魔・武・仙の物語 【第三章】
「う・・・」
「あ! リュー君、気が付いた?」
「・・・・・佐々木さん?」
リュークは起き上がると、キョロキョロと自分の周りを見回した。そして、自分が彼女らの部屋の前で倒れた事を思い出す。
「驚いたよ〜。まさか亜子と一緒にドアの前で倒れてたんだもん」
「・・・・そうか。迷惑かけたな」
リュークはフゥと息を吐き、二段ベッドの上から降りた。その際、まで眠っている亜子が目に入ったが、もう心配はなさそうである。
「リュー君、ご飯食べる?」
「いや、良い。今日の準備を取りに行かないといけないしな・・・」
「あ! だったら私も行って良い?」
「は?」
急にそう言ってきたまき絵にリュークは唖然となった。
「リュー君が何処に住んでるか知りたいし!」
「まぁ良いけど・・・」
リュークは頷くと、亜子を起こさないように二人は部屋から出て行った。
「・・・・・テント?」
まき絵は唖然となって目の前のものを見つめた。森の中に張られた黄色いテント。それがリュークの部屋だと言うのだ。
「まだダンボール整理とかしてないからな・・・」
そう呟いて中を見せると、小さなテーブルが置いてあるだけで、後はダンボール箱が積まれていた。リュークは、その中の一つから教材やらスーツやらを取り出す。
「そういえばリュー君、何で袖破れてるの?」
腕を吹っ飛ばされた時、服が消し飛んだ。流石に魔法で服は直せなかったので、リュークは腕が剥き出しになっていた。
「あ〜・・・転んだんだ」
適当に答えるが、まき絵は嘘だと疑わず「そうなんだ〜」と呑気に信じ込んだ。
「リュー君、ご飯とかはどうしてるの?」
「基本的には朝晩はインスタント食品、昼は学食だな」
「うわ・・・体に悪いよ、それ!」
「そうか? 日本のインスタント食品はレベル高いと思うが・・・」
そういう問題じゃない! ってまき絵が詰め寄るとリュークは怯んだ。
「リュー君、こんな所で生活してたら絶対に体壊すよ!」
「そ、そうかな?」
リュークとしては昔、半年間、何の装備も無しに雪山で修行した事もあり、テントあり食料ありなんて贅沢だと思っている。
とか考えてる内にまき絵がダンボール箱とかを持ち出した。
「あの・・・佐々木さん?」
「リュー君!」
「な、何だ?」
「リュー君、私達の部屋で暮らそ!」
「・・・・・・・・・・え?」
「ウチは別にエエで〜」
もぐもぐ、とパンを食べながら亜子はリュークがこの部屋に住む事をアッサリと承諾した。起きた後、まき絵に何で廊下に寝てたのかと問われたら、リュークが『寝ぼけて外に出てた和泉さんを連れて来た』と多少、無理がある話だがそう理由付けた。
「ちょっと待て・・・・そんな簡単に決めて良いのか?」
「だって先生がおれば勉強いつでも見て貰えるやん?」
「そうそう♪」
何の躊躇いも無い二人にリュークは表情を引き攣らせながら、
「だが・・・こういうのは学園長の許可がないと・・・」
「じゃ、取って」
そう言って、まき絵は携帯を差し出した。リュークは溜め息を吐いて学園長に連絡する。
「・・・・・もしもし」
『おお、リューク君か。何じゃ? こんな朝早くから?』
「実は・・・」
リュークは、まき絵と亜子が一緒に住もうと言っている事を近右衛門に話した。
「そんなの駄目に・・・」
『構わんぞい』
「・・・・・おい」
アッサリと許可する近右衛門にリュークは額に指を当てて、青筋を浮かべた。
『ネギ君も木乃香や明日菜ちゃんと一緒に住んどるんじゃし、テントじゃと雨の日は厳しいじゃろ? フォッフォッフォ』
「・・・・・ジジィ」
『じゃ、用件はそれだけじゃな?』
「ああ、ちょっと待て。後で例の件について話があるからな」
そう言われ、近右衛門の声が少し低くなり、『うむ』と返事した。リュークはまき絵に携帯を返し、ガクッと肩を落とした。
