魔・武・仙の物語【第十二章】

 


 修学旅行三日目。リュークは朝食を取った後、エルと共にロビーでくつろいでいた。今日は完全自由行動日なので私服許可されている。リュークはシャツの上に半袖のパーカーを着て、半ズボンを穿き、首からはロザリオを下げている。

「はぁ・・・昨日は散々な一日だった」

【申し訳ありません、リューク様・・・つい、アホガモと朝倉様の口車に乗って・・・】

「良いよ。お前も僕の為を思ってやってくれたんだろう?」

 そう言われ、エルはキュンと胸が高鳴った。

【うう・・・何てお優しいお言葉。私は・・・リューク様にお仕えできて幸せです!】

「大袈裟な・・・」

 リュークは苦笑し、懐から学園長に渡された親書を出す。

「今日は完全自由行動だからな・・・とっととコレを西の長に渡すか」

【けど、それって何なんです?】

「さぁな」

 別段、興味ないので懐にしまう。

「さて、ネギと一緒に総本山に・・・」

「リュ〜君〜!」

「うわ!」

 立ち上がった途端、後ろからまき絵と裕奈に抱き付かれた。

「ねぇリュー君! 一緒に大阪行こう!」

「USJ!」

「え? い、いや僕用事が・・・」

 顔を赤くして言うが、二人は更に強く抱き締める。

「ん〜! 本当はネギ君とも一緒に行きたかったんだけど、もういないんだよね〜」

 逃げたな・・・リュークは瞬時に悟り、目を細めた。

「だからリュー君、一緒に行こ!」

「・・・・・はぁ。分かったよ」

『いぇ〜い!』

 渋々、了承したリュークにまき絵と裕奈はハイタッチを交わす。それにエルが小声で話し掛けてきた。

【よろしいのですか?】

「断るに断り切れなかった・・・しょうがないから夜に持って行くよ」

 フゥと溜め息を吐き、リュークは四班と一緒に大阪に行く事になった。

 

 江戸は武士の町、大阪は商人の町と言われるように、日本文化の中心は大阪と言っても過言ではない。食べ物に至っては食い倒れという言葉があるように、大阪の食べ物は『美味い、早い、安い』が基本である。

 近年、USJが出来て大阪は更に賑わいを見せた。四班はリュークを連れてUSJに来ていた。

「ねぇねぇ! どのアトラクションから行く!?」

「ジュラシック・パーク!」

「ET行こうよ〜!」

 ワイワイ、と何処に行こうかと、かなりのテンションで揉めている。リュークはたこ焼きを食べながら、苦笑してその光景を眺めていた。

「やれやれ・・・元気だな」

「リューク先生は随分と落ち着いてるな」

「ん?」

 ふとリュークの横に並んだのは、四班では一人異質な雰囲気を放っている真名だった。褐色肌に中学生とは思えない背の高さにスタイル。そして肩に何かを背負っている。

「龍宮さんは混じらないのか?」

「あの中には流石に・・・な」

 真名は苦笑して言うと、リュークはたこ焼きを差し出した。

「食べるか?」

「ああ、頂くよ」

 頷き、真名はたこ焼きを一つ食べる。

 キィィィィィィンッ!!!!!!!

「!!?」

 その時、金属を擦ったような音が辺りに響いた。

『きゃああああああああああああ!!!!』

『うわあああああああああああ!!!!』

 すると空間が歪み、周りの人々が悲鳴を上げて耳や頭を押さえ出した。リュークは片目を閉じ、目を鋭くさせる。

「くっ! これは・・・!」

【リューク様! 皆さんが・・・!】

 エルに言われ、ハッとなると四班の皆も頭を押さえて蹲っていた。

「痛い! 痛い! 頭が割れるよ〜!」

「あ・・・あぅ!」

 やがてUSJの空が煙に覆われように黒く染まり始めた。一般の人々は涙を流し、頭に直接響く不快音に次々と気を失っていった。

「くっ! リューク先生、何なんだコレは・・・!?」

 真名は頭を押さえながらリュークに尋ねて来た。リュークは口を開いたが、ハッとなって顔を上げた。

「悪いな〜、ボン。ちょっくら一般の方々には眠って貰ったで」

「!?」

 ズンッ!!

