魔・武・仙の物語 【第二章】


「・・・・・・・・・」

 夜の中庭をリュークは一人、歩いている。ファウストの怨念に取り憑かれている間、何の魔力も感じられない普通の人間と変わらないのだ。

 故に相手が行動してからでしか見つけられないのと、夜にしか出没しないのでこうして見回っている。

 が、リュークは途中でピタッと止まって振り返った。

「お前ら、何やってるんだ?」

「あ、あはは・・・バレた?」

 すると校舎の角からネギ、明日菜、カモが苦笑いを浮かべながら出て来た。どうやら付いて来たみたいでリュークは呆れて溜め息を吐く。

「やれやれ・・・昼間はビビッてたクセに何やってるんだ?」

「ほ、ほら! 一教師として学園の安全は守らないと! ね!?」

「・・・・・守れるぐらい強ければな」

「はう!」

 グサッとネギの胸に矢が突き刺さる。が、その発言に明日菜が猛反発した。

「ちょっと! あんた、ネギがどんだけ凄いか知らないでしょ! こいつ、あのエヴァちゃんに勝ったのよ!」

「む・・・」

「あ、アスナさん・・・」

 そのエヴァと同等かそれ以上の化け物を相手にしようとしてるのだが、リュークは妙に彼女の迫力に圧され、小さく「ご、ごめん」と謝った。

【う〜む・・・あの旦那を怯ませるとは・・・】

 カモはネギの頭の上で何やらウンウンと頷いている。

 リュークは溜め息を吐くと、ネギ達に背を向けて再び歩き出した。

「だが良いな、ネギ? 今度の相手は破壊衝動しかない怨念だからな。しかも学園の人間に取り憑いてるんだ。出会ったら神楽坂さんを連れて逃げろよ」

「う、うん・・・」

 ネギは頷くと、ギュッと杖を握り締めた。

 しばらく巡回している内に三人と一匹は学園の最短であるブリッジまでやって来た。

【お! 此処は兄貴とエヴァンジェリンが戦った場所じゃねぇか】

「本当ね・・・あの時は苦労したわ」

 カモの言葉に明日菜が腕を組んで苦笑いを浮かべながら同意した。

「はは・・・ああ言うのは、しばらく勘弁わぷっ!?」

 ネギもその会話に入っていたが、急に立ち止まったリュークにぶつかった。

「ど、どうしたの、リュー君?」

 鼻の頭を押さえながら尋ねるネギに答えず、リュークは前方を睨み付ける。

「あ? あれって和泉さんじゃない?」

 リュークの視線の先にはネギのクラスの和泉 亜子がボーっと空を見上げて突っ立っていた。が、春とは言え寒空の下、何故かTシャツと半ズボンだけだった。

「和泉さ〜ん、そんな格好してたら風邪引く・・・」

「待て!」

 近寄ろうとした明日菜の手を掴んでリュークが止める。明日菜は何だと思ってリュークを見ると、亜子がゆっくりとこちらを見た。

 すると彼女はゆっくりと手を伸ばし、ネギとカモがハッとなった。

「アスナさん、こっち!」

「え? ちょ、ちょ・・・!」

 ネギが慌てて明日菜を引っ張り寄せると、亜子は巨大な火の玉を放った。

「ちぃっ! 守れ!」

 リュークは舌打ちすると、自分達を守るよう障壁を張った。が、火の玉は強力で障壁にヒビが入り、リュークは歯を軋ませた。

「壁よ、鏡となれ!」

 ヒビの入っていた障壁は鏡のようになり、火の玉を亜子に向かって跳ね返した。

「い、和泉さん!」

 このままでは火の玉は亜子に当たるのでネギは叫ぶが、驚いた事に彼女は火の玉を受け止めると、パンチで跳ね返した。

「「【えぇ!?】」」

 魔法をパンチで跳ね返したのでネギ、明日菜、カモは驚きを隠せない。

「水よ、守れ!」

 が、リュークは冷静に今度は水の壁を作り出して火の玉をかき消した。