「許可出ました・・・」
「やった〜!」
ギュ〜ッとまき絵が抱き付いてきて、リュークは顔を真っ赤にした。
「な・・・な・・・」
「いや〜! アスナ達がネギ君と一緒に住んでて羨ましかったんだ〜! これで私も皆に自慢できる〜!」
「アスナ別に自慢しとらんけどな〜」
亜子が微妙にツッコミを入れるが、嬉しさ絶頂のまき絵と、混乱してるリュークは聞いちゃいねぇ。こうして、リュークは662号室に居候する事になってしまった。
「とまぁ、今日はネギ先生が出張なんで僕が代わりだ」
ネギが出張と言われ、クラス中がざわついた。リュークは近右衛門にネギがファウストに乗っ取られた事を話すと、ネギは出張扱いになった。
相手はリュークに興味を持っているようだから、逃げ出す事は無いだろう。故に倒す機会はあるので、しばらくの間、ネギは出張しているという事になった。
「リューク先生、ネギ先生はどちらへ出張に行かれたのですか?」
「さぁ、僕は聞いてないな・・・」
あやかが質問してきたがリュークは首を左右に振った。
「なぁアスナ・・・ネギ君、朝からおらんかったけど、ほんまに出張なん?」
明日菜の隣に座り、二人と同室の近衛 木乃香が聞いてきた。
「さぁ? そうじゃないの?」
明日菜は興味なさそうに適当に答えて欠伸を掻いた。昨日は全く眠れず、部屋に戻ったらそのまま新聞配達のバイトに出たので一睡もしてないのだ。
だが、それよりもあんな戦闘をして腕まで吹っ飛ばされたのに普通にネギの代わりをしているリュークに、ネギと言い、とんでもないガキだと改めて思わされた。
「じゃあHRは終わる。一時間目は僕の社会だが今日は視聴覚室だから遅れるな」
「「「「「は〜い」」」」」
フゥとリュークは息を吐くと、出席簿を閉じる。
「ああ、それとエヴァンジェリンさん。ちょっと話があるから来てくれ」
「ん?」
と、一番後ろの席に座っているエヴァンジェリンに言うと、彼女は眉を顰め後ろのドアから出て行った。
「何? ぼーやが?」
「ああ」
屋上の扉の前の階段でリュークは昨夜の事を彼女に話した。それを聞いてエヴァンジェリンはチッと舌打ちをする。
「情けない・・・まがりなりにも私に勝ったというのに・・・」
「そう言うな・・・相手がファウストでは仕方ない」
「だが魔法協会も何を考えてる? それ程の敵なら貴様だけでなく、もっと大勢で攻めるべきだろう?」
「お前、大勢に追われた時とかどうした?」
「そんなもん、全員、氷付けにして返り討ちだ」
ハハハハと高笑いするエヴァにリュークは呆れて肩を竦めた。大勢で行ったら犠牲が多くなるからリュークに任されたという事を理解していない。
「僕が本気出せばネギを助けれない事もないが、それだと学園の被害が甚大だからな。と、いう訳で手を貸して欲しいんだが・・・」
「ふん、寝惚けるな。ぼーやが乗っ取られたのは奴自身の甘さのせいだ。そんな奴を助ける義理も義務も無い」
断固拒否るエヴァンジェリンは踵を返して手を振った。
「それに私は呪いのせいで魔力を抑えられているんだ。全盛期の頃ならともかく、今の私では助けれる訳ないだろう」
その言葉にリュークはフッと笑みを浮かべた。
「なら・・・その呪いを解いてやる代わりに協力するというのは?」
「何?」
エヴァンジェリンはピクッとなって振り返る。リュークは腕組みして笑みを浮かべていた。
「僕は精霊魔術師だ。完全には無理でも一時なら貴女にかかった呪いの精霊を操って、解く事が出来る」
「本当か!?」
「どうする? ネギを助けてファウストの怨念を始末するの・・・手伝うか否か?」
「・・・・・・・・・良いだろう」
夜の学園。リュークはエヴァンジェリンと共にネギと戦った橋に来ていた。
