五月蝿い!!」

 ずどごぉっ!

 その後、学園長は全治三日の傷を負ってしまった。

 

 その日の夜、リュークは学園内のパトロールをしていた。

「ったく・・・ジジィの奴め・・・」

【まぁ、そんなに愚痴るなよ、旦那】

【学園長殿もリューク様を信頼なさっての事です】

「もっとリラックスしなさいよ」

 リュークは何故か付いて来ている、明日菜、カモ、エルの一人と二匹に頭痛がした。ネギの看病は木乃香に任せ、明日菜達はリュークに付いて来た。

「何で付いて来るんだ?」

【リューク様の使い魔ですから】

「私、ちょっと興味あって・・・」

【俺っちも】

 エルはともかくとして、明日菜とカモの理由にリュークは溜め息を吐く。まぁ相手は最強クラスの鬼神でも、ファウストほど厄介な相手ではない。上手く行けば説得する事も可能な相手でもある。

「けど、シュテンドウジってどんな奴なの?」

「酒天童子は鬼の一種だ。まぁ日本にいる鬼の中では、間違いなく最強クラスだな」

「ふぇ〜・・・そんなのに勝てるの?」

「さぁ」

 肩を竦めるリュークに明日菜は表情を引き攣らせた。

≪酒は飲めども飲まれるな〜♪ ってか≫

 その時、何処からか歌声が聞こえた。それは幼い男の子の声で、月をバックにしてこちらに向かって来た。

 赤い顔に二本の角。手には酒瓶を持っていて、フラつきながら歩いている。

≪うぃ〜! ヒック! 久し振りのシャバの酒は良いねぇ〜≫

 間違いなく鬼――酒天童子だった。リュークは溜め息を吐くと、マテリアルソードを取り出し、光の刃を作り出す。

「酒天童子か。とっととツボに戻って貰おうか?」

≪あ〜ん? 何だ、西洋魔術師の坊ちゃんか。おいおい、そりゃねぇべ。俺様、久し振りに外の世界に出れて嬉しいんだからよ〜≫

 ヒックと喉を鳴らす酒天童子。リュークは舌打ちすると、無言で突っ込んで行き、マテリアルソードを振りかざした。

≪あ〜ん?≫

 だが、酒天童子は大きな包丁で受け止めた。

「嘘!?」

【【!?】】

 それに明日菜が驚きの声を上げ、カモとエルも目を見開く。そのまま酒天童子は酒を煽ると、炎を吐き出した。リュークは炎に包まれる寸前で飛び退き、難を逃れる。

「ちっ・・・流石は鬼神か・・・」

≪無理だっつ〜の。人間が俺様に敵う訳ないでしょ〜よ≫

 僅かに焦げた髪を触り、リュークはフッと笑みを浮かべる。

「火の精霊よ 我が命に従いて紅蓮の・・・」

≪させないよ〜♪≫

「!?」

 ドガァッ!!

≪西洋魔術師は接近戦に弱いからね〜≫

 精霊魔法を唱えようとしたリュークに酒天童子が突っ込んで来て包丁を振り下ろした。詠唱を途中で邪魔され、リュークはマテリアルソードを振るうが、ソレも受け止められる。

 ガガガガガガガガ!!!!

 リュークと酒天童子はマテリアルソードと包丁で攻撃を繰り出し、その戦いを離れて見ていたカモがポツリと呟く。

【う〜ん・・・旦那・・・ってか西洋魔術師にゃ相性悪いな】

【リューク様とて武術の心得はあるのですが・・・】

「ひょっとして・・・ヤバイ?」

 明日菜が呟くと、エルとカモは揃って頷いた。

「ちぃっ! このままじゃラチがあかない・・・」

≪ほれ! ほれ! ほれ!≫

 酒天童子の繰り出す包丁の攻撃に、リュークの服が切り裂かれてボロボロになる。リュークはピタッと止まり、マテリアルソードの刃を消すと、顔を俯かせた。

【え?】

【あ・・・】

 その様子を見て、エルとカモは顔を青くする。明日菜は急に立ち止まるリュークに首を傾げる。

≪あん?≫

 するとリュークが顔を上げると、青い筈だった彼の瞳は真っ赤に輝いていた。

 カッ!!

≪!? な、何だぁ!?≫

 その時、突如、リュークの体が光り始めた。

【マ、マズイですわ・・・】

【ど、どっちが出てくんだ?】

「??」

 冷や汗をダラダラと流して震えるエルとカモに明日菜はリュークの様子に驚きながらも首を傾げた。

 やがて光は次第に人の形を作り成して行く。すると光が弾け、十歳ぐらいの少女が現れた。紫色のポニーテールに、真っ赤な瞳を持ち、水色の着物を着た少女だった。

「え!?」

 明日菜は急にリュークが女の子になり、口をポカ〜ンと開いて固まる。

≪何だ何だ? 手品か? まぁ良いさ。コレで終わりだ!≫

 酒天童子は大して驚いた様子も無く、少女に向かって思いっ切り包丁を振り下ろした。

 ガッ!!

≪!?≫

 だが、その包丁は少女が軽々と片手で受け止めると、バキッと思いっ切り圧し折った。

「えええええぇぇぇぇぇ!?」

 その握力に明日菜は驚いて声を荒げた。

「ふむ・・・」

 少女は包丁を圧し折った手を開いたり閉じたりして、グッと拳を握ると笑みを浮かべた。

「先程、言っておったのぅ、おヌシ? 久し振りに外の世界に出れて嬉しいと・・・・ワシもじゃ」

 その少女は何処か年寄り染みた言葉遣いで言うと、トンと酒天童子の胸を叩いた。

 ズンッ!!