「ちょ、ちょっと! 何で和泉さんが魔法使ってんのよ!?」

「・・・・・・・どうやらファウストの奴、和泉さんの体に乗り移ってるようだな」

「え・・・?」

 明日菜は一瞬、唖然となるがネギを見ると彼も神妙な顔をして頷いた。

 まさかクラスメイトが悪霊に取り憑かれているなど信じられず、彼女は呆然となったが、亜子は両手を広げて強烈な風を放った。

「風よ、弾けろ!」

 すかさずリュークは周囲の風を操り、相手が放った風と混ぜ合わせて弾け飛ばした。

「どうしようリュー君・・・」

 そこへ明日菜とカモを離れさせてネギがやって来た。

「・・・・・流石に彼女の肉体を無傷で済ますのは無理か」

「だ、駄目だよ! 自分の生徒を傷付けるのは・・・」

 そう言われてリュークは表情を顰める。セオリーとしては、肉体が使い物にならなくなったと判断し、出て来た所を叩くのがベストなのだが、それが駄目だとなると状況は困難になる。

「なら・・・氷よ、封じろ!」

 亜子に向けてリュークが手を広げると、彼女の両手両足が凍り付いた。グッと力を入れて脱出を試みるが出来ない。

「今だ!」

 リュークは相手が身動きが取れなくなった隙を突いて、彼女を気絶させようと駆け出した。

 が、間近まで迫った瞬間、亜子の口許が歪んだのでリュークは目を見開く。

 ドスッ!!

 すると亜子の口から黒い影が飛び出し、リュークの右腕が切り飛ばされた。

「リュー君!」

 切り口から血を垂れ流す腕を押さえるリュークにネギが駆け寄ろうとするが、そのネギに黒い影が迫った。

「! ネギ、逃げろぉ!」

 リュークは目を見開いて叫んだが、黒い影はネギの胸に入り込んでいった。

「(しまった!)」

 ガクッと首を垂らすネギを見てリュークは目を細めた。すると、ゆっくりとネギは顔を上げる。

【ほう・・・中々、強大な魔力の持ち主だ・・・】

 ネギの体が乗っ取られ、リュークは唇を噛み締めた。

「ファウスト・・・! 貴様、意志を・・・」

 ネギの声とダブって聞こえる低い声にリュークは驚く。ネギはフッと笑みを浮かべ、持っている杖を放り投げると、手を握ったり開いたりした。

【この体なら全盛期の力を際限なく発揮できるよ】

「くっ・・・!」

 渋面を浮かべながらもリュークは無事な手で指を鳴らす。すると亜子を拘束していた氷が割れた。このまま放っておけば凍傷を起こすからだ。

「氷よ、貫け!」

 リュークが言葉を発すると、地面に散らばった大量の氷の粒が弾丸のようになってネギに向かっていく。

【ふ・・・】

 だがネギは笑みを浮かべると、詠唱も無しに障壁を作り出して氷の弾丸を防いだ。

【甘いぞ、少年。私の力によって、この体の持ち主の潜在魔力が一気に解放された。その程度の魔法を防ぐ事など容易だ】

「なら、これなら・・・」

 リュークは六つの針を取り出し、ネギの周囲に放った。すると針同士が結びつき、ネギの足下に六芒星が浮かび上がった。

【ほう・・・呪縛結界か】

「裁かれろ!」

 すると六芒星が光り出し、ネギの体を包んで行く。

【どれ・・・久方振りにやってみるか。我、天地より来たり。天は流れ、地は裂ける。ファウストの名において命ずる】

「(まずい・・・!)」

 凄まじい程の魔力がネギに集中して来る。リュークは後ろで倒れている亜子を見ては唇を噛み締めると、手を広げた。

「我らを守れ!」

【スタークェイク】

 すると突然、空から幾つもの流れ星が降って来て、地面を抉りながらリュークに向かって突っ込んで行った。

 バシィッ!!