 現れたのは神鳴流剣士の鬼道坂 京と目を閉じた黒髪の少女だった。リュークは黒髪の少女を見て、目を見開く。

「お前・・・・指名手配犯のステア・アウレオルス・・・?」

「その通りです。リューク・フォールサウンド」

 黒髪の少女――ステア・アウレオルスはトランプを取り出すと、クラブのJのカードを抜いた。

「この空間は私が創り出した狂鳴空間です。並の人間なら、一分と持たず意識を失う。流石に貴方は無事なようですね」

 それでも先程から頭がガンガンし、リュークは強がった笑みを浮かべる。

「ボン、悪い事は言わん。近衛 近右衛門から預かったブツを渡しぃ」

「くっ・・・」

 リュークは自分の後ろで頭を押さえている真名を見て舌打ちした。此処で戦えば彼女を巻き込んでしまう。リュークはマテリアルソードを抜くと、二人に向かって構えた。

「それが答えですか・・・仕方ありませんね」

「自分の生徒巻き込んでも知らんでぇ!!!」

 京が言うや否や刀を抜いて突っ込んで来る。リュークはもう、真名に魔法が見られても仕方が無いと判断し、迎撃した。

「雷よ! 刃となれ!」

 するとマテリアルソードから雷の刃が発生し、京の刀を受け止める。リュークの動きが止まっている間、ステアはクラブの8のカードをリュークに向ける。

【させません!】

「!?」

 が、幾つもの刃が飛んで来てステアは後ろに飛び退いて振り向いた。

「あなたは・・・」

 そこには黒豹ぐらいの大きさになり、漆黒の刃の翼を生やしたエルがいた。

【貴女の相手は私が致します】

 バサッと刃の翼を広げて言うエルに、ステアはフッと笑みを浮かべ、トランプをシャッフルした。

「使い魔の分際で・・・面白いわ」

 ピッとスペードの3を取り出すと黒塗りの刃の剣が彼女の手に収まった。そして、ステアとエルは激突した。

「はぁ!! 斬空閃!!」

「くっ!」

 気の刃をリュークはかわすが、頭痛のせいで反応が僅かに鈍り、脇腹が切れた。

「癒せ」

 すかさず脇腹を押さえて治癒魔術をかける。その隙に京が詰め寄って来て、蹴りを放った。

「げほっ!」

「貰うた!!」

 ブンと刀を振り上げ、リュークを斬ろうとする。

 ガンッ!!

「何!?」

 だが、何処からか銃弾が飛んで来て刀を弾いた。リュークは後ろを向くと、真名が苦しそうに膝を突きながらも銃を構えていた。

「龍宮さん!?」

「くっ・・・リューク先生、今のはツケにしとくよ」

「え? あ、いや・・・何で?」

「ふふ・・・私は刹那と仕事仲間でね。リューク先生やネギ先生の事は知ってるよ」

 そう言われリュークは目を見開くが、やがてフッと笑みを浮かべた。

「なるほど・・・なら、そこから離れられるか?」

「・・・一人で大丈夫なのか?」

「ああ。むしろ、いたら戦いにくい」

 言うと、リュークはマテリアルソードに手を添えた。

「闇の精霊よ 我が剣に宿れ!」

 すると先程まで電撃を迸らせていた刃が、巨大な黒い光の刃になった。見ただけで凄まじい力を感じた真名は確かに足手まといにしかならないと感じ、フッと笑みを浮かべてその場から離れた。

「はぁっ!!!」

 リュークが剣を振るうと、闇の刃は地面を抉り京に向かう。

「(ヤバ・・・!)」

 京はその刃の危険を感じ、慌てて横に飛んで避けた。抉られた地面を見ると、綺麗さっぱり無くなっていた。

「闇の力は物質崩壊・・・・防御すれば貴様の体が崩壊するぞ」

「はは・・・自分、オモロい! オモロすぎや!!」

 京は楽しそうに笑うと、手に気の力を集中した。

「斬空掌散!!」

 すると掌から幾つもの気の弾丸を飛ばす。

「鏡よ! 我が身を護る盾と・・・」

「こっちや」

「!?」

 リュークが気付いた時には京は背後にいた。どうやら斬空掌散は囮で、それを追い抜いてリュークの背後に回り込んでたようだ。

 京は刀を思いっ切り振り下ろした。

「ぐああああ!!!」

 リュークの悲鳴が木霊する。エルはハッとなり戦いの手を止めた。

【リューク様ぁ!】

「余所見はいけませんわ」

【!?】

 その直後、巨大な爆発が起こった。

「ぐ・・・ぅ・・・!」

【リューク様!】

 少しして煙が晴れると、エルを庇い、ステアの攻撃をモロに受けたリュークはガクッと膝を突いた。服はボロボロになり、背中からはプスプスと煙を上げている。

「ふむん」

 京は服が吹き飛んだ際に飛んだ親書を拾い、自分達を睨み付けているリュークを見る。

「ステアちゃん、今のカードは?」

「スペードの5。そんなに威力はありませんが、あの至近距離で受ければダメージは大きいですね」

 彼女の言う通り、リュークはマテリアルソードを落とし、地面に崩れ落ちた。

「(ダ、ダメだ・・・・この空間内じゃ・・・力が・・・)」

 ずっと集中力で我慢していたが、背中の痛みで一瞬で散ってしまった。

【リューク様! 申し訳・・・】

「エル、謝るのはどうでも良い・・・・それより・・・」

 ボソッとリュークはエルに言った。エルはハッと目を見開くと、翼を広げ飛び立って行った。

「うわ。助けた使い魔に見捨てられて逃げられとる・・・」

「無様ですね」

 京とステアがそう言うと、リュークはフッと笑みを浮かべて立ち上がった。フラつきながらリュークは地面に手を添えた。

「氷よ 走れ」

 ビキキキキッ!!!