≪ぐほぉっ!≫

 すると酒天童子は思いっ切り地面を削りながら吹き飛んで行った。少女はニヤリと笑うと、袖口から扇子を出して広げた。扇子には『天晴れ』と達筆な字で書かれていた。

「な、何アレ? リュークは女の子になるし、何か滅茶苦茶強いし・・・」

 明日菜は信じられない様子でエル達を見ながら少女を指す。エルは溜め息を吐くと言った。

【あの方はリューク様ではありません・・・・シオン・サマーコード様・・・・リューク様と体を共有する武道家です】

「ぶ、武道家?」

【はい。実はリューク様は、ある事情で三つの魂を内包しておられるのです。魔法使いであるリューク様を主格に、武道家のシオン様と、仙人であるキリュウ様の三人です】

「仙人?」

【俺っちもキリュウって人には会った事ねぇんだけどよ、あのシオンの姉さんは、ハッキリ言って滅茶苦茶だぞ・・・】

 冷や汗を垂らすカモに明日菜はゆっくりと酒天童子に歩み寄るシオンを見る。

≪この・・・小娘!!≫

 酒天童子は吹っ飛ばされた怒りで、思いっ切りシオンに向かって突っ込んで来る。

「愚かじゃのう」

 だが、シオンは扇子で口許を隠しながら言う。

 ドゴォッ!!

 そして人差し指を思いっ切り振り下ろすと、地面が割れた。酒天童子はその裂け目でバランスを崩して倒れる。

「な、何ちゅう馬鹿力・・・」

【きっとリューク様、接近戦は不利だと判断してシオン様に変わられたみたいですね・・・・】

【そりゃ接近戦だとシオンの姉さんの独壇場だからな〜】

 カモの言うように、シオンの猛攻は続いていた。

「ほれ、ほれ、ほれ!」

 ズドドドドドド!!!

 とても子供とは思えないぐらいのパンチ、キックの連打に酒天童子は為す術も無くやられる。

≪げ、げふっ!≫

 シオンは怪我だらけの酒天童子の首を掴んで軽々と持ち上げた。

「ワシはリュークの様に甘くは無いぞ。とっととツボに戻るか、このまま首を抉り潰されるか二者選択じゃ」

≪あ・・・が・・・がが・・・≫

 酒天童子は信じられなかった。先程、自分と互角に戦っていたリュークもそうだが、この小娘も半端なく強い。むしろリュークと違い、容赦がない分、強い。

「どうする? 抉り潰されるの希望かえ?」

≪あぐ・・・も、戻りまず・・・≫

「良し良し。それで良いのじゃ」

 バッと今度は『一件落着』と書かれた扇子を広げて笑うシオン。ボロボロになった酒天童子はシオンに引き摺られ、接着剤で直したツボに再び封印されたのだった。

 


「フォッフォッフォ。ご苦労じゃったの、シオンちゃん」

「全くじゃ。まぁ久し振りに外界に出れて楽しかったがのう」

 学園長室では、シオンと近右衛門が茶を啜りながら談笑していた。その様子を離れて見ていた明日菜がふとシオンに尋ねた。

「ねぇシオンちゃん?」

「ん? 何じゃ、明日菜殿?」

「シオンちゃんが出てる時、リュークって何してるの?」

「別に何も。ただ眠っておるだけじゃ。記憶は共有してるがの〜」

 だからシオンが出て来た時も戸惑わず、酒天童子を倒せたのだが・・・。

「多重人格・・・じゃないんだよね?」

「うむ。ワシらは・・・正確に言うならワシとキリュウは生まれたばかりのリュークの体に入れられたのじゃ」

「何で?」

「ま、その辺はいずれ話してやろう。それより、明日菜殿は新聞配達があるのではないのか?」

「あ! そうだった!」

「ワシもリュークと変わったら部屋に戻る。ネギ殿も熱があるのじゃろうし、早く部屋に戻られよ」

「う、うん! 失礼します!」

 明日菜は近右衛門にペコリと頭を下げると、カモを肩に載せて部屋から飛びだして行った。

 シオンはお茶を飲み、水羊羹を食べながらポツリと呟いた。

「もぐもぐ・・・・ふぅ。こうして茶を飲みながらまったりする時が一番の至福じゃの〜。コレで日中の縁側なら申し分ないのじゃが・・・」

【シオン様、年寄り過ぎです。っていうか、早くリューク様に変わってください】

「まぁ待て。ワシやキリュウは中々、外に出れんのじゃし、たまにはノンビリさせい」

 ポンポンとエルの頭を叩いて微笑むシオン。エルはハァと溜め息を零した。


後書き

一気に三話も、執筆が早いですねぇ。
リューク君の能力も大体出てきましたし、それに二人目のシオンちゃん。中々管理人好みの人格です。
でもファウストは倒すし最強クラスの鬼はボロクズのように殴り倒すし。少しネギの出番がすくないかなとも感じますが。
オリキャラ主人公のさだめですね。
でも、仙人でキリュウとなると管理人は万難地天キリュウを思い浮かべてしまいます。


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