「で? 勝算はあるのか?」
「さぁな・・・ファウストが乗っ取った事でネギの潜在魔力が限界以上に引き出されてるからな・・・あいつの本当の力が、どれ程のものかお前も知ってるだろう?」
「ふん・・・」
エヴァンジェリンは悪態を付きながらも笑みを浮かべる。すると月夜を背景に小さな影が二人の前に舞い降りて来た。ギンと二人は目つきを鋭くした。
「・・・・ミニステル・マギの絡繰さんを連れて来なくて良かったのか?」
「茶々丸が戦えばぼーやを傷付ける。出来るだけ無傷でぼーやを戻したいんだろう?」
「そうだな」
リュークはフッと笑うと、抑えているのだろうが凄まじい魔力を放つネギに目を向けた。
【おや、少年。助っ人かね?】
「貴様相手に形振り構ってる場合じゃないんでな・・・」
【構わんよ。一人でも二人でも同じ事だ】
ネギは微笑みながら頷くと、両手に魔力を集中させた。エヴァンジェリンは冷や汗を垂らしながら笑みを浮かべた。
「なるほど・・・確かに凄まじいな」
「やるぞ」
「良し」
リュークは両手を合わせると、三人の足元に大きな六芒星が浮かび上がった。
【これは・・・】
すると今まで橋だった部分が何処までも続く荒野に変化した。それには流石のエヴァンジェリンも驚きを隠せず、リュークを見る。
「(こいつ・・・無限に続く仮想世界を作り出したのか!?)」
現実ではない仮想世界を作り出す事ならエヴァンジェリンにも出来る。だが、こうして通常の空間を別の空間に変える超高等魔法が出来る者など見た事ない。
しかも絶えず魔力を放出し続けなければならないから、膨大な魔力を必要とする。
「さて、エヴァンジェリンさん。貴女の呪いを解除する。此処なら幾らでも暴れられるだろう?」
「な・・・! 貴様、分かってるのか!? この空間の維持と、私の呪いを解除してる間、ずっと魔力を消費し続けるのだぞ!?」
「だから、貴女に協力を求めたんだよ」
フゥを僅かに汗を流して笑みを浮かべるリュークにエヴァンジェリンは目を見開いたが、やがてニヤッと笑った。
「ぼーやと言い貴様と言い・・・無茶するのが好きなようだな」
「まぁな・・・・行くぞ」
グッとエヴァンジェリンに背中を向けさせ、目を閉じて集中する。
「呪いの精霊よ。我が名の下に慈悲深き恩恵を・・・・その呪縛を一時、解き放て!」
ぴしっ!!
リュークはエヴァンジェリンの背中を指で突くと、彼女はガクッと俯いた。が、体をフルフルと震わせると高笑いを上げた。
「ははははははは!! 戻った! 戻ったぞぉ!!」
【ほぅ・・・】
エヴァンジェリンの体から発せられる凄まじい魔力にネギは感心した。
【なるほど・・・真祖の吸血鬼か。これは少々、驚いたよ。このような極東の島国にいたとはね】
エヴァンジェリンは冷笑を浮かべると、彼女の周りに蝙蝠が集まって来て黒いマントになった。
「ふん。私が全盛期の力を取り戻した今、貴様など敵ではない! 行くぞ!」
【ふふ・・・】
エヴァンジェリンとネギは互いに飛翔し、空中で激突した。その際の衝撃で地面がヒビ割れた。
「喰らぇ!!」
エヴァンジェリンはネギの体を傷付けずファウストを追い出すには凍らせるのが一番だと判断し、無詠唱で氷の風を放つ。
だがネギの方もそれを読んでおり、炎を操って氷を防いでいた。
「(奴を凍らせる事が出来たら・・・)」
その様子を見ていたリュークは懐から一本の筒のようなものを取り出し、強く握り締めた。
「(私が手加減してる分を差し引いて互角か・・・・なら)小僧!」
エヴァンジェリンは戦いの手を止め、リュークを呼んだ。
「多少、辛いだろうが時間を稼げ! その間、私が特大の奴でぼーやを凍らせてやる!」
「・・・・分かった。風の精霊よ、我を重力の束縛から解き放て」