 すると氷の波が一直線に二人に襲い掛かった。

「はん! こんな喰らうかい!!」

 バキィッ!!

 京は刀を叩きつけ、氷の波を砕いた。だが、リュークは掌を彼らに向けて次の魔法を放った。

「火よ、飛べ」

 今度は火の玉が一直線に二人の足下に飛んで行った。そして、先程の氷に直撃すると、一気に蒸気が噴出した。

「!?」

「何やて!?」

「これでも教師やってるんでな」

 氷と炎を利用して蒸気を発生させる。リュークは蒸気に紛れて二人の間合いを詰めてきた。そして即効で石の刃を作り出し、薙ぎ払った。

 ガキィンッ!!

 だが、石の刃は二人に当たる事無く、彼らを護るように張られていた障壁に防がれた。ステアはハートのQのカードを出していた。

「見事な奇襲ですが私の方が早かったですね・・・」

「くっ・・・」

 リュークは後ろに飛んで二人との距離を保つ。ハァハァと息を切らせながら、リュークはステアを睨み付けた。

「残念です・・・貴方ほどの才能を費やすなど・・・」

【リューク様!!】

『!?』

 その時、上空からエルが叫び、リュークは笑みを浮かべた。そして、地面に手を付くと、USJを覆い尽くしていた空間が元の空間に戻った。

「な・・・しもた!」

「水と雷の精霊よ 汝らは踊る 罪深き者達に裁きを与えよ!!」

 通常空間に戻ると、リュークは即効で精霊魔法を繰り出した。ステアは防御しようとカードを出すが、その威力は通常の精霊魔法よりも凄まじく障壁を貫いて二人を吹き飛ばした。

「ぐあああ!!」

「きゃああ!!」

 上空に吹き飛び、ドシャッと崩れ落ちた二人を見て、リュークはフゥと息を吐いた。

【リューク様!】

「ああ、エルか。陣書きご苦労だったな」

 実はエルは逃げ出したのではなく、リュークに言われUSJ全体に魔法陣を引いていた。それでステアの創り出した空間を打ち消したのだ。

「さて、親書は返して・・・!?」

 ギュルッ!!

 二人に歩み寄ると、その前に水柱が上がった。すると白髪でリュークと同じくらいの少年が現れた。

「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト・・・」

「(西洋魔術師!?)」

「小さき王(バーシリスケ・ガレオーテ) 八つ足の蜥蜴(メタ・コークトー・ポドーン・カイ) 邪眼の主よ(カコイン・オンマトイン)」

「(マズい!)」

 リュークはハッとなって、詠唱を開始した。

「風の精霊よ 汝の領域は絶対の居城 我が衣となりて天空を突き抜けろ」

「時を奪う(プノエーン・トゥー・イゥー) 毒の吐息を(トン・クロノン・パライルーサン) 石の息吹(プノエー・ペトラス)!!」

 白髪の少年が手を向けると煙が発生したが、リュークが強力な竜巻を自身とエルを護るように発生させ、煙を吹き飛ばした。

「流石にやるね・・・けど、二人は連れて帰るよ」

 少年は言うと、京とステアと一緒に水のゲートを利用してその場から消え去った。リュークは竜巻を消すと、既にいない三人に舌打ちした。

「ちぃっ! 逃げられたか・・・」

【リューク様、どう致します?】

 元のネコサイズに戻り、エルが尋ねるとリュークは空を見上げた。

「・・・関西呪術教会の総本山に行く。僕の所に来たという事はネギ達の方も恐らくは・・・」

「リューク先生!」

 と、そこへ真名が駆け寄って来てリュークは台詞を止めた。

「あの変な空間が消えたからもしかしてと思ったが・・・勝ったのか?」

「・・・・いや、逃げられた」

「そうか・・・」

 そう言われ真名はリュークの体を見る。服はボロボロで、背中には大きな火傷の跡がある。だが、リュークは辛そうな素振りなど全く見せない。

「大丈夫・・・なのか?」

「ん? ああ、これか」

 言われてリュークは自分の体に手を当てて治癒魔術を唱えた。すると見る見る内にリュークの傷が癒えていく。

「問題は服だが・・・エル」

【はい】

 エルは頷くと、ポンと煙を上げて黒い半袖のシャツに変化した。リュークはソレを羽織る。

【着心地は如何ですか、リューク様?】

「ああ。悪くない」

「それで? リューク先生はこれからどうするんだ?」

「とりあえず地面直して、USJを楽しむとするよ。いきなり消えたら、佐々木さん達もつまらなくなるだろうしな。向こうもネギや桜咲さんがいるし、大丈夫だろう」

 フッと笑って、リュークは壊れた地面を直し始めた。その姿を見て、真名はフゥと息を吐いて呟いた。

「最初の頃より随分と変わったな・・・」


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