「くっ!」

 その攻撃はリュークの張った障壁で防がれるが、その威力は凄まじく押され始めた。リュークは表情を顰めながらも静かに目を閉じた。

「光の精霊よ、偉大なる守護の力で我らを守れ!」

【!?】

 すると突然、リューク達を守る盾が巨大化し、ネギの攻撃を拡散させた。

【そうか・・・てっきり君はルーン魔法の使い手かと思っていたが・・・・】

 ネギは手を下げるとフッと笑みを浮かべた。

【なるほど、本来は精霊魔法の使い手という訳か】

 言うと、ネギは踵を返した。

「待て・・・」

【・・・・そろそろ夜が明けるのでね。失敬するよ。だが、君には興味を持った・・・改めて決着をつけようじゃないか】

 そう言うとネギは杖も無しに何処かへと飛び去って行った。

「・・・・・・・・・・」

【旦那〜!】

「リューク!」

 しばらくネギが飛んでいった後を見ていたが、先程の衝撃を聞いて明日菜とカモが戻って来た。

「って、きゃああああ! あ、あんた腕!」

【だ、旦那! 腕、ぶっ飛んでるじゃねぇか!】

 明日菜とカモはリュークの右腕が千切れてるのを見て悲鳴を上げる。

「ああ、これか・・・」

 が、リュークは血がドバドバと流れているのに気にした様子も無く、千切れ飛んだ腕を拾うと傷口に当てた。

「カモ、ちょっと押さえててくれ」

【お、おう】

 言われてカモは下からリュークの腕を押さえる。リュークは傷口に触れると、目を閉じた。

「癒せ」

 すると傷口が光に包まれ、何事も無かったように腕がくっ付いた。

「うわ・・・凄・・・」

 右手の指を動かして、ちゃんと神経も元通りになってるのを確認するとリュークは髪をクシャッと掻いた。

「参ったな・・・ネギの体を乗っ取られるとは・・・・」

「【何ぃぃぃぃぃ!!!!!?】」

 困ったようにポツリと呟くと、明日菜とカモが大声を上げて突っ掛かって来た。

「ちょ、ちょっと! それ、どういう事よ!?」

「どうもこうも言葉通りだ・・・・油断したな」

「も、元に戻せるんでしょうね!?」

「・・・・別の肉体を奪えば元に戻るが、少なくともネギより上質な肉体はこの学園に無いからな・・・」

 強大な潜在力を秘めており、更には魔法使いであるネギの体はファウストにとって、最高のものだ。故に、彼が新たな肉体を求める可能性はゼロに近いのである。

「まぁ奴は僕との決着を望んでるようだから学園から逃げる事は無いようだが・・・」

「じゃあ、ネギと戦うの?」

「僕だって友人を傷付けるつもりは無い。多少、危険ではあるが次は決着を付けてやるさ」

「んにゃ? 何や〜?」

「【!?】」

 その時、今まで意識を失っていた亜子が目を擦りながらムクリと起き上がった。

「あれ? 明日菜にリュー君、ウチ何でこんなとこで・・・」

 ピッ!!

 キョロキョロと辺りを見回す亜子だったが、リュークが指を彼女の額に当てると再び地面に倒れ込んだ。

「ちょ、ちょっと! 何したのよ!?」

「心配するな。眠って貰っただけだ。今の内に部屋に連れて帰れば『夢でも見た』で終わってくれる」

 そう言ってリュークは彼女の肩に腕を回すと部屋を聞いた。その時、ふと心配そうな顔をしている明日菜に向かって言った。

「大丈夫だ。ネギなら絶対に僕が助ける」

「え? あ、う、うん・・・」

「彼の地へと導け」

 そう呟くとリュークと亜子の体が光に包まれて消えていった。

「ネギ・・・」

【大丈夫だって、姐さん。旦那なら兄貴を元に戻してくれるから】

 ポンと肩に乗っかってカモに言われ、明日菜は小さく頷いた。

 

 662号室・・・・・そこが亜子とクラスメイトの佐々木 まき絵の住んでいる部屋だ。

 リュークは彼女を降ろすと、突然、目の前がクラッとなった。

「あ・・・」

 そう言えば、腕は元通りくっ付けたが血を流し過ぎて、更には強力な魔法に空間転移までやったので、完璧に貧血を起こしてしまった。

「僕とした事が・・・・ミスったな・・・」

 フラッとリュークはそのまま力無く倒れてしまった。

「ん〜・・・何、こんな朝早く・・・って、亜子にリュー君!?」

 リュークの倒れた音に気付いて、まき絵はドアを開けると二人が倒れていたので一気に眠気がすっ飛んだ。

「ど、どうしたの、二人とも!」

 慌ててまき絵は亜子を彼女のベッドに、リュークを自分のベッドに寝かせるのだった。


戯言遣いsaraの感想
いきなり大ピンチなんですけど・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、まぁ、いいか(いいんかい!!!)
ネギって魔法総量に関しては上級の筈ですからねぇ、目をつけられたら離してはもらえないでしょうが。
何より、リューク君。翌朝のまきえと亜子の間で何かが起こるのか、起こって欲しいと痛切に願う、管理人の勝手な願望です。


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