リュークは詠唱すると、飛行してエヴァンジェリンの前で止まりネギと対峙した。
「空間維持と解呪の維持、そして戦闘は辛いだろうが踏ん張れるな?」
「なめるな。こんなの修行時代に比べたらどうって事ない・・・」
ゼェゼェと息を切らしていても減らず口を叩くリュークにエヴァンジェリンはフッと笑った。
【今度は君が相手かい?】
「ああ。悪いが本気を出させて貰うぞ」
そう言うとリュークは筒を目の前まで上げる。
「おい、お前・・・それって、まさか・・・」
恐る恐るエヴァンジェリンが尋ねると、リュークは「早くしろ」と言ってネギに突っ込んで行った。
「光よ 刃となれ!」
【!!?】
そして筒を振り上げると、突然、光の刃が飛び出してきた。ネギは目を見開いて振り下ろされた刃を避けた。
【その剣・・・・魔法剣か・・・】
出し惜しみしてくれる、とネギは笑みを浮かべた。
「行くぞ!」
リュークは再び突っ込むと、ネギは両腕に黒い光の刃を作り出し、対応した。ギィン、ギィンと凄まじい攻防が繰り広げられるが、リュークはピタッとネギの背中に手を押し当てた。
「風の精霊よ、荒れ狂う息吹を彼の者に!!」
ずんっ!!
【ぐぅっ!】
ネギは衝撃波を喰らい、吹っ飛ぶ。
「くっ!」
だがリュークは、空間維持、解呪維持、魔法剣、精霊魔法と四つの魔法を同時に行うという荒業をやった為、魔法剣の光が弱まっていった。
【大した少年だ・・・素晴らしいの一言に尽きる。が!】
これで終わりだ、とネギはリュークに突っ込んで行った。だが、その間にエヴァンジェリンが立ちふさがった。
「甘いわ」
【!!?】
「来たれ氷精 闇の精!! 闇を従え 吹雪け 常夜の氷雪 闇の吹雪!!」
すると彼女を中心とし、凄まじい冷気が辺りを覆った。ネギの体は足下から凍っていった。
【ぐ・・・し、しまった!】
ネギは唇を噛み締めると、首まで氷が迫ると体から黒い塊が飛び出した。
「今だ! やれ、小僧!!」
エヴァンジェリンが叫ぶと、リュークは飛び出した。
「浄化の精霊よ! 我が剣に宿れ!」
するとリュークの剣が先程よりも巨大な刃を作り出した。
「精霊剣・・・破魔裂刃!!」
リュークは黒い塊を幾つにも切り裂いた。すると黒い塊は悲鳴を上げ、拡散して消滅した。
「(まさか魔法剣に精霊魔法を上乗せするとは・・・・大した小僧だ)」
エヴァンジェリンはネギを抱えながらリュークの潜在能力に素直に賞賛した。すると辺りの景色が歪み、元の橋に戻った。
リュークは気を失い、下の湖に落っこちて行く。エヴァンジェリンは彼を掴むと、ネギと二人を抱えて橋に降りた。するとそこで彼女の封印も戻ったのか、マントが弾け飛びキャミソール姿になった。
「全く・・・」
エヴァンジェリンは溜め息を吐くと、呑気に眠っているネギとリュークを見る。
「苦労をかけさせる」
そう言ってエヴァンジェリンもドサッと倒れて寝息を立て始めた。やがて、そこへ明日菜とカモが走って来た。どうやら心配になって来たようだ。
「ネギ! リューク! エヴァちゃん!」
明日菜は倒れているネギを抱え起こし、カモが言った。
【大丈夫だ、姐さん。どうやら旦那とエヴァンジェリンがファウストをやっつけたみたいだぜ】
「そっか・・・良かったぁ・・・」
明日菜は安堵の溜め息を吐くと、リュークとエヴァンジェリンを見る。
「でも、どうしよ? 流石に三人を抱えて行くのは無理だし・・・」
【茶々丸にでも協力して貰ったらどうだ?】
「そうね・・・」
明日菜は頷くと携帯を取り出した。その後、茶々丸がやって来て三人は一日中眠りこけた。こうしてヨーロッパを騒がせた事件は解決したのだった。
後書きは五話に纏めて。
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